表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍、電子書籍発売中】この結婚が終わる時  作者: ねここ
第二章 ロラン・ジュベール

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/144

最終話まで残り二話  ねじ曲げられた真実の中で

『あなたを愛することはない』


 あの日ロランがジゼルに放った言葉は大きな間違いだった。


 未熟なロランが愛を知り、もがき苦しみながら自覚した感情は真実だ。


 だが、今その胸の中にいる人はシャルロット。ジゼルの手を離したのもロランなのだ。

 そこにどんな理由があろうとも、今、目の前にいるジゼルには届かない。

  

『やっぱりあなたは私を選ばなかった』


 と、ジゼルの瞳は語った。


   *


 「フフフ……」


 起き上がったジゼルが笑った。力無くもれたその失笑がジゼルの心が閉ざされたのだと物語る。

 

 心が通じ合えたあの瞬間が幻のように消え、悲鳴に近いその笑がロランの心を追い詰める。一刻も早くその扉を開ける鍵を探さなければならない。このまま永遠に取り戻せなくなると、深い霧が立ち込める思考の中で取り繕う言葉を探し始める。


 だが、むやみやたらに手にする言葉は届きそうにない薄っぺらい言葉。

 絶望に震え、泣いている愛しい人に伝えなくてはならない唯一の言葉が、見つけられない。


 ロランは瞬きもせずジゼルを見つめ、幾千幾万の言葉を探し続ける。動揺し焦る心、動かない身体、目の前にいるジゼルが途方もなく遠い。

 

 ジゼルはゆっくりと立ち上がり歩き出そうとする。だが足元から崩れるようにしゃがみ込みポロポロと涙を流し始めた。お茶会以来見るジゼルの涙。

 あの時の涙は悲しみの中でもロランに対する感情が見えた。だが今は全く違う。

 涙を拭いロランを見つめるジゼルの瞳は人生を諦め、その涙は感情さえもなくした色の無い涙だった。


 その姿にロランの心臓がゆっくりと握りつぶされる。呼吸困難になったかのように息が吸えない。泣き出すジゼルに駆け寄り、誤解だと伝えたい。だが、ジゼルの虚な瞳は完全にロランを拒絶し、その涙を止めるすべはもう無いのだとロランに突きつける。 

 

 ロランが貫いてきた姿勢はシャルロットの『私を選ぶ』という言葉の前になすすべなく、崩れた。

行動に真実を委ねた結果、咄嗟の行動で真実がねじ曲がった。

 

 混乱する頭と感情。見つからない言葉。そして、魔力を失い言うことを聞かない体。


  *

  

 シャルロットはロランの変化に気がついた。いつものロランなら魔法でシャルロットを拘束し、一切話せないようにするだけの力がある。だがこの状況でもロランはシャルロットを野放しにし、何一つ言葉と行動以外で手を打たない。


(ロランは魔法を使わない?)


 ロランを抱きしめるシャルロットは拘束魔法をロランに使った。通常ならそんな魔法はロランには効かない。だが、明らかにロランの身体は動かなくなった。

 

  *



 ロランは身体を拘束された。シャルロットに気付かれたのだ。


 その瞬間朦朧としていた意識が戻り、自分を取り戻す。


 何があっても、どんな結果になろうともジゼルに思いを伝えなくてはならない。

 

 ロランは涙を流し悲しみに暮れるジゼルの元に向かおうと体を動かすが、拘束魔法に贖う魔力がロランにはない。


 それでも抵抗する。シャルロットにどこまで知られているか分からない中、強い魔法が使えないと知られたくない。

 

「シャルロット! 悪戯はやめろ!!」


 ロランは怒気を孕ませシャルロットに言う。言葉だけで解決したい。先ほどまで一部の弱みも見せないように気を張っていた。だが、今その張り詰めていたものが砕けそうになる。


 それでもロランは虚勢を張りシャルロットに圧力をかけジゼルの元に駆け寄ろうと体を動かす。けれど、指一本動かせない体に目の前が真っ暗になった。

 

 ほんの一メートル先にいるジゼルが途方もなく遠くに感じ、もう二度と届かないかもしれないという予感が頭をよぎった。


 ジゼルは虚な眼差しをロランに向けている。結婚当初のジゼルの眼差し。ロランの心臓がその眼差しに貫かれる。ジゼルは完全に誤解したのだ。


 ロランは動揺し、声をかけようとするが言葉が出ない。ジゼルの深い悲しみを讃えた瞳がロランの感情を奪う。


 ジゼルはロランを見つめたまま涙を流し続ける。


「…………!!」

 

 何から伝えたら良いのか、何を伝えれば良いのかロランにはわからない。言葉が一切紡ぎ出せない。これは誓約魔法ではない。ロランの精神が限界を超えつつあるのだ。


 ジゼルは感情をあらわにし泣き始める。その姿にロランも涙が滲む。


(どう説明すればいい? どうすれば)


 ロランは呆然とジゼルを見つめる。何を言ったら良いのか、何を伝えたら信じてもらえるのか、そもそもジゼルが何を信じているのかさえ分からない。シャルロットはこの状況を楽しむようにロランを抱きしめ続ける。

 

「……!!!」

 

 ようやく信じてくれたジゼルの手を離したのはドラゴン王の卵を守るためだと口にしたらジゼルは信じてくれるのだろうか?

 

 だが、その言葉を聞いたシャルロットは、意地でもドラゴン王の卵を見せない。

 

 ではどうすればいい?


 全てジゼルを守るためだったと言えばわかってもらえる?

 

 ロランはこの状況を説明する方法がわからない。この状況を打開する方法も見つからない。


 けれど、それでもやらなくてはならない。伝えなくてはならない。

 ジゼルと生きてゆくため、ここまでやってきた。それを、全てを無駄にすることはできない。


 たとえ無駄になったとしてもそれでもジゼルを諦めることはできないのだ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