魔法の極意 後編
ケフュレスの気迫に飲まれまいとするフィリアは、まるで強敵を前にしているかのような雰囲気を出していた。
「あ、ゴメンね、ちょっと怖がらせちゃったか」
「……」
ケフュレスの不敵な笑みを無くすと共に、先ほどまでの圧倒的な感じはウソのように薄れた。
「どう?楽になった?」
「はい……それで、私は具体的に何をすれば?」
「それは自分で考えて」
「どうしてそこだけ厳しいんですか?」
「私は道を示すだけだからね」
ケフュレスの言い分に軽く頷いたフィリアは、言われた通り自分で方法を考える。
いかにすれば、マスターであるアーシャに自分の弱点を自覚させられるか。
「(と言っても、あの人、皆さんの口ぶりからして結構頑固そうなんだよなー)」
「ちょっと難しいよね、あの子、結構頑固なところあるから」
「……はい(でも結果を出さないと、結果を)」
ライトニング達は失敗しても、また相談しに来ればいいと言っていた。
しかし、そんな何度も頼れないと思い、どうも慎重になってしまう。
頭を悩ませるフィリアを前にして軽い笑みを見せたケフュレスは、彼女の頭に手を置いた。
「結構難しい事だからね、ゆっくり悩んで」
「……ですが」
「私に言わせれば、結果なんかより過程の方が大事だからね」
「何て身勝手な持論」
「所詮は持論だからね、どう捉えるかは貴女に委ねるよ……けど」
「けど?」
フィリアの頭から手を離したケフュレスは、目の前に魔力を集中。
収集したパーティクル粒子で、アーシャの身体を模ったホログラムのような物を形成する。
「アーシャちゃんの遺伝子に刻まれている呪い、その解呪方法、貴女は知ってるよね?一番安全で、それでいて手っ取り早く遠い方法」
「……はい」
一瞬息を詰まらせフィリアだったが、ケフュレスの言う方法を開示する。
「医学と魔法学の最も発達していた時代に制作された、E型医療ポッド、それであれば、如何なる病であろうと、呪いであろうと取り除けます、問題があるとすれば」
「それは二つ、一つ目は、今の時代どこにあるのか解らない、もう一つは、あの子が制御しきれる保証が無い」
「制御?」
疑問に答えようと、ケフュレスはホログラムを操作。
フィリアの目もそれを捉え、アーシャの魔力の流れを現す形となる。
「そう、あの子は普通の身体強化すら未熟の状態、その延長線上であるタイタンの力は、今のあの子ではね、結果だけ追い求めて呪いだけ解こうとすれば、あの子がどうなるか解らない」
「……だから過程が大事だと?」
「そう、これに限らず、結果なんて物は過程の副産物だからね、旅行は目的地に到着するまでが一番楽しいようにね」
「その例えは、どうなんでしょう……」
「……それとね」
「話し逸らさないでください」
露骨に話題を変えたケフュレスは、何も語らずにホログラムを操作する。
「……ですが、マスターの焦り具合からして、もっと結果の方を優先した方が」
「うん、もっと結果を突き詰めるなら、アーシャちゃんの感情を爆発させるって言うのがある」
「感情?それと魔法に何の関係が?」
「言ったでしょ?魔法は心と体の影響を受けるからね、当然感情にも左右される」
軽くホログラムを操作するケフュレスは、表情に影を落とす。
「……けど、オススメはしない、爆発した感情に比例して魔力は増大、それに伴って過剰に反応するパーティクル粒子は更に増殖して、身体を内側から食い破る」
「ッ」
ホログラムを再現映像のように使用したケフュレスによって、アーシャの身体を模った粒子は四散。
その光景に、フィリアは目を見開いた。
「そんな……」
「制御する為にも、相応の技量が必要になる、不安定なあの子じゃもたないよ」
「……」
「だから、焦らないで、心の病はそう簡単には治らないんだから、ゆっくり、あの子ペースで成長させてあげて」
言葉を失うフィリアの前に屈み込んだケフュレスは、フィリアの両肩に手を置く。
互いに目を合わせると、ケフュレスは笑みを浮かべる。
「でも、焦り過ぎてあの子を今言ったみたいな結果にたどり着かせたら、いくら貴女でも承知しないよ」
「……何故そんなに肩入れするんですか?」
「言ったでしょ?あの子は私にとって大切な人、片想いだけど」
「え……」
記憶を巡らせたフィリアは、確かにケフュレスがそんな事を言っていた事を思い出した。
「……も、もしかして、いわゆる恋愛感情って奴ですか?」
眠りにつく前は薄っすらと聞いていた程度の事だが、一応恋愛云々の知識はある。
当てずっぽうに近かったが、頬を桜色に染め上げるケフュレスを見ると、どうやら正解らしい。
目は閉ざしたケフュレスは、急に惚気だす。
「うん!大好き!」
「(何なのこの人)」
緩んだ顔で惚気る彼女に呆れていると、閉ざされていたケフュレスの目は開かれる。
「スー……で、話戻すけど」
「目にスイッチでも付いてるんですか?」
一旦大きく深呼吸したケフュレスは、今度こそ話を戻す。
「だから貴女は、あの子にしっかり寄り添ってあげて、貴女のやり方で、貴女のしたいように」
「……はい」
「ふふ、可愛い」
「ッ」
そう呟いたケフュレスは目を閉じ、フィリアの耳元へ顔を近づける。
少し口元を動かすと、すぐに離れる。
「え」
「頑張ってね、ッ!」
次の瞬間、死角からの打撃でケフュレスの顔は歪み、頭部は壁に叩きつけられた。
「あ」
「あ、あが」
彼女が悲鳴すら上げる暇も無い速度と重さで殴った犯人の正体、それは全身の身の毛がよだつ程の威圧感に襲われた事で見るまでも無く判明する。
「今のは、度が過ぎるぞ」
全身から炎のような威圧を吹き出す赤っぽい肌の大柄の男性、この部隊の教官であり副官のレイブンだった。
どうやら、またセクハラをしていたと誤解されたらしい。
「ッ」
「フィリア、そろそろ就寝時間だ、部屋に戻って寝ろ」
「お、押忍!」
注意を終えたレイブンは、意識を失ったケフュレスを担いで行ってしまう。
今回は冤罪だが、日ごろの行いを考えると助ける気は起きなかった。
「(……やっぱ、この方面では信用されてないんだな……けど)」
連行されていくケフュレスを視界に収めるフィリアは、先ほどのケフュレスの言葉を思い出す。
『貴女なら、アーシャちゃんの心を解きほぐせるよ』
自信をつける為の言葉を言ったようだが、結果に同情しながらフィリアはこれからの事を考え出す。
「(私なりのやり方、私なりの……)」
先ず何をするべきなのか、思案するフィリアは甲板上で思い出した友人との触れ合いをすこしだけ思い出す。
「……そうだ、あれなら、不眠症位なら解決できるか?マスターに合ってるか解らないけど(私も経験有るし、何より安全だな)」
アイディアを思いついたフィリアは早速実行に移すべく、アーシャの元へと戻っていった。




