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LOVE OF BLOOD  作者: hisa
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<7>それぞれの心曲

 東校舎と西校舎を繋ぐ渡り廊下は二つ。一階に、雨を凌ぐ程度に設けられた屋根のある吹き抜けの渡り廊下。そしてこれまた二階に位置する雨曝しの渡り廊下。一階の渡り廊下は直接中庭にも出る事が出来る造りだ。

 寒くなってくると、2階の渡り廊下の利用者は減る。理由は簡単で、一階より風が強くて寒いから。でもそんな2階の渡り廊下がユウは好きだったりする。

 何となくそこから眺める中庭が好きだ。緑がいっぱいあって、その真ん中に位置する気持ち程度の池にあんまり大きくない鯉がいる。お世辞にも等間隔とは言えない感覚に置かれた古びたベンチに、お喋りする学生。自分だけ、違う空間から眺めている様な感覚を覚える。いつもはその景色の中に溶け込んでいる自分。だから、少し不思議で取り残された様な、でも特別な様な。ユウのお気に入りの場所。


「でも、来るんじゃなかったかなぁ……」


 そんな特別な場所で、ユウは声にならない呟きを零す。

 真っ直ぐに中庭を見詰める瞳は、ゆらゆらと揺れている。綺麗に整えた眉尻を下げ、唇を噛み締めた。

 見たくない。

 でも逸らせない。

 自分の視線を釘付けにするのは、そこに自分の片割れがいる事実か。それとも、一緒にいるのがマリという事実か。はっきりした理由が分からず、そんな自分に戸惑う。知らずにもやもやとした不安にも似た不快感がユウを苛む。

 楽しそうに、可愛らしく笑うマリがそこにいて、傍にいる事が全く違和感のないカイトが自然な笑みを零す。


 何を話してるのかな――


 二人の会話までは聞こえて来ない。だからその表情で、感情を垣間見ようと必死に目を凝らしていた事に気が付き愕然とする。


 やめよう。


 何だか分からないけど、こんな事してる自分が嫌だし何だか苦しい。締め付けられる思いに耐えられそうにない。ユウは、顔を逸らし校舎の方へ足を向けた。

 早くこの場を去りたかった。

 視線を足元に落したまま、俯き加減でゆっくり歩く。誰もいなかった筈の渡り廊下に、不意に俯いた視界の中に上履きの先が入り込んできた。小さく驚いたユウは弾かれた様に爪先の持ち主を見上げる。


「サク先輩……」


 其処には無表情で校舎の壁に寄りかった状態で、無造作にポケットに両手を突っ込んだサクが立っていた。昼間の笑顔が嘘に様に無表情で、心なしかユウの内心が冷やりとする。


「いつから、其処に?」

「ずっと、いたけど? なんならユウちゃんが来る前からね」


 壁に寄り掛かった姿勢を正し、サクは含んだ表情を見せる。ユウの中で、危険な警報がなっている気がした。


「今日は、マユちゃんとお買い物は?こんな所で何してるの?」

「……別に、何も」

「そんなに、弟が気になる?」

「そんなんじゃ……!」

「じゃあ、何でそんな辛そうな顔してるの? 何か、俺分っちゃたわ。ユウちゃんが靡かない理由。ちょっと、依存し過ぎなんじゃないの? いくら双子とはいえ、相手は弟だし。俺、ちょっと納得いかないしそんなの。他に好きなやついるって言うならまだしも、それって一種のブラコンだろ」


 真剣な眼差し。今までにない迫力、今までにない冷めた感情、剥き出しの敵対心。ユウの中の警報は鳴り止まない。見た事のないサクがそこにいて、強張る顔を隠すことが出来ない。

 そして言われた事を理解する為に、もう一度頭の中で反芻する。

 ――依存し過ぎなんじゃないの?

 他人から見ても分ってしまう程?

 ――いくら双子とはいえ、相手は弟だし。

 そんな事言われなくたって、一番良く分ってる。

 サクの言葉を噛み締め、思わず歯を食いしばる。なのに、反論の言葉は喉に支えて思った様には出て来なかった。

 悔しくって涙が出そうになるのを、睨みつける事で無理やり堪えてユウは何も言わずにサクの横を通り過ぎた。


 依存し過ぎな事なんかとっくに分かっている。だから、こんなに悩んでいるのに。

 動揺しすぎて、上手く呼吸が出来ない。悔しくて堪らなかった。誰かに心の内を見透かされた事も、何も言い返せなかった自分も。

 サクの表情は無表情だったけど、声音は少し怒っていた。からかってユウに言い寄って来ている訳ではなかったのだと、初めてユウは理解する。無表情のサクは、いつものサクとは違って背筋がぞくりとする程怖かった。ただ、背後から照らす夕日の翳が擦れ違いざまのサクをとても綺麗に彩っていて、何かを考える事を拒否する頭はその映像だけを瞑った瞼の裏に描いた。


 カイトの声が聞きたいと、無性に思った。

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