魔法の極意 前編
ライトニング達の部屋を後にしたフィリアは、夕涼みをするべく甲板に上がっていた
「(さて、友人になれ、か……どうした物か)」
頂いたアイディアをどう形にするか、それを考えるために空を眺めだす。
最後に見た時から何十年も経過しているというのに、この景色だけは以前と変わらない。
フィリアの目の捉える月の数は六つ、欠けてしまっているが十分に綺麗だ。
眠りにつく前の事はあまり覚えていないが、こうして月をよく眺めていた事は覚えている。
「(……そう言えば、以前は、誰かが、隣に)」
ゆっくりと視線を横に向けたフィリアは、同じように強化手術を受けた戦友の幻影を薄っすらと捉える。
その幻影へとおもむろに手を伸ばしたフィリアは、手を繋ぐ素振りを見せる。
手を胸へと置き、沸き上がって来る感情に、一滴の涙を零す。
「(私の、友人……)」
背後の気配に気づき、即座にアーマーを展開して大腿部に格納されているナイフを引き抜く。
「ッ!」
「おっと!」
「(クソ!油断した!誰だ!?)」
そのナイフの一撃は、独特な形状の拳銃を手首部分に当てられて防ぎ止められた。
「あ」
「いい反応だね」
おかげで後ろを取って来た相手の顔をはっきり捉えたフィリアは、アーマーを首のチョーカーへと格納する。
「……何のようですか?ケフュレスさん」
「あはは、ちょっと何してんのかな?って」
「……」
フィリアの後ろを取っていたのは、料理長のメグミに連行されていた筈のケフュレス。
彼女は引き抜いていたハンドガンを腰のホルスターへ戻し、フィリアへと笑みを浮かべて来る。
相変わらず腹の内の読めない糸目の笑顔を怪しく思ってしまうが、とりあえず彼女の銃が気になった。
「……初期型の拳銃ですか、随分古臭い」
「せめてレトロって言ってね、でも、カッコイっしょ?転生勇者が最初に作った銃だよ」
そう言いながら、ケフュレスはまたホルスターから拳銃を引き抜く。
もう一度露わとなった拳銃は、本来グリップ内に収められる弾倉はグリップ前方に配されている独特な物だ。
「それで、どったの?こんな所で」
「そより、何で私がここに居る事が?偶然ですか?」
「ううん、香しいロリの香りを辿って来たただけ」
「……ふざけないで答えてください」
拳銃をしまいながら放たれた気持ちの悪い発言にアーマーを展開したフィリアを見て、ケフュレスは笑みを浮かべる。
「あはは、ちょっと待ってって、私達は魔力で相手の位置とか把握できるだけだよ、まぁ半分は匂いで解ったんだけど」
「……」
少し凄いなと思った途端にまた幻滅するような発言をされ、フィリアはまた距離を取る。というより艦内へと戻ろうとしていく。
思ったよりも冷めた対応のおかげで、ケフュレスは泣き着いてしまう。
「待って!待って!部屋に居なかったのが心配で探してたの!貴女強化人間だから気配感じづらくて!だから匂いとかで追跡するしか無かったの!だからお願い!何が有ったか教えて!力になるよ!」
「……はぁ」
ため息をつきながらも、フィリアは艦内に入りながらここに至るまでの経緯を説明した。
もうじき就寝時間なので、艦内の通路を歩きながら。
――――――
「なーほーねー、あの子が強くなるには、か」
「はい、オセロットさんからは、友人として支えて欲しい、と」
「流石オセロット君、よく見てるね」
無機質な通路を歩きながら説明を聞いたケフュレスはオセロットを褒めつつ、今まで見て来たアーシャの事を考える。
一番アーシャとの付き合いが長く、誰よりも彼女の事を見て来たと自負している。
だからこそ、オセロットの発言にも頷ける。
「私も同じような事してるんだけどねー、例えばー」
「あ、どうせロクでもない事だと思うのでいいです」
「ふえ~」
「(けど、彼女も腐ってもエルフだし、魔法に関しては専門家、だよ、な?)」
とは言え、ケフュレスも魔法に長けた種族であるエルフ。
今の涙目の彼女の姿からは想像もつかないが、実際アーシャ達の魔法を教えたのも彼女なので一考の価値は有る。
「……あの」
「なぁに?」
「……一応、マスター達に魔法を教えたんですよね?」
「そだよー、魔法の事だったら、何でも聞いてねー」
「……ふ、ふざけるようなら、私は帰りますよ」
「あはは、大丈夫、真剣な話しの時は、ちゃんとするから」
「ッ(なんだ?この感じ)」
ケフュレスの声のトーンは少し下がり、更に空気の流れも変わる。
まるで、フィリアだけが別の次元に飛ばされたようだった。
「さて、先ず、どこから話そうか、フィリアちゃん」
「(何か、空気変わったな)と、とりあえず、今のマスターの改善案のような物が有れば」
「……わかった」
ちょっとフィリアより前に出て振り返ったケフュレスは、閉じられていた瞼をゆっくりと開く。
そして、フィリアはケフュレスの鈍く銀色に輝く瞳を初めて目にする。
「銀色の瞳、エルフの瞳は青いと聞いていたのですが」
「……これは生まれつきだよ、ちゃんとマジメモードで話すからよく聞いててね」
「……はい」
マジメモードと言うだけあって、先ほどまでののほほんとした雰囲気から一変したケフュレス。
彼女の思いがけない空気に気圧されながらも、フィリアはちゃんと聞く姿勢を取る。
「オセロット君の考察は正しいよ、その上で、私からの意見を一つ」
「はい」
「……オセロット君も言ってたけど、やっぱ心の成長が必須だね」
「心ですか」
「そう、魔法はその人の心技体、全てに影響される、特に、心と体は対を成す、心に大きな傷を負っているあの子は、今のままだと強くなれない、というより、ペースが凄くゆっくりになっちゃう、かな?」
「……」
話しはしっかり頭に入れてはいたが、イメージからかけ離れたケフュレスの雰囲気にフィリアは冷や汗をかいてしまう。
「(そんなシリアスにできるんなら、常にそうしてろよ)」
「……だからこそ」
「ッ」
急に振り返ったケフュレスは、フィリアを指さした。
またセクハラかと思ったが、今回は違うと一目でわかる。
目を開くケフュレスは、何時もの怪しい雰囲気を更に押し出している。
「貴女の力が必要になる、あの子の子供嫌いも、今の弱い心も、克服には貴女がカギになるから」
「な、何を根拠に」
「あの子は弱点の理由を自覚しきれていない、だから、貴女が自覚のキッカケを作るの」
「自覚、ですか?」
「そう、貴女がね」
不敵な笑みを浮かべたケフュレスに、フィリアは心臓が飛び出しそうな程の恐怖を感じた。
今目の前にしている存在が、先ほど変態と感じ取った存在と同一の物とは思えなかった。
「(この人、一体何者なんだ?)」
初めてレイブンを前にした時以上の恐怖でも、フィリアは逃げなかった。
震える身体を無理矢理抑え、ケフュレスへ目を向ける。
「(私がやると決めた事だ、逃げてたまるか)」




