第14話 学者の夢(前編)
―――あの事件から、私を見る目は変わった。
期待と尊敬の眼差しで見る者。
前までと変わらない眼で見る者。
そして、軽蔑と恐れを抱いて見る者。
今日もそんないつもと変わらない。
ただ、私に話しかけてくるものはかなり減った。それでも私の友達、『ユノ』が事実を嘘を交えずに告白してくれたため、私に対する風当たりは少々よくなった方だ。
「おいレイン!今日は俺に稽古をつけてくれんだろ?」
こいつは『ミクト』。私と同い年の友達で、話しかけてくる者の数少ない一人。年齢が11歳の割に、見た目が6歳ぐらいに見えることに本人は大分気にしているようだ。
「えー、10歳未満の子には稽古をつけたら駄目だからなー?どうしよっかなー」
まぁ、こういうことを言って私やその他の人が遊ぶからというのもあるだろうけど。
「ふざけんなよなっ!べ、別にお前なんかに稽古をつけてもらわなくたってギルドの人に頼めばいいことだからな!」
「なら、最初っからそうすればいいんじゃないか?」
私はミクトを挑発するように笑みを浮かべる。
案の定、悔しそうな顔をして、恨めしそうにこちらを見つめている。
と、言ってもだ。本気で稽古をつけないわけではない。ただ単に、彼のそのような顔をみたかっただけだ。
「まぁ、ギルドの人達もなかなかに忙しいからな…いくら次期ギルド長と言っても、時間をとってあげるのはさすがに厳しいだろうな。」
ミクトの父親はこの町のギルド長を勤めているため、次期ギルド長は息子である彼が受け継ぐこととなっている。
そのような人がなぜこのような孤児院に預けられているのか。
答えは単純で、母親が既に死去している多忙な父が、息子に教育・技術を教えられる訳がなく、そういったことができる場所としてここを選んでいるだけなのだ。
もちろん、そういった教育施設がない訳ではない。それでも、息子を孤児院に行かせるあたり、何かをおもっての事だと思う。
「それじゃあ…稽古は……」
「ん?あぁ、別n」
「やったあぁぁ!!」
途中までしか言っていないのに耳が劈くほど喜ぶあたり、まだ子供だなと思う。
だが、そんなミクトの様子を見て自然と笑みが浮かぶあたり私も人の事は言えないなと思った。
「もう、うっさいわねぇ。毎回そんなことして飽きないの?」
彼女は私の友達であるユノ。友達といっても私よりか3歳上で、あの事件の事を包み隠さずに告白してくれた人だ。
子供らしさがないと言われる私と馬が合うのは、彼女が、体験したことのみ信じ、尚且つ哲学的な側面を持つ性格の持ち主だからだろう。
「ん、帰ってきてたのか。ってことはクレムはいるのか?」
「おおっ!ユノ!クレムおじさんはっ」
「はいはい、そんなに呼ばなくてもここにいるよ。」
そう言って現れたのは30後半に見える男性。といっても実のところは20後半である。
そんな彼こそが二人に呼ばれている『クレム=ルヴィエ』であり、現総ギルド長の息子である。
彼はその肩書きを気にすることなく自由に旅していたが、あの事件の際、近くを旅していたため、ここに呼ばれて事務処理などを手伝わされたらしい。それもこれも、ここのギルド長と総ギルド長の仲がとても良いせいだ、とよく愚痴っている。それ以降何故か私達三人と親しくなり、月に一度誰か一人を旅に連れていってくれるのである。
「しかし、今回は帰ってくるのが早かったな。そこまで遠くには行かなかったのか?」
「ん?なかなか良いところに気がつくねぇ。まぁ、詳しい話はユノから聞きなー。」
「ん~、それだけじゃなさそうなんだけど……」
ちなみにミクトはユノの話に盛り上がってる。一体何を話しているのだろうか。
その様子を確認したのか、クレムはそっと私に言った。
「実はこのところ、近くの迷宮に問題が生じていてね。それの関係上、旅先にあまり長居できないんだ。全く困ったもんだよ。」
「なるほど……ちなみにどんな問題なんだ?」
「そりゃあ機密問題だからね、もちろん教えられないよ。……けど、一言で言うなら…一種の魔物の氾濫、だろうな」
本来ならこのような内容ですら言ってはいけないだろう。しかし、彼は教えてくれた。それは、私に対する絶対的な信頼によるものか、それとも我が子に注ぐ愛情のようなものか…答えはわからない。
