1.その旅人は紳士につき
“かの聖剣は、人に問う。
その身に刻まれし神の願いを。
暁が血と交わり合い、命を生む。
エルシオンより、此の花を”
——そんな文章が走り書きされた一枚の古びた羊皮紙を手に、ひとりの青年は立ち上がった。
色素の薄い紫の髪が風になびく。長いまつ毛を従えたアメジスト色の瞳は眼下に広がる自身の愛する街を映し出していた。
遠くには雄大で荘厳な我が国の心臓——アンファノール城がそびえ立っている。
彼はふくらはぎまである長い旅人用のローブを身にまとい、最低限の荷物を入れた革のバッグを背負う。
腰には二本の剣が携えられていた。一本は何の変哲もない銀の長剣。そしてもう一本は、細かな植物模様の装飾が施された、金の剣だった。
広い丘の上から街を見下ろす彼の目は、どこかせつなげな色を帯びていた。
そんな愁いを帯びた彼の足元に、ふと小さな小石のようなものが転がってきた。
「?」
手に取ると、それは青い花のブローチだった。長い年月が経っているのか、ところどころ傷やくすみが見られる。
「これは珍しい」
ポツリと呟く彼に駆け足で誰かがやってきた。
「あ、あの……すみません」
顔を上げるとそこには乱れた長い髪を後ろで大雑把に結んだ女性が、ひどく疲れた顔で立っていた。
服は薄汚れ、ところどころ破れたり、ほつれている。
「それ、落としてしまって」
と、弱々しく彼女がブローチを指差した。彼女の落とし物だと気づいた彼は素直にそれを返す。
「どうぞ」
「ありがとうございます……」
彼女はブローチをそそくさとポケットへしまい込むと、目の前の彼を探るような目つきで見た。
「旅のお方でしょうか」
「ええ、そうですよ。……貴女は?」
すると、女性は腕にかけているカゴを見せた。中には葉や枝ばかりが入っている。
「わたしはマルガレーテと申します。村のそばで木の実を摘もうとしていたのですが、道に迷ってしまって……」
「村と言いますと、すぐ近くのブラウアー村のことでしょうか」
「あぁ、そうです。そこまでの帰り道がわからなくなってしまって……あの……大変不躾なお願いとは承知しているのですが、よろしければ村まで案内いただけないでしょうか」
彼は「ふむ……」と右手を口元へ当て、考える素振りを見せた。
彼女の頬は痩せて見え、その目にも生気がないように感じられる。そんな彼女を見捨てるのは忍びないと思うと、急な申し出にも関わらず、彼は快く頷いて見せた。
「わかりました。では、村まで案内しましょう」
すると、マルガレーテはパッと顔を明るくさせた。
「あ、ありがとうございます……! あ、あの、失礼ですがお名前は……」
「あぁ、申し遅れました」
彼はその言葉に背筋を正すと右手を胸へ添え、丁寧に一礼した。
「僕はレナート・ソレルと申します」
夏麗よだかと申します。
新しくシリーズものをはじめました。
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