表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LOVE OF BLOOD  作者: hisa
8/56

<8>それぞれの心曲

 他愛のない話。突然声を掛けて来たのは、昨日マックの二階から見かけた一年生。

 無視するわけにもいかず、心此処に在らずといった感じで、それでも相手に悟られない様カイトは心にもない笑顔を浮かべ耳を傾けていた。

 端から見れば和やかでいいムード。

 そんな気のないカイトは微塵も思ってはみないのだけれど。

 目の前の彼女は愛らしい花の様な笑顔を浮かべて笑っている。確かにそこら辺の女の子に比べれば飛びぬけて可愛いのだろうとカイトは思う。だけど、やっぱり大した興味は湧いては来なかった。


「カイト先輩?」


 そんな彼女が小首を傾げる。さっきまで笑っていた彼女はふと逸らしたカイトの視線に気が付き、そちらに視線を流した。右斜め前方。二階の渡り廊下。そこにいたのは、


「あ、ユウ先輩ですね。カイト先輩のお姉さんですよね?」


 カイトは声なく頷いた。

 艶のある髪が夕日に反射していてきらきらと輝いてとても綺麗だったのに。また、なんだか悲しそうな顔をしている。最近のユウは物憂げにしている事が多いようにカイトは感じていた。中庭をぼんやり眺めているユウはこちらの存在に気付いているのだろうか?

 カイトはそんな事を思いながら、一年生に視線を戻した。

 そろそろ開放して欲しいなと思う。そして、この子の名前は何だったっけ?と思いながら相手には伝わらない程度の愛想笑いを浮かべた。

 

 ユウの思い詰めた様な顔が頭から離れなかった。片割れのそんな表情を見るとカイトはついシンクロしてしまう。一体何かあったのだろうか。不安が雨雲の様に膨れ上がる。ユウにはいつでも笑ってて欲しいのに。


「ねぇカイト先輩? 聞いてます?」


 ついぼんやりしてしまったカイトに一年生は小さく頬を膨らませた。しまったと内心ぼやきカイトは慌てて遠くに行っていた思考を手元に引き戻す。


「ごめん。もう一回言ってくれる?」

「やっぱり聞いてなかったぁ!」

「ごめんごめん、で、どうしたの?」

「今度どこか連れてって下さい」


 いつからこんな話の流れになったのだろうと、カイトは一瞬きょとんとする。心此処に在らずのうちに話がおかしな方向に行ってしまった様だ。一年生は輝かせた瞳を懸命にカイトに向け返事を待っている。

 困ったなと思い、また視線をユウがいる筈の二階の渡り廊下に向けた。


「あれは…」


 返事を心待ちにしていた一年生もカイトの視線を追う。


「ああ、サク先輩ですね。それより、先輩どうですか?」

「ああ、じゃあまた今度な」


 そう言ってカイトは一年生の顔も見ずに答え、踵を返した。

 

 一瞬見えたのは擦れ違う、サクとユウの横顔だった。お互いに何とも言えぬ顔をしていたが、サクは兎も角ユウはカイトには泣いている様に見えて仕方なかった。適当にあしらう訳にもいかないと思っていた一年生に、思わず適当な返事を返しカイトはユウが消えた西校舎へ駆け出していた。

 確かサクは以前ユウに言い寄っていたのを覚えている。最近は音沙汰がなかっただけに何かあったのだろうか。ここ最近のユウは不安定でカイトの気持ちをこれでもかと言うほど乱す。悲しい顔をするのは何故?儚げな視線は何を見ている?なんでこんな不安な気持ちになる?

 ユウが分らない事がこんなにももどかしく、そして少し寂しい。

 

 オレンジ色の夕日がユウの物憂げな表情と重なり心に沁みた。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