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2014.02.24 細かい文章表現を訂正しています。
まどかは合宿から帰宅をすると無性に焼酎が飲みたくなった。
以前名越が昼休み以降の授業をサボって致した日も、そうだった。
自分の気持ちが揺さぶった日には必ずコンビニに寄ってアルコールを買って帰り、それをだらだらとテレビを見ながら味わうのが習慣になっているからだ。
そのまま気がついたら2~3時間過ぎていることもある。
酷い場合は朝が来ており、何もかもつけっ放し散らかしっ放しの惨状で後悔はするものの、頭の中の一部分はすっきりしており会社に着く頃には背筋を正すことができた。
そんな日のあとは、不思議と何日かお酒が欲しくなくなるので、決して毎日飲んだくれているわけではない。
高校を出てからずっとひとり暮らしなのでもうこの生活が根付いてしまっている。
だが今はそれができない。
先日もそうであったが誰がどこで見ているかもわからないこの界隈では気がぬけない。
ジンジャーエールも、名越との旅館でのひとときを思い出して胸に甘酸っぱさが広がるので飲めない。
今は名越の事を考えたくない気分なのだ。
入浴を済ませ、もう寝てしまおうかと思った頃にスマホのバイブ音が聞こえてきた。
しばらく待っても静かにならないので電話のようだ。
最初は、初めて教室で名越と会話した日の夜だった。
今回は、深夜の合宿先の旅館にて密会である。
名越本人が明かさない限り誰にも知られることはないのだが、もしこの電話の相手が早乙女だったらどうしようか。
名越に別れを告げられた後だとしたら?
別れはまだだとして、名越の合宿の様子を探るためにかけてきたのだとしたら?
「何て答えたらいいんだろ…」
ため息をつきながら、ぎこちなくカバンを探って画面を見るなりまどかは天井を仰ぎ見た。
早乙女ではなかった。
けど出たくない相手なのに変わりはない。
居留守を使う事が頭をよぎるも、彼はただの仕事相手なのだ。
決して自分は同級生に恋するイチ女子高生ではなく、これは仕事の範囲内なので出なければならない電話だと必死に言い聞かせた。
まどかはスマホに指をかざす。
「名越君?…どうしたの?」
「遅っ。どうしたって、メール届いてるだろ?何時間経ってんだよ。」
名越と電話で会話をするのは初めてであった。
顔が見えない分その低音ボイスはまるで媚薬のように、まどかの耳から、脳へ、そして胸に響く。
まどかはそれらを打ち消すかのように、できる限りそっけなく話そうとした。
「えっ?メール?見てない…。」
「ふーん。」
しばしお互い沈黙する。
名越のため息が聞こえた。
「俺、いま分かった。」
「何が?」
「メール見たらすぐ返信しろ、電話にはすぐ出ろ、っていう女子の気持ちが。いま何してるだとか、本当にどうでもいい話をしようとするんだ。くだらないよな。」
恋する女子の多くは―、特に若いほどそういう傾向があるのだと思う。
かつては自分も常にケータイを握りしめ、授業中でもアルバイト中でも彼氏や友達との関係を保つことに全精力をかけていたように思う。
決して学生やアルバイトの身が軽いというわけではなく、年齢を重ね社会的責任が課せられると、価値観が変化していくのだ。
もっとも、葉子の時は恋愛の比重を重くしたがために社会人生活を破たんさせてしまったわけだが。
「ううん、くだらなくはないよ。女の子達は名越君を思って、もっと名越君を知って関わって満たされたいんじゃないかな。」
「それ思われる側の人間にとってはとんだ迷惑なんだよね。笑えるよな、いま俺はお前と何か話したくて関わりたい側にいるんだ。こんな事今までなかった。」
いま名越がまどかの事を思ってくれていると解釈すれば、いてもたってもいられない気持ちになる。
しかし"こんな事今までなかった"と言ったところにひっかかりを覚えた。
まどかの中身は24歳で、社会人経験有りという大きな壁が存在し、それが17歳の名越にとっては未知で謎の領域である。
それと、名越はいままで女の子から叱咤されたり軽くあしらわれる事なんてなかったのだろう。
まどかが今までに現れなかったタイプであるから珍しくて、無意識に興味本位で関心を寄せてしまっているのかもしれない。
