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2/2

2.出会い

 その村は城下町から東方に向かった先にあった。カラッとした空気に、青空がどこまでも広く澄み渡る。さまざまな虫の鳴き声が響き合う穏やかな森の小道を、二人は並んで歩いていた。


「先日激しい雨が降ったでしょう?」


 疲れた様子の彼女の歩調に合わせながらレナートは頷く。


「ええ、そうでしたね」


「あの後、山に入ったところぬかるみに足を取られてしまったんです。それでいつもと違う道で帰ろうとしたら迷ってしまって」


「そうでしたか。雨のあとの山道は危険ですからね、気をつけないと」


「ええ、本当に……」


「村の方は無事で?」


「はい、特別被害もなく。村で生産している小麦も無事でした」


「小麦ですか」


「そうです。あぁ、ほら……あれです」


 やがて視界が開けると、そこには黄金色の小麦畑が一面に広がっていた。


「あぁ、やっと帰れた……」


 目を惹くほどに美しい景色に、彼女は心からの安堵のため息をついた。


「本当にありがとうございました。なんとお礼を言ってよいか……」


「いいえ。無事に帰ることができて何よりです」


 アクシデントもなく彼女を目的地まで送り届けられたことにレナートもほっとした。


 村の入り口まで彼女と共に行くと、マルガレーテは何度も感謝の言葉を口にしながら頭を下げた。そんな時、そこに立ち止まる二人を見て遠くから声がかかった。


「母さん!?」


 見ると、一人の少年が慌てた様子でこちらに走ってきていた。マルガレーテもまた、彼を認識すると見る見るうちに瞳を輝かせ、心から嬉しそうな声を上げる。


「ロアン……! あぁ、良かった……!」


 少年はみずみずしさを感じさせる若草色の瞳と髪をしており、上品めいた黒い服を着ていた。彼はボロボロな姿のマルガレーテの元まで来ると、驚きと怒りを含んだ声で叫んだ。


「ど、どうして……? いや……どこに行ってたのさ! ずっと探してたんだよ!? みんな……ずっと、母さんのこと心配して……!!」


 だんだんと震え声へと変わっていく。ずっと我慢していたものが涙となって目に溜まっていった。そんな少年にマルガレーテは申し訳なさそうに、けれど、とても穏やかに笑いかける。


「心配かけてごめんなさいね。道に迷ってしまって、城下町の方まで行ってしまっていたみたいなの」


「そんなところまで……」


「でもこの方が親切に助けてくださってね、ここまで案内してくださったのよ」


 そう言い、手のひらでレナートを示すと彼は品よく挨拶をした。


「こんにちは。君のお母様だったんだね」


「え……?」


 ふと、少年は何を思ったのかに目を丸くしてこちらを見たが、すぐにハッとし頷いた。


「あ、あぁ、そうなんです。母を助けてくださってありがとうございました。あの、俺はロアン・フェルトマンと言います」


「僕はレナート・ソレル。よろしくね、ロアン」


「よ、よろしくお願いします……。あの、レナートさんは見たところ旅の方のようですが……」


「あぁ、そうだよ。と言っても、旅を始めたのはついこの間なのだけれどね」


「そうですか……あの……」


 モジモジと何か言いたいことをためらうような仕草にレナートは疑問を覚える。しかし、彼が口を開く前に再び村の向こうから声が飛んできた。


「おやまぁ、ロアン。そちらさんはどなたかね?」


「あ、メアリーおばあちゃん!」


 ロアンは腰の曲がった白髪の老淑女に駆け寄ると彼女の身体を支えるように手を伸ばした。

 メアリーと呼ばれた老淑女は赤い肩掛けをグイッと首元に引き寄せると、小さな丸眼鏡を指で押し上げながらレナートを見上げた。


「あらまぁ、綺麗なお顔立ちだこと」


「恐縮です、マダム。僕はレナート・ソレルと申します」


「あらまぁ、言葉遣いも綺麗だわ」


「あのね、おばあちゃん! この人がね、母さんを連れて帰ってきてくれたんだ!」


 そうしてロアンは嬉しそうにレナートの横に並ぶマルガレーテを指差した。彼女は気恥ずかしそうに頭を下げる。


「この度はお騒がせしてしまい、本当にすみませんでした」


 メアリーはロアンを見上げるとシワだらけの目を細めて笑った。


「あらあら、それは良かったわね。すぐに村長さんにも報(しら)せてあげましょう。彼もずいぶん辛かったでしょうから」


「あ……うん……」


 不意に暗い顔をするロアンにレナートが聞いた。


「どうかしたのかい?」


「あっ、いえ……! あ、そうだ。良かったらレナートさんもウチに来ませんか? 大したもてなしはできないかもしれませんが……。あっ、美味しいパンならあります! ぜひ食べて行ってください! ね?」


 今にも袖を引っ張り出しそうなその姿にレナートはふふっと笑い声をこぼした。


「そこまで誘われては断るのも忍びないね。では、お言葉に甘えさせていただくよ」


「良かった! さぁ、こちらです!」


 そうしてロアンは先頭に立って彼を村の奥へと案内した。

お読みくださり、ありがとうございました。


ぜひ感想等お待ちしております。

次回もよろしくお願いします!

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