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殺戮の天使  作者: 庭庭
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マナーモードデビル

路地裏を出て、私は再び賑わいうるさい繁華街へ出る。ネオンの光、客引きの女性の甲高くねっとりと絡みつく声、酔っ払い足取り浮き立ちながら歩くおじさん。

さっき私がどんな目にあっていようと、人間たちは何にも気づくことなく幸せに生きている。そんな人の世は、本当に滑稽で、全世界を監視して休みのない天使たちの仕事が時々馬鹿らしいと思う。

そういえば、時々天界と天国、地獄と魔界を別に考える人がいるけど、天界と天国はどっちも一緒だし、地獄と魔界もどっちも一緒だ。

最初に堕天した天使が地獄を作り、天界が善をしたものの依拠とするなら魔界を悪の依拠としたらしい。まあ、主人の仕事も実質減って良いのだけれど、悪魔たちはどんどん天使達を堕天させてしまう。神に復讐するためかはたまた他の理由があるのか。なかなか難しい問題でめんどくさいが、こればかりは神ではない私にはどうしようもできないし分からない。

やがて繁華街を歩き疲れた私は公園の木の上によじ登り、そして木の葉の中に身を埋めて眠りについた。まだ数人の人の気配がして、だけど人目を気にするような小心者ではないから構わず私は眠りに落ちる。

ウトウトととろけるような感覚から眠りに落ちる瞬間の、切り立った山の頂きから真っ逆さまに落ちるような感覚は、快感だが皮肉にも私が地に落とされた瞬間の感覚と酷似している。

地上に叩きつけられた痛みを歯を食いしばり我慢して立ち上がると、すでに私は夢の中だった。

夢の中ではいつも裁判が開かれていて、今まさに私の記憶の判決を下している最中のようだ。膨大な量の記憶を一つづつ吟味して、必要なら留置所から解放し、不必要なら潰されていく。

どれもこれもすぐに白黒はっきりさせて処理しているはずなのに、その中に一つだけ曖昧に保留されている記憶がある。私はそっと近づいてその記憶に触れようとしたが、直前で目を覚ましてしまった。私が自身のことでも触れてはいけない記憶なのだろうか。気がかりだが、もしそれが自分を守るための無意識のうちの自己防衛なら、あまり触れないでおこうと思う。

さて...目を覚ましたのはいいが、ここは木の上ではないらしい。ヒビの入ったコンクリートの壁や、少しカビ臭い匂いから、どうやらここは廃墟のビルの一室のように見える。

私は埃にまみれた床に敷かれた赤い布の上に寝かされていた。

「お目覚め?昨日はタンタシオンがあなたの唇を奪ったそうね。」

ハスキーな女性の声が後ろから聞こえ、私は勢いよく振り返る。タンタシオンを知っているんじゃ、その女性は少なくとも人間でないと私は即座に考えた。

私のその考え通りで、声の主の頭には小さなツノが生え、黒い羽が背中から伸びている。見た目で悪魔とわかるのも珍しい、悪魔は人間と同じ姿でこの世をうろつくことが多いから。かく言う天使とて、現世に降りるときは一般人を装うのだけどね。

悪魔は豊かな栗色の髪をいじりながら、その私に微笑みながら近づいた。

「初めまして、ミロちゃん。タンタシオンや他の子があなたを堕天させるのに随分手間がかかってるみたいで気になって来たの。私はドラスペナス。もうお察ししてると思うけど、悪魔よ。」

ドラスペナスは小さな子供を見るように微笑みながら、少しかがみこんで床の上に座る私の鼻をつついた。それがなんだか嫌で、すぐにその手を振り払って自分の鼻を汚れを取るように撫でる。

何の用だと率直に聞いたところ、ドラスペナスはたるそうに爪を見ながら私を地獄に連れて行くことが目的だと言う。だけどそれ以外にもあるらしい、そんな素振りを見せた。

「面白いわねあなた。わかりきってることをわざわざ聞くんだ?」

「聞かないうちはただの思い込みかもしれないだろう。」

冷たい目で私はドラスペナスを睨みつけた。するとドラスペナスは腕を組み、ハッとしたように少し嬉しそうな顔をして手のひらを打った。

「なるほど。賢いのね。地獄じゃそういう人って少ないから、あなたみたいな子は好きよ。」

そうだろうねと言いかけて私は口を閉じる。変に挑発したって相手のことを何も知らない私の方が不利であるのは確定しているのだから、無理に挑発せずそっと場をやり過ごそう。

しかし、この後の私の無難にやり過ごして逃げ出す作戦は予想外の展開を迎えてぶち壊れた。ドラスペナスは急にワナワナと震えだし、そして自分の爪をかじりだし、そしてニヤリと口角を上げた。

やっぱり悪魔は予想がつかないものが多い。

さっくりとキャラ紹介を。

ミロ

天使。地上に叩き落された天使なので堕天使とは異なる。重力を操る能力があるが、使うとちょっと疲れちゃう。

制服のような服の上にジャージを着て、一見すると女子高生に見える容姿。

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