そう考えていくと、まどかの心は寂しくなるものの同時に少し心に余白が出てきた。
「そっか。私ともっと話したいんだ?なーんてそんなわけないよね。私はそんな底の深い人間じゃないから!電話で話すような深い話は何も思いつかないよ~。」
「…。」
「ねえ、私の話じゃなくて悪いんだけど、早乙女さんと別れるって本気なの?」
静かになった電話口に、まどかは恐る恐る気になる事を聞いてみた。
「…ああ、早乙女と付き合いだしたのも断り続けるのが面倒だったからな。別れ話をするのはもっと面倒だったけど、それ以上に本気になれる女が現れたから決心がついたんだ。」
本気になれる女が誰なのか、聞きたいようで聞く気にはなれない。
まどかはサッと頭を切り替えた。
「ってことは今名越君はフリーなのね。それじゃあもっと女子が群がってくるよ~!」
名越が拒絶しても女の方から寄ってくるのだから、引き続き煙たがられないように探りを入れておかなければ。
それ以外の話題は仕事外なのだ。
「もう遊ぶつもりはないな。体育祭まで残された時間は少ないから準備で忙しいし、来年は受験だぞ?」
「ほんとだね!あっ私そろそろお風呂入るから、電話きるね。」
「…んとにあっさりしてんなお前。」
「違うよ。勉強合宿が鬼過ぎたんだよ…。もう疲れて疲れて。」
帰宅した頃はそうでもなかったのだが、今になって残業で終電を逃したときみたいな疲労がわいてきていた。
「…わかったよ。」
「じゃあね、バイバイ~!」
「おやすみ、だろ?」
名越の言うおやすみは妙に色気があった。
「はいはーい!おやすみ!」
まどかは底抜けに明るく通話をぶった切った後、背伸びをして両肩をぐるぐるとまわした。
スマホの画面には1件未読の受信メールがある。
これが名越の言っていた、数時間前受信したメールだろう。
今日はおつかれ。
余裕ぶって夜更かしでき
る学力じゃねえんだから
無理すんなよ。
深夜の旅館で早乙女と別れる宣言を受けた後、アドレス交換をさせられたのだった。
まどかはスマホを枕元に置いた時、早乙女がいまどうしているのかがとても気になった。
いつもの彼女ならもうこの家へ乗り込んでくるか、アドレス交換しているので連絡があるはずなのだが。
早乙女はお嬢様で高飛車で、彼氏と会話する女をいちいち監視するホラーな所があるけれど、話し出せば次から次へと話題が飛び楽しませてくれる楽しい人だ。
まどかは割と気に入っていたので、この一件で一触即発になるかもしれず残念に感じていた。
その夜、早乙女妃菜はスマホを握りしめて呆然としていた。
しばらくの間、虚ろな目が宙をさまよう。
ふとした瞬間ベッドの上にある大量のぬいぐるみが急にわずらわしくなり、空いた方の手で払いのける。
どうしてこうなってしまったのか。
財閥令嬢であるこの自分が、可能な限り彼氏に合わせてきたのだ。
メイク、髪型、スタイル、服装、持ち物など外見だけでなく、名越条治の隣にふさわしいように知識文化教養を身につけようと努力を怠らなかった。
こんなに頑張っているのに度々浮気をされてしまったり、その前兆に勘付いた時は怒りを抑える事ができないけれど、その辺のただ日々をやり過ごしてるだけの薄っぺらい女子に負けるわけがないから、どこか心に余裕を持ち続けられた。
その余裕とやらがいけなかったのか。
早乙女は着信履歴を眺めてもう一度電話をかけてみた。
しばらくコールが続いた後、やはり留守電に変わってしまった。
好きな女ができたと、一方的に別れを切り出されてからこうしてかけ直すのはもう10回近くにもなる。
好きな女とは、この春突然現れたあの女子であることは教えてもらわなくても分かる。
見た目突出した部分はないけれど物腰や心得、言動が他の女子とは一線を画しているところがある。
勉強合宿での夜に寝室を抜け出して二人でコソコソしていた事は把握していたが、まさかその数時間後に別れ話がくるとは思ってもみなかったのだ。
「西上まどか。私の事を応援すると言っておいて、よくも…。あまりにも卑怯なやり方だわ。条治を正気に戻さないと!西上なんてどこの中小企業よ!お父様に調べてもらわないと!!」
早乙女は腹の底から唸るようにつぶやき立ち上がった。
※あいにく名越視点の文章は書けそうにありません。




