12話 邪神の協力
結論から言うと、魔の森での収穫は無かった。
やはり、四年前はまだ木造の家を建ててはいない様だった。
だが、帰路に着く途中で思わぬ者と出くわした。
「久しぶりなの。」
『貴様は……』
「エルなの。まだ戻ってから1日も経ってないのに忘れたの?」
長い銀髪に、真っ黒な知性的な瞳をしている。
『勇者と、共にいた銀狐か。』
「そうだよ。今日は貴方に話があってきたの。」
『……この現象に関する話であるか。』
「理解が早くて助かるの。」
そう言うと、何がどうなっているのか突然木造の家が現れた。
「アーちゃん……勇者が住んでいた家を具現化した物だよ。」
目配せされ、銀狐ことエルに着いて行く。
最低限しか具現化されていないのか、茶が出ることも装飾品もなく、ただ机と椅子があるだけ。
「早く座るの。」
トントンと急かされ、腰を下ろす。
「まず、分からない事だらけだと思うから、ざっと説明するの。」
『頼む。』
「端的に言うと、私が勇者を助けるために魔王である貴方を過去に戻したの。」
『っ』
「分かってる。過去を戻すにはかなりの代償がいるから魔王でもできない芸当と言いたいのは。でも、古代から生き続けてきた神に近い銀狐なら話は別なの。代償を大きく捧げられるから、できるの。」
『代償は、どうしたのだ?』
「ソレは言えない。言っちゃいけないの。」
その声は、どこか自殺願望のある者の様に聞こえる。心なしか、顔色も悪い。
「勇者は、光の神に魔王を倒すたびに何度も何度も時間を巻き戻されて、弱った心に漬け込まれて狂ってしまったの。もう、魔王なら気づいているだろうけど、邪神と光の神は戦をしてるの。邪神は魔王で、光の神は勇者で。」
予測に過ぎなかったが、どうやら当たっていた事に、吃驚してしまう。
あくまでも、ただの想像に過ぎなかったのだから。
「光の神は中々つかない決着に痺れを切らして、最終手段に出た。ソレが、勇者を狂わせ黒剣が反応する様に無意識な破壊衝動ーー悪の心を埋め込んで、黒剣を使える様にしたの。」
『では、あの歪な黒剣は……』
「魔王が使うべきものを勇者が強引に使ってるから、アレになってるの。でも、魔王も聖剣は使おうと思えば使えるの。」
『それは、真か?』
「嘘なんてつかない。邪神に願えば多少は力を貸してくれると思うから、綺麗な心を入れれば歪な形にはなるけど、使えるの。」
勇者に勝つには、純粋な闇の力では勝てない、そう言うことなのだろう。
『つまり、純粋な心を無理やり神に嵌め込んでもらって光の神を殺せってことであるな?』
「そうなの。」
『それで、貴様は我に何をしてほしいのだ?』
戻した理由を知ったとしても、結局は何をしてほしいかだ。
勇者を助けてほしいのか、光の神を殺してほしいのか。
「勇者を、光の神から解放してほしいの。」
『だが、そうすれば勇者は勇者でなくなるだろう。人間が我に対抗術がなくなるのだぞ。』
「ソレでもいいの。だって、人間は勇者に頼りすぎだから、勇者の辛さも知らずに生きてきた報いなの。」
エルは、きっと今代の勇者以外にも、勇者を見てきたのだろう。
だから、人間に対する憎しみを言葉の所々で伺えた。
『我は人間を滅ぼすぞ。』
「構わないの。」
『……良かろう、光の神を共に倒そう。それまでは人間には手を出さぬ。』
「感謝するの。」
他にも、エルは重大なことを話した。
神を倒せる期間は、たったの一年だけ。神の力で捻じ曲げられた未来をさらに捻じ曲げて過去に戻ってきた為、時間がないとの事だった。
そして、今は純粋で綺麗な心を持った勇者だが、時間が経つにつれ狂人の片鱗が見えてくること。
「私は勇者を見張ってるから、邪神とよく話し合ってなるべく早く光の神を倒すの。」
結局、光の神は神にしか倒せないらしく、邪神を説得するに限る様だ。
邪神がどんな神なのかは分からないが、神と対話するなど無理難題にも程があるだろう。
ーーが、いつまでも悩んでいたって仕方ないため、取り敢えず神と対話を図る事にした。
***
魔界と通じている魔の森は、毎日が薄暗い。
そして、邪神と意思疎通を図れる神殿は、もっと暗い。
供物から神仏まで全てが黒一色で、視力の弱い人間が見れば真っ暗の様にしか見えないだろう。
『ふむ……』
いざ神と会うとなると緊張する。
生まれてこの方一度も敬語を使った事など無い為、少しむず痒い。
『ふぅ……魔界を統べる邪神よ。我の前に姿を現したまえ。』
黒い水晶に向かって呼び出す為の言葉を並べるが、全く反応が無い。
一応、呼び出す方法を本で学んできたのだが。
『邪神よ、我の前に姿を現したまえ。』
少し言葉を変えてみても、無反応だ。
そもそも、やり方が違うのだろうか?
