第19話 何者かの策謀
「はぁっ……はぁっ……」
あれからどれだけの時が経ったのだろうか。少なくとも半の時鐘なぞとうに過ぎている。
夜の帳は下りた。辺りは暗く、魔物でなければしっかりと視認するのは難しいだろう。敵は―――減らない。
数えるのはもうやめた。余裕がなくなりつつあるから。
“咎人の粛清”まで後2と半の時鐘だと思う。実際はそれより短いのかもしれない。
「ここまで…耐えれた、のも…アクアのお陰、かな?」
息はすでに絶え絶えだ。周囲の緑のカーペットは黒々と鈍く光っている。
鉄の臭いと魔力の残滓が混ざり合う。もう慣れた。
――シッ!――
いつもの刀で斬り払う。いくつもの首が飛ぶ。
アクアが刀を取りに行ってくれた。賢い私の相棒だ。
「時間の問題か……。もとを絶つまでは。」
「ピィ!」
もと――それ遥か上空にあると思われる。雲より少しばかりか低いだろうかという距離だ。
行く手段なら、魔術を完全に理解した私だ。一瞬で行ける。
だが、このまま魔物の大群を放って置くと、ミクトらの町が潰れるだろう。これもまた一瞬で。
あれから魔物の種類は一切変わっていないが、ルーンウルフもソリッドベアも中級上位相当の魔物だ。もちろん一頭辺りの力である。
すでに三桁は越えている。それでも二桁ほどまだ存在する。これらが町に行くと―――
「あ~っ!!ほんっとに!………どうすればいいんだよ…。」
ミクトが帰ってくるまで―――
『GRUAAAAAA!!――おいっ!まさか我のことを忘れてはおらぬだろうなあ?!』
全長10mほどの龍にしては小柄だが、内には膨大な魔力と強き龍の聖力が感じられる、深紅の守護龍――
「バーンか!助かった!!…だけどなぜここに?」
『んなもん聞かなくともわかっておろうが!この山は我のテリトリー―――』
「じゃあなんですぐに来なかったんだ?大分時間がたってるぞ?」
『そ、それはだな……すまん。だが、お主の戦っておる周りには認識阻害の魔術が掛けられておった。』
認識阻害の魔術……誰かの意図して起こった事ってことか。だれが?解は上にある。
『お主がやりたいことは分かっておる。小奴らの発生元を調べたいのだろう?……さっさと行ってこい。我とお主のスライムとで小奴らは留めておく。』
「……ありがとな。」
『なに、我の命よりは軽いわ!』
バーンは豪快に笑った。その笑い声すらにも魔力が籠っているため、ルーンウルフらは固まっている。
『ほれ、今のうち!』
◇
遥か上空に降り立った瞬間、すぐに魔法障壁を展開する。空中での足場のようなものだ。
魔法障壁は魔力を反発させて魔法を防ぐ。ならば、自らの足に魔力を覆い反発させる。魔術による身体強化の応用だ。
すぐに魔力を探知する。だが、転移魔術の魔法陣はおろか、召喚魔術の跡すら見つからない。
なにもない空間が広がっている。
「いや……おかしい……矛盾がある…。」
だが、確かにそこにはなにもない空間が広がっているだけなのだ。
………なにもない/空間/が広がっている。
「そうか!……なぜ私は何もないと認識しているのに、空間があると感じたんだ?」
認識阻害の魔術だ。
どの範囲まで認識阻害の魔術が掛けられているかみるため、辺りのなにもない空間が広がる空を視た。
「なっ!………」
決して自分のみた光景に驚かなかったわけではない。だが、確かに私は今、{なにもない空間が広がる空}と認識した。
認識阻害魔術を対処する方法はその範囲外の物を視る、ということである。
私は王都の方の空をみてそう認識したのである。
「あり得ない……この国の空全域を空間魔法で支配するなんて……神かその寵愛を賜った者しか…。」
だが、現在神からの寵愛を持つものは、私の知る限り、先の龍王と聖王(勇者のうちの一人)しかいないはずだ。
「いや、とりあえずは目先のこれだな。」
何もない空間には最近、馴染みのある2体の魔物の魔力の形が漂っている。
漂っている形に十分な魔力が溜まり、形を確立する。
再誕した。
「オリジナルの分身じゃなく、あくまでもオリジナルから同じオリジナルを生み出す………複製か。」
複製魔法は昔からの学者の夢であり、決して叶うことのない、不可の魔術だ。私もできない。
それを作ることは命を生み出すことに等しく、同一に死者を生前と同じように生き返らせることに繋がるからだ。
これらの事を考えた上でのあり得ない、なのだ。
「ここの空間だけでも―――っ!」
私が壊そうと近づいたとき、その空間に形作る魔力の棘がねじ切れ、空間ごと霧散した。そして、その空間の捻れからどんな不死者よりも酷い臭いが溢れてきた。
転移魔術?いや違う。有り得ることのない異形の空間にこちらの空間が繋がってしまった。という表現が適切だ。
「っ?!………なん、だよ…この…臭いと嫌な気は………。」
捻れ切れた空間からは煙のようなものが、流れ込んできていた。




