<6>好きと嫌いと白い翼
他愛のない話にユウとマユは夢中になりながら、昼食を終えた。日当たりのいい席は上級生に取られてしまっているので、昼食をさっさと終えて二人は教室へ移動しようとしたその時。不意に聞きなれない声にユウは呼び止められた。
ユウが振り向いたそこには、上級生の「間宮咲」が爽やかな笑顔をこれでもかと言うほどに浮かべて立っている。
ユウは一瞬困った様な表情を零しそうになったが、咄嗟にそれは偽善的な笑顔へ変貌する。
「こんにちは、サク先輩。どうしたんですか?」
少し身構える。
間宮咲。一学年上の先輩で、ユウが入学した時からなにかある事にちょっかいを出す存在。要はサクのお気に入りにされてしまったのだが、正直ユウは余り良い思いはしていなかった。最近は余り構って来なかっただけに、ユウの警戒心が過剰になるのも仕方がない。
そんなユウの気はいざ知らず、サクはだらしのない笑顔で、
「ユウちゃん、今日お暇?」
「えっと、今日はちょっと……」
突然のお誘いに少々戸惑い気味で、ユウは慌てて隣のマユに視線を送る。
仕方がないな、と言う感じでマユは眉間に軽く皺を寄せ、助け舟を出した。
「ごめんなさい先輩。ユウは今日あたしに付き合ってくれる約束してるんですよ」
「おっと、マユちゃん。先約か〜、別に俺はマユちゃんも一緒でもいいんだけどな?」
「そりゃ、残念です先輩! 今日は、ユウと二人っきりでお買い物なんです。また今度誘って下さいね?」
さらりと、それはそれは華麗にマユはサクの誘いを見事にかわした。ユウはこっそりと安堵の溜め息を吐き、
「先輩また誘って下さい」
軽く一礼してマユと共にその場をそそくさと逃げ出したのだった。
「ユウさ、その気ないんだったらちゃんと態度で示さなきゃダメだよ?あの人はあんな曖昧な態度じゃかわせないから」
「だって、何か言われた訳じゃないのに」
「言わなくったてあからさまに分かるでしょー! 入学した時からだし。しかもサク先輩人気あるけど、軽くて有名だし。遊ばれたくないならちゃんと意思表示しなきゃダメだって。いつもあたしが側にいるとは限らないんだからね?」
少し厳し目にマユ。
そんなマユの意見はご尤もで、ユウには反論の余地がない。かと言って、別にサク先輩が嫌いなわけでもないのだが、だからと言って好きな訳では勿論ない。だから正直余り興味のない存在。そんなこんなで、強く押しのけたり出来ないでいるのだが。
「ねぇ、マユ? マユって好きな人いる?」
教室の窓の外を、白くて綺麗な翼の鳥が一羽横切った。窓際の席から身を乗り出すユウの肩越しにぼんやり視界の片隅に納めながら、マユは突然この子は何を言い出したのかと疑問に思う。真剣な表情で、少し視線が泳いでいる。
親友の突拍子のない発言と、何故だか初々しい態度にマユは思わず笑いが込み上げて来る。今まで誰かと付き合った事がない訳でもないのにと。
「突然どうしたの?」
「別に、何かあった訳じゃないんだけどね。あたし、今まで本気で好きになった人って実はいなかったんじゃないかとふと思って。何か、前に付き合ってた人達もサク先輩も同じ感じ?」
「それって、別に好きでもないし嫌いでもない? って感じ?」
「うん。そんな感じ?」
二人して疑問符を飛ばしまくりながら、それでも何となくユウの言ってる意味がマユは理解出来る気がした。なぜならそれは、以前のユウを見て何となく感じた事があったから。だからどちらかと言えば納得。
マユは小首を傾げながら手を顎に押し当てて考える。端麗な顔が難しく歪んでしまった。
いつかユウにも本気で好きになる人が現れるのだろう。
でもそんな相手が現れるまでは、きっと分からない。
本気で好きになれる人が現れれば、ユウの気持ちも白い翼を持ってさっきの白い鳥の様に飛び立って行くのだろう。
そしたら、きっともっと強くなって優柔不断だって治るかもしれない。
少し、それも寂しい気がするのはマユがちょっとだけユウよりお姉さん気質だから。だけど、ユウの事を一番応援してるのも、白い翼を早くあげたいのも本当の気持ち。
「本当の好きってどんなだろうね?」
マユは優しい笑みを湛えながらユウを見た。




