【かけるものは何も無くはかるものも必要無い】
【かけるものは何も無くはかるものも必要無い】
「負けた方がどうこう言うものではない。ただ、並んで走るだけじゃ」
「さっき競争って言ってたじゃん。いいよ。走ろっ」
ハヤミが即答して、魔王の横に並ぶ。陸上部員達は一歩下がって、観戦することにした。色々と話題になるこの2人の競争を見逃せるわけもない。カナはもはや蚊帳の外、陸上部員という蚊の質問に刺されまくっている。
「合図はカナに任すぞ」
「……えっ、あっ、はい」
任されてしまったカナがおろおろと辺りを見回し、近くにいた陸上部員からハリセンを必死に奪い取った。何故ハリセンがこの場にあって、かつ陸上部員が持っていたのかは奪ったカナにもわからなかったが、きっと芸人志望なのだろうと勝手に思うことにした。
「よ」
ぐっとクラウチングスタートのポーズを取るハヤミだが、魔王は直立立ちしたままだ。腕を組んで、鼻歌を口ずさんでいる。
「よぉい」
スッパーンとカナが隣にいた陸上部員の頭をハリセンでたたく。その場の勢いと思いつきとはいえ、その思い切りの良さは称賛に値する。
「んっ」
ハヤミがいいスタートをきった。スピードものり、いつもの調子となんら変わりない。
「ゴールじゃ」
まだハヤミは15mも走っていないというのに、魔王は既にゴールであくびをしていた。その移動速度は既に人のものではなく、瞬間移動の類としか言いようがない。
「もう一度やるか? ん?」
「うん」
魔王の挑発にハヤミは容易く乗ってくる。ユーターンしてスタートラインにハヤミが戻るのとほぼ同時に魔王がいた。どうやら一度きりの手品ではないようだ。
「なんかコツとかあるの?」
「しいて言えばワシだからじゃ」
カナのハリセンが炸裂し、ハヤミが勢いよく飛び出した。その真横を突風が駆け抜けたかと思ったら、ゴールにまた魔王がいた。ハヤミはその勢いに足がもつれ、転んでしまう。
「……もう一度やるか?」
「う、うんっ」
鼻先についた砂をこすって落とし、ハヤミは3度目のクラウチングスタート体勢に入る。観戦している陸上部員達はただ魔王に唖然とし、カナにハリセンではたかれるだけだった。




