第3-9話 鋭い剣って、何だ!?
レッカが出て行った後、
「じゃあこれから俺は作業に入るから…」
「ああその前にロクスケ…」
アゲハはカウンターから向かって右の棚の、入り口側から一巻のスクロールを取り、
「これ、もらうわ。」
カウンターに差し出す。表紙に書かれていたのは、"Enchant Weapon"武器に魔法をかけて攻撃力を上げる呪文だ。
「へぇ…お前が………」
意外そうな顔をするロクスケに、アゲハは苦笑し、
「あたしだっていつでも火の玉ぶっ放してる訳じゃ無いわ。あの子が本気になった以上、あたしも本気であの子を支えなきゃね。」
チャリン…代金の金貨5枚をカウンターに置くと、ロクスケはそれを受け取る。
「毎度。」
「じゃあ、これ、家で読んでからまた来る。戻ったら、説明お願い。」
そう言い残して、アゲハはスクロールショップを出て行き、ロクスケはカウンターの上で物書きを始める。
後に残されたヒサゴとキュリアは、
「ねえ、アゲハって今から…」
「ええ…」
2人とも、身に覚えがあった。顔が赤くなる。
静寂が、流れる。呪文屋の中に。
2人は所在無げに店内の棚を眺めている。ロクスケもペンを手に取っているが、まともに動いていない。耳を側立てても聞こえて来るのは、せいぜいアゲハの家との間に流れる水路の水音だけである。
どのくらい、経っただろうか。
表のドアが開く音がして、
「お待たせ………」
アゲハが、入って来た。心なしか彼女の顔も上気している。
「お、おかえり、アゲハ…」「おかえりなさいまし…」
どもりがちにヒサゴとキュリアが言う。そこへ…
「ごめんください、また呪文を買いに来たよ。」
入って来たのは、僧衣を着た初老の男性…『南都ラフカディオ神殿』のオーウェン高司祭だ。
「師父様…」
キュリアが声をかけると、オーウェンは、
「やあキュリア、元気でやってるかい!?」それから陳列棚の上からスクロールを1巻手に取り、「これをいただこうか。」カウンターの上に金貨と共に置く。
「毎度あり…」
ロクスケがそれを受け取る。
「…あの人、あんたの知り合いなの!?」
「神殿で、ずっとお世話になってた方です。」
アゲハとキュリアが話す中、オーウェンは巻物を取ると、
「早速、読ませていただこうか。」
「「「え………!?」」」
女性3人が思わず声を上げる。
「ん………!?」
彼女等の動揺を不審に思いながらも、ピっ…!オーウェンはスクロールの封を切る。
「し、師父さま!!」「だめ、ここじゃ…」「あんたにニーズは無いって!!」
パラっ…構わずスクロールを開くオーウェン。
「「「だめ~~~~~っ!!!」」」
叫ぶ3人だったが、
パ ァ ァ… オーウェンは柔らかい光に包まれ、彼が見つめる中、スクロールは白紙になっていった。
ただ、それだけだった。
「それじゃあ、また新しいのが出来たら教えておくれよ。」
そう言い残してオーウェンは去ろうとするが、キュリア達がそれを止め、
「あのー、師父様…」「それだけですか!?」「その…何か、変な気持ちになりません!?」
オーウェンはきょとんとして、
「はて…確かにロクスケ君の呪文はすごいけど、何の事やら…」
「ひょっとして、神殿の他の方もロクスケ様の呪文書を読んでも…!?」
「みんな変な事は無いよ。ああそういえば、うちの若い尼僧達も、ロクスケ君の呪文書を読む時には、コソコソどこかへ行ってたけど、あれは何なんだろうねぇ…」
それじゃあ失礼するよ。そう言い残して、オーウェン高司祭は帰って行った。後に残されたアゲハ達は、声をそろえて、
「「「じゃあ、あたし(あたい、私)達のあれは何なの!!??」」」
※ ※ ※
spell enchantweapon(position,distance,theta,elementlength,joulev,jouleb{,option})
:
deltat=1.0
coefficient=0.999
:
search(a,position,edge,distance,theta)
