<20>降り積もるのは
真っ白に塗り替えられた校庭は、普段なら部活動に励む学生の声に溢れかえって賑わっているけれど、今日の校庭は深々と降り頻る白雪で白銀の世界に包まれている。
吐き出す呼気がいつも以上に真っ白で。何て事でもないのに、妙に浮かれた気分でわざと息を吐き出してみたり。その白さに更に気分が高揚しはしゃいでしまうのは、隣にいるのが一番安らげる相手だからなのか。
「ねーカイト! こっちの雪綺麗だよー! すっごい大きい雪だるまにしよう」
真綿の様な雪を踏締め、ユウは校庭の端の方へ走って行く。
ちょっと転ばないか心配になったりして、ヒヤヒヤしながら後に続く。だけどカイトも実は楽しくて仕方がなかったりする。こんな処はさすが双子で意気投合。
掌に載せた雪の塊を少しづつ大きくしていきながら、ユウは満面の笑み。
それが本当に微笑ましくて、心を擽る。
胸が締め付けられる様な、それでいて奥底から湧き上がる欲求。
いい加減にしてくれよ、これ。
都合の悪い感情には蓋をしたけれど、湧き出るものが途絶えなければそれはいずれ決壊してしまう事は分かってる。もう、この蓋もそろそろ限界が来てるんじゃないか。今にも決壊しそうな蓋に自信をなくし、カイトは柔らかい雪の上にばたんと力無げに倒れこんだ。
見上げた上空は白い雲に覆われていて、惜しみなく白雪を振舞う。
まるでカイトの蓋が壊れてしまった様な空だった。
「雪空って、寝転がって見上げた事ってそういえばないねぇ」
そう言ってユウはカイトに倣うべく、隣に寝転んだ。
「なんか、不思議な感じ」
「綺麗な眺めだけど、ずっとはきつい。顔の熱で雪が溶けてびしょびしょになる」
「あは、ほんとだ! 顔洗ったみたい」
空から隣のカイトへ顔ごと向ける。そして、あまりの顔の近さにお互い少しびっくりし、妙な沈黙が生まれる。ユウの真っ直ぐな視線。噛合う視線を逸らそうにも、何故だか逸らせなくて、ますます妙な感じだ。逸らしたいのに、お互いの視線に絡み取られてお互いが逸らせないような。そんな感じ。逸らしたいのに、逸らしたくないとでも思っているような。
姉弟で、この絡み合いはおかしいだろ!
心臓が必要以上の血液を送り出し、そろそろ限界。カイトは自身に突っ込みを入れる事で漸く我に返った。あわてて逸らした顔は、濡れた頬の雪が蒸発してしまいそう。
「雪……! 雪だるま! 作ろう」
「そ、そうだね!!」
ぎこちない会話に、今度は合わせられない視線。何もかもが不自然なのはお互いが意識し過ぎているからで。でも、お互いにそんな核心に触れる事も気付かない振りをするのもこの関係と安全なポジションを守る為。
少なからずとも、もうカイトはこの気持ちを自覚しているから。
他の人よりもフェアじゃない関係だから。ユウの気持ちを優先にするなら、この気持ちは伝えられないのも分かっているのに、頭では分かっていても本能は思うように働いてはくれなくて、いつか抑え切れなくなるんじゃないかと、ここ最近はハラハラと葛藤の日々が続いているっていうのに。
――それなのに、無邪気に視線なんか絡めるなよな。
深い溜め息を吐いて、手にした雪の塊を自分の頬に押し付けた。上気した頬に、雪が音をたてた様な気がした。見上げた空は、先程とも寸分変わらぬ様子で、壊れた蓋から溢れた想いを地上にこれでもかという程降らせているから、何だか切ない。
「お前はいいよ。勝手に降って勝手に溶けるから――」
溢れて、溢れても、ここに在るのは溶けない気持ち。
底を尽きる様子も見せない、無限に広がる気持ち。
誰にともなく呟いた言葉は白雪に絡め取られ、そこに哀切だけが残った。




