【何十回挑んだだろうか】
【何十回挑んだだろうか】
ハヤミがついに倒れた頃には既に陽が落ちかけていた。練習もままならなかった陸上部員達が駆け寄るが、自力で立ち上がる。
「どうじゃ? 圧倒的な才能の前にひれ伏した気分は?」
「や、もう才能とかそういうレベルじゃないよアレは……」
「じゃが、ワシは走ることに興味が無い」
魔王はそうきっぱりと言い切った。
「じゃが、ワシから見ればおぬしら平民共の才能など無いに等しい。比べるだけ無駄というものじゃ」
けらけらと笑う魔王に疲労の汗も呼吸の乱れは微塵も無かった。ハヤミはまたばったりと地面に倒れた。
「何もかけず、何もはかる必要は無い。ただおぬしはひたすら走っておれ。観戦と記録という名目にかこつけて練習をサボる者共よりよほど見込みがあるわ」
「あははっ、そりゃヒドイ。ここを占拠してたの私達じゃん」
「見るだけでは練習にはならんじゃろ。……何度も言うぞ。おぬしはワシを越えられない。確実に、死んでも無理じゃな」
「そーだろーなー」
「どれだけ走り込もうが、どれだけ才能があろうが、絶対に越えられない」
それは最終通告のような、冷たい断言だった。何もかも諦められ、終わらせてしまえそうな言葉だった。
「……なら、いっそ走り続けてワシ以下であり続けてるがいい」
え、とハヤミが思わず起き上がり、魔王の顔を見た。にたにたと見下し、笑う魔王の頬は夕陽のせいか赤く見える。
「ワシからすれば、世界記録を持っている者でも亀よりものろいカナも変わらん。すべてワシ以下じゃ」
魔王の話を聞くカナは複雑そうな顔をしながら、ハリセンを陸上部員に返している。勿論、色々と平謝り付きでだった。
「走り続けろ。ハヤミ。おぬしの気の済むまで、ワシを越えられないタイムの世界で生き続けてみせよ」
「はーい……」
無茶苦茶な魔王のお言葉に、ハヤミは何だか涙が出てきそうだった。魔王はふてぶてしく、大きなあくびをした。
「これで遊びもしまいじゃ。ああ、疲れた。帰ったらタカシに肩と足でも揉ますか」
しゅると魔王がわざとその肩をさらけ出し、スカートを少したくし上げて足を見せるので、その場にいた陸上部員達とカナの目をむいた。ハヤミだけは大笑いしている。
「ああ、もう魔王先輩最高です!」
「ふっ、ワシの魅力に気づくのが遅すぎるわ」
魔王が自らの髪を撫ぜると、ハヤミは笑いすぎて出た涙を砂まみれの指でかすった。
「あー、もう麻島先輩は苦労するだろーなー」
「そういえば、おぬしとタカシは友人か? それとも片恋慕か?」
「うーん、私と麻島先輩ですか。憧れの人ってのが一番近いんじゃないかな……」