createmesh(b[],imax,a,elementlength)
if position=me.weapon then
do while option=True
for i=1 to imax
vibration(b[i],joulev,jouleb,deltat)
next i
tstart=nowtime
t=nowtime
do while t-tstart>=deltat*coefficient
input(option)
t=nowtime
loop
loop
else
for i=1 to imax
vibration(b,joulev,jouleb,option)
next i
endif
:
end spell
subroutine search(a,position,target,distance{,...,theta,...})
:
end sub
subroutine createmesh(a,b,elementlength)
:
end sub
※ ※ ※
「まず、お前等、剣は何で物が切れるか分かるか!?」
ロクスケがそう問うと、アゲハとキュリアはきょとんとした顔をした。
「そ、そう言われても、あたし達は武器戦闘しないから…」
「唯一の戦士であるレッカさんは、今、いらっしゃいませんからねぇ…」
「剣は要するに重くて長い金属の棒だ。重さと剣士の腕力で殴りつける。刃はついているけど、殺傷力を高めるための物だ。まあ、外国には鋭い刃で、文字通り『斬る』剣もあるそうだが、この国のは違うな。」
「す、少し怖い話ですわね。斬るとか殴るとか…」キュリアが肩をすくめるが、
「あんたも付き合いなさい。こういうそもそもの原理から考えるのがロクスケのやり方なのよ。」アゲハが言う。
「とにかく、そもそも剣とは『斬る』ための物じゃ無い。それを『斬る』武器に変えてやろうというのが、『エンチャントウェポン』の呪文だ。その上でお前等、包丁とかで物を切るメカニズムはどういう物か、知ってるか!?」
さらに考えたことすらなかった話に、キョトンを通り越してポカンとなっているキュリアを尻目にアゲハが、
「包丁の刃は鋭いわよね。それで切れ目を、くさびみたいに…」
うまく表現できないもどかしさを感じながら言うアゲハに、ロクスケは、
「お前には前に言ったよな。分子の話を…全ての物は分子で出来ていて、分子と分子の間はエネルギーで結合されているんだ。これを『分子間力』と呼ぶ。物が壊れるとは、その分子間力が弱くなって、形を維持できなくなる事だと思え。」
「そうか…重い剣で叩きつければ、そのエネルギーで分子間力が切れる…鋭い剣なら、そのエネルギーが剣身という狭い範囲に集中するから、より効率的に物を切れる…」
アゲハが納得いった様に言うと、ロクスケはニヤリと笑い、
「基本はそうだ。そしてお前等、ナイフの類はただ押し切るより、引いて切った方が切りやすいのを知ってるか!?」
「あー…それであたし、野菜を上手く切れなかったのよねえ…」
アゲハは『南都』に来てしばらく経った頃、食費を浮かせるために自炊…料理を覚え始めたのだ。ロクスケもしばらくの間、不格好な野菜が浮かぶ半煮えのスープを食わされたものだ。
「さっき言った様に、全ての物はたくさんの分子の結合で出来ているから、どんなにまっすぐに見える刃でも、分子1個1個のレベルで拡大してみたギザギザになってるんだ。まるでのこぎりの刃みたいにな。」
「それでは、包丁は引いて切れというのは…」
「普通に叩きつけるより、ギーコギーコと切った方が切れやすいという事だ。」
ロクスケは手刀て叩きつける動作と、前後にこする動作をして見せる。
「そのギーコギーコを、もっとも効率よくやろうというのが『エンチャントウェポン』だ。刃を構成する分子を振動させて、普通に叩きつける動作に、のこぎり引きの効果も加えるんだ。それで………」
ロクスケはここで声を潜め、
「ここから先は、術式の説明が必要になる…」




