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十六

「これが現在のこの街の状況です」

 報告を受けてから約五分、警察の捜査会議室は囁きとため息に包まれていた。煙草の煙を吐いてぼんやりしていた警察署長がようやく口を開いた。

「じゃあ何か? プレイヤーがいるカルテルはアントニオファミリーただ一つって事か?」

「はい」

童話の住人達(グリム)がいたカルテルが三十二個もあったのに全部潰されちまったのか?」

「そうなります。『神樹』のトネリコだけは無事なようですが、今後はアントニオファミリーのために活動するようです。他は全て殺害またはカルテルからの脱退もしくはゲームクリアを余儀なくされました」

 スライドに表示された地図を見ながら捜査官が報告を続けた。

「市内の地図に表示されているこれらのカルテルは現在全てAIによって存続しているだけの組織で、そのあがりの九十九%がアントニオファミリーに入っている事になります」

「へえーそりゃすごいな。税金はいくらになるんだ?」

「税金はありません」

「知ってるよそんな事は!」

「現在アントニオファミリーはそれを資金に軍拡を続けています」

 スライドが切り替わると戦車、戦闘機、ミサイルなどの写真が表示された。

「ミサイルまで持ってるのか……俺達に奴等を制御する事はできるのか?」

「不可能でしょうね」

 署長は両手を頭の後ろに組んで椅子に背を預けた。

「一体なぜ急に事態が動いた?」

「はっきりとは分かりませんが……この前の市長が発行した電子マネー『マター』がアントニオファミリーに大量に集まっている事が分かっています。おそらく急な金の集中によってアントニオファミリーが力を持った事が原因かと」

 署長は煙草を灰皿に押し付けると警察バッジを外して机に投げ出した。

「いよいよ終わったなこの街も。俺も退職金が惜しかったが死ぬ前にさっさとクリアするか。お前署長やる?」

「え? いえ……。アルベルト・ファルブルに引き継いでは?」

「あいつに任せたらアントニオファミリーに特攻して即壊滅だろ。署長の器じゃないよ奴は。俺はもう抜ける。じゃあな、後は頑張ってくれ」

 そう言うと署長はバッジを置いて出て行った。


 アントニオ、ダニエル、ウンディーネ、クライブ市長の四人は元教会があった丘から煙があがる街を見ていた。断続的に爆発音や銃声が聞こえ、戦闘機が敵AIがいるカルテル付近を空爆している。アントニオは両手を広げて叫んだ。

「見ろダニエル、ウンディーネ、クライブ! 『マター』の製造ラインを抑えた今、ゲーム内の通貨はいくらでも生成する事ができる。小粒のアイテムなど必要ない。無限に出現するAIのカルテルが生成してくれるレアアイテムを奪い続け、『マター』で買い付け、売りさばいてメリコや現金に換える。対抗する敵AIは全て兵器とウンディーネの力で排除する。これでこの街の全ての富は未来永劫私達の物だ!」

 教会があった場所には現在『マター』の印刷工場が建っている。クライブは葉巻をふかしながらしばらく工場を眺めていたが車に乗り込み走り去った。ウンディーネは工場の設計図を取り出した。

「ねえダニエル君」

「何だい?」

「これアレックスが持ってたよね? これが計画通りならあいつ殺す必要あったのかなあ?」

「ああ。彼はAIとはいえ彼の頭の中ではこの設計図はただの市長のスキャンダルの証拠だった。でも僕達は市長のスキャンダルから『マター』の配布を決め、そしてそのために印刷工場の建設をしたかった。そこまでが計画の流れだ。本当に大事なのは『マター』の印刷機がある事を隠す事さ。動画では荷物を置く倉庫だの言って話してたけどね。他のカルテルの奴等に渡す訳にはいかないし、AIの彼に計画を話したらどんな行動に出るか分からなかったからね」

「ふうん。じゃあもうこれいらないの?」

「うん。もう必要ないから燃やしてね」

「うん……うーん?」

「どうかした?」

「その話だと市長のスキャンダルはバレないといけないんだよね?」

「そうだよ」

「でも動画を託されてスクリーンに流したのはアレックスの知り合いの人間なんでしょ? なんだっけ、トムだっけかな?」

「そうだよ」

「必ず流すとは限らなくない?」

「流すさ。彼とその恋人も僕達の仲間だからね。もっとも流した本人の方はスクリーンをハッキングした事が管理者にバレてAIに消されちゃったけどね。動画データは既に換金済みだし問題ないさ」

 ダニエルは笑みを浮かべるアントニオを見て呟いた。

「これからは僕達のキャラデータが生き残っている限り現実世界の金も思うがまま増やす事ができる。これが本当のこのゲームのクリアだ」


 市長は駐車場に車を停めると小さな保険会社の店舗に入った。

「あ、市長こちらです」

「うむ」

 端のブースに通された市長の向かいにエリーが座った。市長は鞄から金がぎっしり入った封筒を取り出してエリーに渡した。

「よくやった」

「どうも」

 エリーは封筒を自分のバッグにしまうと保険のパンフレットを取り出し、机に並べながらにこやかに話した。

「大変だったんですよ。AIの殺し屋と目が合っちゃって。私初めてカーチェイスしちゃったんですから」

 クライブはパンフレットを指差し質問するふりをしている。

「ほう。見てみたかったな。さぞひどい運転だったんだろう?」

「あ、ひどい。それにトムの家は敵の殺し屋が湧いちゃってもう使えなくなっちゃったんですからね。違う家くださいよ」

「私と住めばいいではないか」

「やです。何のためにこんな事させたんですか?自分を貶めるような事をして」

「全てを君に話す必要はないさ。君も小遣いを稼いだんだからそれでいいだろう?」

「えー。まあいいですけど」


 エリーと市長が話しているのを見て支店長が同僚とひそひそ話している。

「市長とエリー君は知り合いなのか?」

「いえ、家の保険の更新の説明を受けたいとか」

「ふうん」

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