<21>お互いの感情
何それ、何それ、何それ。
一目、見た瞬間に誤認識してしまいそうな関係というのはどういう事なのだろう。二人は双子の姉弟であって、恋人ではないはず。と、言うより、それは有り得ないのだから。
それなのに、白いきらきらと輝く雪の中で、寝そべって視線を絡めて見詰め合う様は、恋人――想い合う男女にそれにしか見えなくて、マリは絶句する。
ユウに会いに来て、それでカイトが好きな事を話して、認めて貰おうと思って、わざわざ寒い中ユウを探して校庭まで来たのに。何だか見せ付けられた様な不快な気分。
この間は少し遣り過ぎた感が否めなくもなかったから、少し反省して謝ろうかと思ったのに、姉弟二人であんな雰囲気醸し出して見詰め合ったりして。わざわざ足を運んでそれを見せ付けられて、こっちが馬鹿みたいだとマリは嘆息した。
少し遠巻きに、マリは二人の様子を観察する。
今度は、あんなに見詰め合っていたのに、視線を交わす事無く何かの作業を始めた二人は、不自然を絵に描いたよう。
その様子に、マリの脳内で鳴っていた小さい警報が徐々に大きくなっていく。だって、そんなのないと思う。カイトとユウは姉弟でしかも双子だ。家族としての好きなら分かるけど、今の二人はその家族愛だけでは片付けられない程の恋情を滲ませていたように感じられた。
この前のユウがムキになったのは、何故だろうと思う。
もし、ユウの感情がカイトに向かっていたとしたら、それで全ての辻褄は合うのではないか。
「……そんなのって、有り得ない」
唖然として呟いた吐息は白い世界に溶け込んでいった。
先にその存在に気が付いたのは、ゆっくりとした動作で振り向いたカイト。
鋭い眼光を向けられて、一瞬動く事が出来なかったのは、もしかしてカイトも同じ気持ちをユウに抱いているのかと思ってしまったから。息を呑む。
だけど、邪魔をするなと言う様に鋭かった眼光は、ほんの一瞬で緩まりいつものカイトに戻ったのだけど、マリの中で生まれた疑心は、目の当たりにした局面が焼きついていて晴れはしなかった。
「どうしたの?」
カイトの声にユウが振り向く。その瞳に落胆と拒絶の色が浮んだ気がして。
「ユウ先輩に用があって」
ユウの瞳の色に怯まない声音で告げなければ。
「え? あたし?」
ユウは手にした雪の塊をぽとりと落した事にも気付かない程、驚いた様子で。
どんな事実がそこに在るのか確かめたくて。カイトを想うこの気持ちも簡単には諦められないから。マリはユウの事を真っ直ぐに見据えた。それが事実なら、そんな不純は間違っているのだから、ユウにはカイトを渡したくない。
「少しだけ、ユウ先輩お借りしますね」
マリはカイトに向かってお辞儀をし、そのままユウに向き直した。
「お時間は取らせませんから。ユウ先輩いいですか?」
「……あ、うん」
気まずい空気が垂れ込めたその場を、ユウと二人。ますます重い空気を連れ立って離れた。
外は寒いからと、一旦校舎の中に戻って、それでも人の多い所は避けたかったから、結局昇降口。
お互いに張り詰めた緊張感。冷たくなった手を片方の手で擦りながら、まず先に言を発したのはユウだった。
「用って、何?」
相手の出方を探る様な声音。
「あたし、カイト先輩が好きです」
だから、ユウから目を逸らさず、気持ちをこれ以上ないという位に込めて伝える。
ほら、やっぱり。
と思って仕舞うほどに、ユウの表情は落胆と激しい激情が交差する。マリが言わなくてもユウは知っていた筈で。それでも、この反応って事はマリの一抹の懸念は的中してしまっていたのかもしれない。
「知ってる」
一定の間の後にユウは重々しい表情と声音で吐き捨てた。
「それ、伝えたくて。本気だから、認めて欲しかったんです。それと、ユウ先輩に確かめたい事も」
今度はマリがユウの出方を窺う番。少し上目遣いになる。
意を決して発した言葉は、
「ユウ先輩。カイト先輩の事、どう思っているんですか?」
いつも読んでくれてる皆様、そして初めて読んでくれた皆様。お付き合い頂きありがとうございます!
一話毎が短くてすみません(汗)それでも精一杯努力しますので、気長にお付き合い頂けたら嬉しい限りです!
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