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13話 聖剣を使う理由

邪神の協力を仰いで、聖剣の力を発揮できる様にはなったが、完全には引き出せずにいる。


元々が悪の塊だからか、どうしても技が濁り威力が落ちてしまう。

ちゃんと使いこなせる様になれば、歪な形になる様だが、道のりは長い。


一年以内に、光の神を倒さなければならないが、狂っていく勇者の事を思えば、半年ほどしか時間は残っていない。


部下が、心配して休むべきだと声をかけてくれるが、聖剣を扱える様にいち早くならなければ。だが、どうしたら良いのか全く分からない。


綺麗な心をどうやって増やせば良いのか、全く分からないのだ。

邪神に聞こうにも、全く呼び出しに答えてくれない。


偶に、勇者の様子を銀狐であるエルが報告しにくるが、うなぎ上がりに勇者の力は増しているらしく、魔族を殺す時に執拗に痛めつけたりと残虐性も表に出つつあるらしい。

 

『クソっ……』


予防策として、時間を巻き戻す魔法を邪神に借りているが、油断はしていられない。

もし、本格的に狂いつつある勇者が攻めて来ることがあれば、膨大な被害が出ることだろう。


追い込むどころか、追い詰められるのは此方だ。


不味いと思っていても、何もできる事がない。神の後ろ盾が物理的にある勇者と間接的にしか無い魔王では、実力の差が大きすぎるのだ。


欲を言えば、勇者と同じ様に限界を超えた神の力を借りたかった。


『まさに、八方塞がりとはこのことだな……』


何もできずとも、時間だけは過ぎ去っていく。


ーーそして、その時は訪れた。


一年とは実に早いもので、何の予防策も取れず勇者が魔王城に攻め込んできたのだ。

以前は、我が攻め込んできたというのに全く反対のことをされている。


魔族の泣き叫ぶ悲鳴や、狂った勇者が楽しそうに魔物を狩る姿。

そして、ソレに怯えるお飾りの御付きの者達。


可哀想なくらいにビクビク怯えている。


「魔王!!世界平和の為に倒しにきたぞ!!!」


歪な黒剣を構え、言葉だけは勇者らしい事を並べている。


『よく来たな、勇者よ。』


「光の神の為に死ね!!」


ニィッと、歪んだ笑みを浮かべ一瞬で間合いを詰められる。

聖剣が少しは応えてくれることもあり、吹き飛ばされることは無かった。


「やっぱり、このくらいじゃダメかぁ~残念……」


そういう割には、実に楽しそうに笑っている。


「でも、楽しそうだぁ!!」


濁り切ったドライブルーの瞳が、真横を掠めた。


「ばぁ~か。」


背後で、声が聞こえると同時にグサッ!と肉を裂く音がした。


『?』


だが、ソレは我のものでは無い。他のもので……。


『あー、がいる?』


「ま、おう、ざま……」


「あぁ?」


致命傷のアーガイルが、我を庇っていた。

全身血まみれで、道中勇者から弄ばれた彼がだ。


首は無惨にも、締められた跡があり小腸が腹から溢れ出している。


「じゃま、すんじゃねぇよっ!!!」


眉間に皺を寄せ、容赦なく勇者はアーガイルを蹴り飛ばした。

ソレと同時に、青い血が飛び散り跡形もなく消え去った。


『き、貴様ぁぁぁ!!!!』


眼前に立つ勇者の唇が、弧を描く。


「やっぱりその顔、似合ってるわ。」


それが、最後に聞いた言葉だった。





***







そして気づけば、時間が巻き戻り、魔王城の神殿の中にいた。


【1回目は、見事な惨敗っぷりであったな。】


邪神が、ゴミを見る様な目を向けて来る。


【努力を怠り、聖剣もまともに使いこなせず、部下に庇われ挙句の果てに負けるとは……妾の最強のコマが、聞いて情けない。】


そう言われてしまえば、何も言えない。

怒りに任せて、剣を振るおうとしたが、振るうことさえ出来なかったのだから。


『邪神様、聖剣はどの様にしたら力を引き出せるのですか。』


【………】


沈黙は、方法が無いと受け取っても良いのだろうか。


『ない、のですか?』


【ない、訳では無い。】


『ではどうすれば……』


とても言いにくそうに、邪神が目を逸らした。


『邪神様。』


それでも、ジッと横顔を見つめ続ければ、ため息と共に黄金の瞳と目が合う。


【魔王を、やめるしか無い。】


『魔王を止める?』


【聖剣は純粋な心に反応する。ならば、魔の心を捨てることが出来れば、歪む事さえせずにそのまま本来の聖剣の力が発揮できる。剣が歪むと言うことは、まだ完全には染まり切っていない証。もし、お前が魔の心を捨てると言うのなら、聖剣は応えてくれるだろう。】