『邪神よ、我の前に姿を現したまえ。』
シンと、静まり返る神殿内。やはり、呼び出し方が違ったか……そう、思った時だった。
【ーー妾に背を向けるとは、死にたい様だな。】
背後から、女の声がした。
『!?』
咄嗟に振り向けば、邪神であろう女が水晶の上に立っていた。
『邪神様で、ありますか。』
【当たり前であろう】
地面に着くほどに長い真っ黒な髪と、豊満な胸を揺らしながら、邪神は微笑む。
その微笑みだけを見れば、白い肌に黄金の瞳ということもあり、ただの優しい美女にしか見えないが、この女は邪神だ。
欲望がたっぷりと詰まっている瞳をしている。
【それで、我を呼び出した理由はなんだ】
『光の女神を倒す力を貸して欲しいのです。』
【ほぅ……我に勝利を見せてくれると?】
『はい。』
ドカリと、水晶玉を消して台座に座る邪神が
足を組み、スッと目を細める。
【大方、お前の事情は理解しているが……今人間を滅ぼせば光の神は信者を得られずに自然と消えるだろう。何故ソレをしないのだ?】
確かに、神は信者があってこその存在だ。
人を滅ぼせば、存在が忘れられ自然と消える。
『勇者が、我を倒す真の理由を見つけるまで聖剣を預かると約束したのです。』
【悪の心を持った魔王が、ソレをいうか。】
そっと、黄金の目が伏せられる。
【光の神に関しては、我が殺すことき変わりないからな、いくらでも協力しよう。だが、勇者を倒すのは魔王の役目であるが、ソレはどうするつもりだ?言っておくが、光の神の様に卑怯な手は使わぬぞ。】
『もちろん、分かっております。』
邪神は、悪の心を持っておきながら曲がったことが嫌いだ。
だから、卑怯なことを少しでも言えば協力は望めないだろう。
この戦はあくまでも勇者vs魔王、光の神vs邪神なのだから。
『なので、勇者と同じ土俵に立つ為に時間を巻き戻す魔法と純粋な心を我に埋め込んで欲しいのです。』
【……賭けに出るのか。】
『いいえ、耐えれる自信があるから申しているのです。』
【光が闇に染まるのは簡単だか、闇が光に染まるのは非常に困難なことだ。お前に純粋な心を埋め込めば、黒剣が使えなくなるのだぞ。】
『構いません、勇者がいなくなれば黒剣など必要ありませんから。』
【そうか……精々、精進するのだぞ。】
『はい。』
スッと音も立てずに、邪神は消えた。
その直後、体の全身から力が抜け情けなくも膝をつく。
『やはり、神には及ばぬな……』
あの絶対的な美貌を前にすると、我を忘れそうになる。
代々魔王が、邪神と会う時は気をつけろと忠告するが、今初めて理由が分かった様な気がした。




