【魔王先輩は知らないですか、麻島先輩って元運動部員なんですよ】
【魔王先輩は知らないですか、麻島先輩って元運動部員なんですよ】
「ほう、それは初耳じゃ」
たびたび部活動についての話題に触れてきたが、タカシは一度もそのようなことを言っていなかった。意図的に隠していたのだろうか。
「所属は?」
「野球部です」
真剣な表情のハヤミだったが、魔王は噴き出した。何がツボに入ったのか、ハヤミが訊ねてみる。
「ふははははっ! 野球部! 不良が野球っ! 不良部員っ! ベタ過ぎじゃ! 却下っ!」
「いや、何ですソレ」
よほどウケたのか、魔王は笑い続けている。物静かにカナは再び陸上部員からハリセンを受け取り、そのままスッパーンと、笑う魔王の頭をたたいた。これにはたたかれた魔王もその周りの者もびっくりだ。
「……反抗期か?」
「なんとなく。……ごめんなさい」
カナがしゅんとうなだれる。何だかよくわからないが、魔王も気を取り直して、ハヤミと向き合う。
「もう少し教えてくれ。ネタにしてやる」
「えー、でも私もあんまし知らないんですよ。今年入学したばっかだし、麻島先輩その時にはもう辞めてましたから」
「? じゃあ、いつおぬしは知ったんじゃ?」
「えーと、中学生の時。高校見学で、文化祭に来た頃だから……去年の秋ぐらいですかねぇ」
【魔王の知らない麻島タカシ】
「その頃はまだやっておったのか」
「あー、そうみたいです。野球部のユニフォームみたいなの着てましたし」
ハヤミはぼやっとした顔でその時、その頃を思い出し続ける。そこにハヤミの先輩にあたる陸上部員が「ちょっといいか」と横槍を入れてきた。
「駄目じゃ」
「おいおい……。まぁ、麻島はいい選手だったと思うよ。なかなかの強肩だったし、身体もがっしりしてたからな。外野とかキャッチャーの練習をよくやらされてたよ」
「え、えーと、外野とキャッチャーって両立出来るんですか?」
「どうなんだろ。ポジションの人数合わせとかじゃねーの」
横槍を入れてきた割には適当な受け答えだ。だが、タカシは間違いなくここの高校の野球部員であったようだ。
「何故辞めた?」
「わかんね。家の事情とかじゃねーかなぁ……バッテリーが事故起こしたとかいう話もねーしなァ」
使えない陸上部員に「役立たずめ」と魔王がののしり、「なーんだ」と、ハヤミがつまらなさそうに言った。自らのことはあまり話さないタカシについて、少しでも多く聞けるかと思ったら残念な限りだ。
「でも、私は麻島先輩に憧れて、ここに入学してきたんですよ」
「ほうほう、あの愚者のどこに憧れられる要素があった?」
「……楽しそうだったからかなー」
野球をしている時のタカシの顔は今の八百屋を手伝っている時と同じぐらい輝いていたと、ハヤミは話す。そして、思い切ってタカシにこの高校生活について聞いてみたという。




