一話 ひとまず魔王から落としてみようか
「待っていてください王女様……!!たとえ何年掛かろうとも、必ず貴女を魔王の手から救い出して見せますッ!!!」
勇者様の決意を聞いた時、私は素直にこう思った―――
「いーや、何年もは長くねぇか?」
と。
そんな年単位でじっと待ってられませんって勇者様、ここが何処で貴方とどれくらい距離が離れてるかは知りませんけど、んなもん待つくらいなら自分で脱出してやりますわ。
「助けに来ようとしてくれるのは嬉しいですよ?嬉しいですけど……」
そもそも、だ。
ハッキリ言ってタイプじゃないんですよねあの勇者様。私はもっとダンディなイケオジが好きなわけでして、同年代の若者に言い寄られても一切キュンと来ない。
というのも、告白すると私は人生二週目、所謂「転生者」というやつなのだ。
華やかなJK生活を過ごしていたというのに、気づけば大国の王の娘として生まれ変わり。なんて名前の国だったかな……確かモナークとかモナルドとかそんな感じの国の王女様だ。精神年齢的には余裕で成人済みなので、いよいよもって同年代の異性とかありえません。
仮にここから救出されたとして、待っているのは勇者様との結婚という定番路線。先日うちのパパ……つまり王様が勝手にお決めやがった婚姻なのだが、せっかくの第二の人生、もっと自由に恋愛したいと思っていた。
「ん?待てよ……。そう考えるとこの状況って、寧ろチャンスなのでは……?」
軽く整理してみよう。
私は勇者様との結婚を控えている、魔王に囚われた王女様。この場所が何処かは分からないが、恐らく魔王城的な城の中であり、勇者様の口ぶりからして祖国とは遠く離れている。
「なら、自力で脱出さえ出来れば自由の身では!?」
はい、プラン決定。
城から抜け出しさえすれば、後は身分を隠すなどして逃げられる。勇者様の頑張りを無下にするのは少し良心が痛むけれど、最優先すべきは私自身である。
うっわー!テンション上がってきたぁ!!
転生してから十七年、求め続けていた自由の身が、遂に手の届く距離まで近づいている!攫ってくれてサンキュー、魔王!
「いや〜、王女の身分を捨てようとどれだけ奮闘した事か……」
思い返すはパッパ(王様)との激闘の日々
社交界で悪徳貴族を誑し込んでみたり、厳重に保管されている伝説の剣を盗み出してみたりと色々暴れ回ったのに、あの王様、親バカすぎで全部許すんですよね……。私が根っからの極悪人だったらどうする気だったんですか本当に。ここを出た暁には本気で盗みに入ってやりましょうか。
「よし!そうと決まれば、まずは手持ちの確認からですね」
そう思って自身を弄ってみるも、記憶にない純白のドレスを身に着けているくらいで、残念ながら他には何も持っていなかった。
「状況的には……玉座の横で鉄格子に捕らえられてるって感ですか」
辺りを観察すると、いかにも高価そうな赤絨毯の先で豪勢な椅子が主人を待っている。そしてその横に私が位置するわけたが、手を伸ばせば冷たい鉄の棒、つまり特大サイズの鳥籠の様な檻で閉じ込められていた。
「他に何か目ぼしい物は……鏡くらい」
壁に掛けられた一枚の鏡。そこに映る私の姿はいつも通り顔色が悪い。青白い肌、銀色の長髪、紅い瞳。兄妹から「吸血鬼」とも例えられたが、母親譲りの容姿は相変わらず自分でも見惚れてしまうほどに整っている。
うっし、状況整理完了。
さっさと抜け出してやりますか。最短ルートは……そうだなぁ……。
私が考えるに、この後とれる行動は大きく分けて二パターンある。
それは「説得」と「強行」だ。
まず説得についてだが、これは私を連れ去った張本人、ようは魔王さんを何とか説得し、ここから解放して貰うというやり方だ。何故私を連れ去ったのかよく分からんが、わざわざ捕らえたのだから魔王は何かしらの利益を求めている筈。となれば、その利益を私が与える……または与えられるというブラフを信じ込ませさえすれば、無力な王女なぞ必要無くなるワケである。
いや、そもそも交渉を上手く進められたら「利益を与えるかわりに私をここから逃がしてくれ」も可能だな。このルートメインで考えておくか。
次に強行パターン。これは単純明快で、普通に玄関から「さよなら〜」と出ていってやろうというモノだ。まぁ、当然そう上手くいくとは思ってないし、どうせ簡単に脱出できないよう仕掛けが施さるているだろう。
「ま、王国の城は何度も抜け出したんだ。魔王城だって余裕で脱獄……いや、脱城してやりますとも」
気合十分。
改めて頭の中を整理しながらその時を待っていると、ガゴン、と
馬鹿デカい王室の扉がゆっくり開いた。
「ようやく目が覚めたか。シロノ王女よ」
コツコツ、とブーツの音と共に男がやって来る。え?この御仁が誰かって?それは勿論、このタイミングでこの部屋に入ってくるヤツなんて決まっている。
私を攫った、魔王さんだ―――。




