やがて来る夜明け
なんだか食欲がない。夜眠れない。本の文字が入って来ない。ぼおっとしてしまう。そして部屋から出るのが億劫だ。そんな日々が続いている。
ここのところ食事は三食全て部屋で取っている。とは言え食欲はなく量を少なめにして貰っている。それでも食べ切れないのだ。そして本を読む気にもなれず、図書室へも足が遠のいた。
部屋にいるからといって特に何かやりたいこともない。ただ腰掛けて日が過ぎるのをぼおっと待つだけだ。
そんな私を侍女や他の使用人達は心配してくれた。けれどどんな言葉も耳から通り抜けていく。
もはや外に、屋敷の外に出たいとさえ思わなくなってしまった。自分が一生部屋から出ず、やがて植物になってこの部屋に根を張る姿を想像する。なんて滑稽な姿だろうかと自嘲気味に笑ってしまう。植物ならばもう食事はいらないだろう。そうしてまた食欲が失せていく。
また夜眠れなくなるだろうに夕日が沈む頃、ぼんやりと眠気が襲ってきた。いっそ、このまま目が覚めなければいいのに。
気づけばそのまま寝入ってしまったようだ。長椅子の上で目が覚めた。いつもはベッドに入るのに。椅子から立ち上がると何かが床に落ちた。見れば毛布だった。きっと侍女がかけてくれたのだろう。窓の外を見ればまだ薄暗い。どうやら今は早朝のようだ。夜中目が覚めなかったのは久しぶりだ。
私は何をするでもなく、ただぼおっと空が茜色からやがて明るくなっていく様をみつめていた。
そろそろ侍女が起こしに来る頃だ。
「奥様!奥様!おはようございます」
ノックの音が聞こえるやいなや、部屋に飛び込んできた者がいた。あまりの所作に驚き、侍女を見て、更に目を丸くする。
「あなた……」
目の前にあの侍女がいた。
私を町に連れ出してくれたあの優しい侍女が。
ああ、よかった。無事だったのだ。
「……よかった、本当に無事で……。ごめんなさい、私のせいで……」
涙が出そうになるのを必死にこらえるが、止めることができない。
「奥様は悪くありません。私がいけなかったのです」
「いいえ、いいえ、私があなたに無理に頼んだのです」
「奥様……」
彼女の目にも涙が浮かんでいる。彼女は涙を拭うと微笑んだ。
「奥様、またこれから奥様のお世話をさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか」
こんな嬉しいことがあるだろうか。私は思わず彼女に抱きついてしまった。
「嬉しいわ。ぜひこれからもお願いします、ね」
彼女は顔を赤らめ、私も気恥ずかしくなり体をそっと離す。
「奥様、せっかく健康的になったのに、また痩せてしまわれて」
彼女は心配そうな声音で気遣ってくれる。その優しさが心に染み渡る。
朝食は部屋に用意された。どれも柔らかく煮込まれたり、一口サイズになっており食べやすそうだ。あんなに食欲がなかったのが嘘のようにお腹が鳴ってしまう。
「……おいしい」
一匙掬い、口に運べば優しい味が舌に広がった。私の言葉に侍女も嬉しそうに微笑んだ。
これから幸せになっていくターンです。なるはずです。(ハッピーエンドです)。




