狂おしいほど無価値。
ポロポロになった人間がいて。
涙と一緒に存在する映画や、
空に流れる音楽を聴いた時に、理屈じゃない部分が、ぎゅーんってするでしょ?
その部分がポロポロになるくらい、汚泥。
でも人間てすごい、汚泥の中から立ち上がる。
そして、前を向くのだもの。
立ち上がったその人間は
それは若い頃からのダメ野郎で。
よそ様の畑から、食べもしないくせに
かぼちゃを盗んでみせた。
だけども、まだまだポロポロのままなのに
生まれ変わったみたいに
一生懸命になって、何かを作り始めた。
『オレのように、今かぼちゃを盗む人、
汚泥の中で必死に生きようとしている人。
そんな人に、届けたいんだぜ。』
ふーん。
もうダメ野郎なんかじゃなくなってる。
人間てすごいね。
そんなすごい元ダメ野郎が、すごい何かを作るんだって、それはすごいかもしれないから、新聞紙を書く人がたずねてきた。
『美談にしたくないぜ。』
新聞紙の人は帰っていった。
元ダメ野郎は、かぼちゃの呪いなのか、
家族なんかいなくて、たまに寂しいから、
みかんの缶詰の空き缶に金魚を飼った。
金魚は元ダメ野郎をまばたきもしないで
ずっと見ていた。
いつまでたっても、なかなかすごい何かは完成しなかったので、やがてみんなに忘れ去られた。
晴れて、
雨がふって、
たまに台風、
秋の夕暮れ。
雪の朝。
10年。20年。32年。48年。52年。
明日、死ぬ、その前の日に、
元ダメ野郎は、当初計画の、初期設定段階からの重大な間違いを発見してしまう。
最初っから、何もかもが間違っていた。
死ぬ前の、最後の真夜中に、
大好きなメロンソーダを一口、飲んで、
『美しいぜ、世界。』
死んだ。
金魚は、ゆっくりとうなずくように、
ただ一度だけ
まばたきをしてあげた。




