第17話 現状と発表
――日は少し遡る。
迷宮と思わしき場で2対の飛龍が奮闘していた。その眼前には三百を優に越える不死者が犇めいている。
大嵐飛龍は風を燃炎飛龍は炎の息吹を放つ。風は炎を長し、炎は敵を灰に還す。
存在した不死者は一瞬にして消えた。が、間髪をいれずに再誕する。その数は五百。
2対の飛龍も身体には数多の傷を負い、精神的にも限界がきていた。
『くそっ!スパンが速すぎるだろ!まだ100年もたってねえぞっ』
『口を動かす前に少しでも時間を稼げ。もう、ここの守護龍は我らしかおらんのだぞ。』
『んなこたぁわかってるよ!……だあぁぁもうっ!』
倒しても倒しても敵は沸き続ける。灰が山となり飛龍の視認を妨げる。だんだんと2対の意識が遠のいていく。
『だめだ……もたねぇ。』
何度目か解らない炎と風が放たれる。
また一瞬にして不死者が灰になる。
が、再誕……しなかった。
既に意識を失った飛龍らはこの事を知らない。その2対の飛龍は黒く混沌とした気を纏い始めた。瘴気だ。
飛龍による攻撃で再誕が止まったのか。それとも“これ”が目的だったのか…
◇
「なるほどな…とりあえず、今は収まっているっていう解釈でいいのか?」
『おそらくな。我らが相見えたときよか幾分魔力の流れが弱い。お主の言う解釈で当分は問題ないだろう。』
「しかしだ、わしはこれでもこの町のギルド長だ。もう少し皆が安心できるような理由はないかのォ?」
『ない…と言うしかないな。我らが対処できたのは、常にここの近くにおったからだ。あの暴走じたい、いつ起きるか分かったもんじゃない。』
龍いわく、この氾濫は最近に起きたものであり、過去例があるのかすらわからないそうだ。
しかし、龍同士にも言い伝えのようなものが存在し《強き力を持つ者は護るべき場所に留まれ》と伝えられている。この教えはもかしたら“氾濫”に関係しているかもしれないと言うことで、2対の龍の一体、テンペストは全ての龍を束ねる【龍王】に会いに行くそうだ。
「龍王……本当に存在するんだな…。だが、全ての龍を統率すると言うくらいだ、テンペストみたいな普通の龍が会えるのか?」
やばい、私の中の価値観がだんだん壊れていくような気がする…。
龍を目にするだけで人は畏怖し、心を病む。
龍に遭うことは人生の終わりを意味する。
龍の数は少ないが、災害級の力を持つ。
三つ目に関しては本当かもしれないが、一つ目や二つ目に関しては信じられない。だって実際に目にして話しても、私たちは生きているから。
『おそらく会ってくれるだろう。我らは龍王にとって子供のようなものだからな。』
龍王の子供?…もし会えるなら是非ともあってみたいものだが…おそらく無理だろうな。いろいろと問題がありすぎる。
『……懸命な判断だ。……だが、この命を救ってくれたのもまた事実だからな…考えておこう、レインよ』
そう言った後、テンペストはどこかへ飛んでいった。しばらくすると、テンペストの姿が見えなくなり驚いた。
「おいおいずるいぜェ?レインちゃんよ。まぁ、多忙の身で旅行に行く時間はないのだがのォ」
「ん…そういえば、何でお前らはここに来たんだ?」
私のいる場所を知っていたのはミクトぐらいのはず。彼はおちゃらけた性格をしても口は硬い。特に友との約束などは誰にも言わない…はずだ。
早急に私に伝えなければならない事なら納得はできる。
「おおっ、すっかり失念しとったわ!…って言うのはいらないな。」
ミクトはふざけた態度を一変し、真剣な表情で話し始めた。
「お前に対する用件があるんだ、3つの。その一つの総冒険者組合長についてから話す。」
――わしがここに来る前にアリシアの魔写の手紙に総ギルド長からの言葉が書かれた。内容は『アリシアのもとに行こうとしたのだが、自分の補佐官を含めたいろんな輩から止められた。すまんが、そちらに行けそうにない。』と言うものだ。それに対してアリシアは“じゃあ、そっちに向かう”と返した。
しばらくたってから返事か来たのだが、『どうも周りの様子がおかしい。そちらの町に関係のある言葉を言ったとたんに皆が“無”になる。まるで人形のようだが、魔術の類いはない。それに、町のことを口に出さなければ特に問題はないのだ。…ミクトよ、至急王都に来い、頼む。』と、明らかになにかが起こっているような内容だった。
だから、わしはしばらくこの町を空ける事になる。アリシアを連れてな。これが一点目だ。
「……分かった。それで私はどうすればいい?」
「その事についてが二点目だ。そろそろ例の“祭り”が行われるだろう?わしの不在のせいで今回は冒険者組合で匿うことはできん。じゃけん、レインはこの迷宮付近でなんとかやりくりしてくれ…頼んだぞ。」
「ん……もうそんな時期か。バーンはここに残って迷宮付近を護るんだよな?」
『ん?あぁ、もちろんそうする。…!我らがお主をかくまうと言うことか?レイン』
「そういうことだな。」
『……よし、分かった。だが、少なからず我の手伝いはしてもらうぞ?』
「もちろんだ。無償で何て言わないよ。さて、三点目は?」
「三点目は……レイン、お前の“研究成果”を聞かせてくれ。やっとできたんだろ?」
「おお、それは本当かい?ぜひとも私に聞かせてもらいたいねえ。」
『研究成果とな?ほほう……たまに人間は面白いことを考えるからな。我もぜひききたいところだ。』
ちゃっかりバーンまで聞く気になっている。
「はぁ、龍のお気に召すかどうかはわからないけどな。」
ため息をつくが、しょうじきうれしい。
私はこれでも学者だ。自分が研究したことを発表できる事が楽しみなのだ。
―――それが誰かのためになるのならもっと嬉しい。だから話す、語る、説明する。私の長年の研究成果を旧知の仲に。