『貴方は、我に魔族を見捨てろと言いたいのですか?』


【それしか、無かろう。】


目を逸らし、スッと邪神が消える。


1人残されてしまった我は、落ちている聖剣に目を移す。


『聖剣など……』


あの時、勇者に黒剣を渡さなければ良かったと、今更ながらに後悔する。

互いに憂なく殺し合いができる様に交換など、するべきでは無かった。


聖剣を使うことになったのは、我の自業自得。ソコに、同族を巻き込むわけにはいかない。


聖剣を握り、神殿を出る。

そして、拝見の間へ魔将軍ら3名に招集をかける。


『よく、集まってくれた。』


「「「は!」」」


平伏す魔将軍の頭を、上げさせ王座を降りる。


「「「ま、魔王様!?」」」


3名揃って、驚きたじろぐ姿に苦笑しながらも、同じ土俵に立つ。


「ま、魔王様!我らと同じところに立つなどっ」


「あ、わわわ!」


「お、おお!!!」


水土の魔人ホワイトと、風雷の魔人ファイストは、ほぼ言葉になっていないが、かなり慌てている。


『いいや、我は今からお前達よりも下へ行くのだ。』


「下、ですか?」


意味がわからないと言う様に首を傾げる3名の魔人に、告げる。


『我は、魔王を止めねばならなくなったのだ。』


「「「ふぁ!?」」」


『驚くのは分かる。だが、我は魔の心を全て捨て、純粋な心を得ねばならなくなった。だから、もう魔王では居られぬ。』


王冠を、取り魔人らへと差し出す。


『今まで付いて来てくれた事、感謝する。』


代々受け継がれて来た王冠を手放すのは惜しいが、これも全て魔族の為。

魔族を統べる王だった者のプライドとして、勇者を倒す。


そして、次代の魔王にバトンを渡す為、勇者と光の神を滅ぼすのだ。


「お、お待ちください!!」


「な、なな何がどうして魔王を止めるなどと!?」


「しかも、魔の心を捨てるって!」


驚きのあまり敬語がとれてる者が1人いるが、ソレはいつものことだ。


『詳しい事は話せぬが、魔を象徴とする王が魔の心を持っておらぬと、示しがつかんであろう?我はこれから純粋な心を手に入れて勇者を殺しにいくのだ。』


ほぼ相打ちで、助かる見込みは無いだろう。

最後は、邪神に任せる形になるだろうから。


ソレが、繰り返しに繰り返した未来であろうとも。


「ま、魔王は確かに魔族の王ですけど、魔の心を持ってなくたって成れますよ!」


「そうですそうです!!」


「そーだ!そーだ!!」


ファイストの幼ない口調が気になるが、一旦置いておこう。


『肩書きだけの魔王など、誰も認めぬであろう。ソレに、黒剣ではなく聖剣を使うなど……』


聖剣である事を指摘されたことはないが、皆違和感を感じているはずだ。


たとえ、神の力によって認識を変えられているとしても、黒い魔神に白い剣など不恰好にも程がある。


「やはり、ソレは聖剣だったのですね…….」


『分かっていたのか』


「なんとなく、ですが…….他の皆も言われれば気づくことでしょう。」


『認識が外れている様だな……』


「「「?」」」


ポツリと呟いた言葉が、通じなかったのか首を傾げる魔将軍。


『お前達は、魔の心を持たない聖剣を使う魔王でも良いのか。』


「構いませんよ。魔族を導いてくださるのなら、心なんて関係ありませんから。」


「そーです!」


「そーだそーだ!!」


『そうか……』


存外に、部下達からの忠義は厚かった様だ。


『ならば、これから先は何があっても魔の気配が勇者側にあろうと、お前達は我について来てくれるか?』


「「「勿論ですとも!」」」


息ぴったりに、返事をする魔将軍。


「魔王様が、聖剣を持ってたって魔王様です。それに、一つ思うことがあるんですよ。」


『なんだ?』


「魔の心って、悪い心って意味ですよね?」


『まぁ、そうであるな。』


「人間の方が、同族殺したり残虐性が酷かったり、やる事ヤバくないですか?」


『……』


確かにソレは一理ある。

純粋な心を持っているはずの人間が、なぜか魔族よりも残酷な事をしている。


「だから、アーガイルが思うにですね、魂の色が黒いのか、白いのかの違いだと思うんですよ。人間は光の神を崇めているから白い魂をしていて魔族は邪神を崇めているから黒い魂をしている。そう思うんですよ、まぁ、ただの推測に過ぎませんが。」


『拝める神によって変わる……』


ソレは、ずっと悩んでいた答えな様な気がした。


聖剣を扱える答えが、こんなに簡単に見つかるとは。


「我はお前達の様な部下が居て良かった。」


「魔王様……いつになく素直ですね。」


「何か悪い物でも?」


「お前たち、失礼だぞ。」


ホワイトとファイストが失礼な事を言って、ソレを咎めるアーガイル。ソレはいつもの何気ない日常の光景。


『我が戦う理由は、これだな。』


魔剣が滅ぼすためのものならば、聖剣は守るためのもの。


理由なんて、何気ない日常を守るためで十分だろう。













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