でも、私にとってクレムは親だ。
『レイン』と名付けてくれたのは紛れもなく彼であり、英雄以外の名を与えてくれたのだ。一応だが、養子に迎え入れてくれたため、家族と呼べる者ができた。
「規模にもよるが、ここに氾濫した魔物が来るかもしれない。注意しといてくれ……と言っても、聖力を持つレインにアンデット達は為す術無しだろうけどな~。」
自分で言うのもあれだが、私は強い……らしい。クレムが言うには、冒険者として今からなったら上級下位までは難なく行ける程の強さがあるそうだ。
この強さが力のことを指すのか心のことを指すのかは測れなかったが。
「んー、わかった。」
とりあえず記憶にとどめておくことに同意したら、クレムは真剣な表情をしてこう言った。
「ああ、ひとまずはそれで良い。だが、今回の事件はどことなく嫌な感じがする。本当に気を付けておいてくれ。もし何かあったとき、この町の冒険者・ギルド職員のほとんどが迷宮に行くだろう。そうなったとき、この孤児院を守れるのはお前とミクト、ユノくらいだ。……わかってるな?」
その言葉が指す意味を理解し、無言で頷いた。
「そうか……よし!明日は何の日か分かってるよな!?」
クレムは両手をパンッと叩くと、明るい声でさっきまで話していた二人に問いかけた。
その顔にはさっきの真剣みなど微塵も感じられない。
「もちろんだっ!」
「当たり前ね。」
二人はそう言って、私に近づいてくる。両手を後ろに回しながら。
私と二人の距離が、お互いの肩をつかめるほどになると二人は歩みを止めた。
そして、精一杯の笑顔で言う。
「「誕生日、おめでとうっ!!」」
「え?……」
私の思考は少しの間停止した。が、すぐに考える。
まず、第一に私は捨子であるため誕生日などわからないはず。となると、誰が?という話になるが、その言葉は明確に私に向けられているため、自分のことで間違いはないのだろう。
そんな推理をしているときに、クレムは笑いながらこう言う。
「親として、我が娘の誕生日を祝わないことはないよ。」
その言葉でやっと理解した。
「そうか、今日なんだな私……レインが誕生した日って。」
「えっ!マジかよレイン。お前自分で気づいてなかったのか?」
「ふん、ミクトに言われたくないな。つい2年前まで誕生日というものを理解できていなかったくせに。」
「…ぐぬぬ」
「ほらほら、こんなことでムキにならないの。そういうことをするからミクトは子どもにみられるのよ?」
「まぁ良いじゃないか、可愛らしくて。」
「……ま、まぁ?俺の方がお前らよりか十分に子供らしさがあるから良いんだけどな~?」
「はぁー……まっ、いっか。ありがとな、二人とも。」
その二人の後ろに立って無言でアピールするクレム。少々大人げなく感じるが……
「もちろん父さんもだ。ありがとう」
クレムは嬉しそうに頷く。
ちょっと笑いの坪に入りそうだ。
「ほい、これやるよ。誕生日プレゼントというやつだ。」
「まぁ、作ってくれたのはミクトのお父様なんだけどね。」
二人の手にはそれぞれ違うものがあり、ミクトは眼鏡のフレームをユノは小さな水晶玉を持っていた。
「ほら、しっかりみておけよ。」
ミクトがそう言うと、ユノはその水晶玉を眼鏡のフレームに掲げる。
すると、なにも入ってなかった眼鏡のレンズに魔術による結界に近いものが張られた。
「これは……?」
「お前、常に気力と魔力で眼に補正かけてっだろ?そのための眼鏡なんだが、ただの眼鏡なんて面白くない。だからちょっとした小細工をしたんだよ。」
「強い制限力は持たないけど、三大人技のうちどれか一つでも一般量を越えようとすると、それを止めるって言うものね。」
「なるほど……強いて名前をつけるなら[制限する眼鏡]ってところか?」
「まぁ、いつも手加減できねえお前用だ。」
ミクトの言うことが、私にとって本当の事であるから反論できない。
「ん、まぁ、ありがとな…」
「次は私からのプレゼ――」
クレムが言い終わる前に、とてもうるさい鐘の音が鳴り響いた。警鐘だ。
「おい、父さん!まさかっ!」
私にも嫌な予感が広がっていく。
少々長くなってしまいすいません。眼が疲れたら読むのをやめて、ホットタオルを目に当てるといいです(笑)




