92 新惑星と恋する天体観測 アリスside
引き続き、アリス視点です!
まだアリスの霧の中の空間にいます。
バタンッッッ!!!!
「アリス、見ぃーーーーーっつけた!!!」
ドアの開く音と、
アシェルの大きな声が空間に響いた。
「ヒッ!」
思わず、私は小さな悲鳴をあげる。
(………………あれ!?カインや、ヒューゴ先生は?)
いつの間にか、
周りにはテーブルもティーセットも何もかもなくなっている。
霧すらもない、すっきりとした白、
どこまでもどこまでも白い空間が広がっている。
「··················あれ、アリス一人? こんな所に一人でいたの? さっき怪しい気配を感じたんだけど…………」
アシェルは何もない部屋を見渡した。
「う、うん」
私は、先ほどまでカインが居たことを悟られないよう、薄笑いを浮かべる。
「へえ……、こんな所で休憩していたんだね」
アシェルは私に近づくと、長い髪を一筋掬って自分の口元に軽く当てる。
髪の匂いを嗅ぎ、何かを確かめているようにも見える。
「ふふふ、アリスしかいない世界なんて最高だね……
アリスに術をかけた僕自身でも、こんな空間が出来ていたなんて知らなかったよ」
アシェルはなぜか上機嫌に笑った。
「さっきまで大きなテーブルと、ティーセットにお茶菓子まで揃っていたのに……」
私は小さくごちる。
まるで幻に化かされたみたいだ。
(カインの魂はどこへ行ってしまったの?)
私は心配でしょうがない。
「ここは、アリスの夢の中の世界みたいなものだと思うよ。だから、アリスが思い浮かべたイメージを何でも出現させたり消したりすることが出来るんじゃないかな?」
「そうなの……………?」
先ほどまでカインやヒューゴ先生がいたり、お茶菓子とティーセットが揃っていたのも、私の作り出した幻に過ぎなかったのだろうか。
じゃあ、本当はカインは城にいて、
まだ意識薄弱な状態でいるの?
(だったら、消さなきゃ良かったのに………)
幻でもいいからここに居てほしかった。
私はやるせない後悔と焦燥感を噛み締めていた。
「ねえ……………二人っきりだね………………」
「ん?」
アシェルから妙な気配を感じて、私は思わず後退りする。
「ここでは何をしても、他人に咎められる心配はないってことだよね?」
「えっ」
今、不穏な事を言わなかっただろうか?
「もう、ずっとここに住みたいな。
あれ、でもそれじゃあ本体はずっとあっちで寝てることになるのかな?」
「ダ、ダメよ。そんなの、」
「どうせ、新しい世界を作るつもりだったんだ。今からでも問題は………」
「あ、新しい世界?
ここには何もないわよ?」
「君がいる。
何処だっていい、僕と君、二人きりの世界なら」
(二人きり………?)
それがアシェルが望む世界とでも言うのか。
「ア、アシェルって、
もしかして、私が……好き……………とか?」
ずっと、気になっていた事を、
私はついに口に出してみた。
「アハ……」
言っておいて、私は直ぐに恥ずかしくなってしまう。
でも、いつだって、アシェルの行動原理は私に帰結している、ような気がしないでも、ない、でも、
好き?
そんな優しい感情だろうか。
寧ろ………その反対の感情?
とにかく強く激しい感情で、
嫌い?
ううん、それも、違うような。
「そんなわけ、ないよね……… ………」
私は悩む。
沈黙が続く。
上手く、言葉にすることができない。
「アリス」
「そうか! 私が王女だから?
本当に欲しいのは……………エヴァグリーン国?」
私はずばり言い当ててしまったかもしれない。
エヴァグリーン国への執着は、ミシェルにも同様に見られる行動原理だったのだ。
だとすれば、全てが終われば、アシェルにとっても私はお払い箱になる可能性があると気がついて、背筋が凍る。
「はあぁぁぁ
何を言ってるんだか。
こんなに、宇宙を天体観測するよりも、ずっとずっと明白なことを…………」
心底、呆れたといった様子でアシェルは大きくため息をついた。
「アリスがいつも僕を真剣に見てくれていれば、直ぐに分かるはずなのにね?
僕は僕の手と足、全てを常緑の蔓にして、君の魂に身体に、隙間なく絡みつきたいほどには、恋焦がれているってことに………!」
そこへ、突然、
触手のようなものがアシェルから生え、
こちらへ飛びかかってくる。
「キャアアッ!?」
不意の攻撃に、悲鳴が出る。
それは、蔦のようなもので、みるみる辺り一面へと拡がり、私の腕や足へと集中して絡みついて、青々とした豊かに茂る緑の葉が全体を覆い尽くしていく。
「た、助けてぇっ!!」
長く太く延びる蔓が、私の身体(魂?)を隅々まで弄る。終いには、複雑に絡みついた蔓は徐々に強く私の皮膚を締め付けてくる。
「ごめんね…………
これが、具現化した僕の気持ちなんだ………
気持ち悪いよね………
あ、あれ? 案外、太いんだな、アリスは………」
「はあ!!??」
人を無遠慮に締め上げといて、太いとは、度を超えて失礼な発言だ。
無数の蔓に持ち上げられて宙に浮いている私は、手足で暴れて抵抗しようと、力を込めた。
「!?」
だけど、
何度確認しても────動かすべき手足がどこにも見当たらない。
「というか、丸い………………………………球体?」
自分の身体は自分で見ることができないけれど、
明らかに中心から均等に拡がり膨れていく感覚がある。
浮いた足元の下の地面を見れば、
白い地面には黒く丸い影が落ちていた。
(私は、球体になってしまったの!?)
「やめてやめてやめてやめて!!!」
私は悍ましさと恐怖に、ヒステリックに叫んだ。
すると、
蔓が少し緩む。
「だ、大丈夫…………?」
アシェルは膨らんだ私を見て、躊躇しているみたいだ。
「ダ、ダメ!!蔓を緩めちゃダメ!これ以上大きくなっちゃう!!」
私は慌てて叫んだ。
皮肉にも、蔓は私の球体の成長を止める役割をしていたのだ。
「確かに、君を中心に世界を作り直そうとは思っていたけれど、惑星そのものにしようとは思っていなかったのに………どうしてなんだろう?
もしかして、これが、君が望む未来のイメージなの?」
「はあ!?望んでないっ、望んでないわ!!」
アシェルは、まるでこのボール化現象が、私が自分で引き起こしたように言う。
「わ、私はどうなっちゃったの?」
私は半泣きで聞いた。
「……………小さな惑星が生まれているって言えば、分かりやすいかな?
今の君は────月そのものみたいだ」
「つ、月?」
アシェルは、私が月のような球体の星になってしまったのだと告げるが、俄には信じ難い。
「アリスは凄いんだね。星を作り出すほどの力を持っていたんだ────」
「アシェル、話はいいから、蔓を増やしてくれる?」
そう言うと、願いに応じて、蔓が一本延びてきて私を締め付け球体の膨張を防いでくれる。
構わず、アシェルは語り続けた。
「太古の昔、僕は宇宙の果てからこの地球を支配する為にやって来て、そこで君を見つけた。
君はこの星の女王様だった
そこで気がついたんだ。
僕は君を探して、遥か遠い宇宙をずっと旅して、
ここにようやく辿り着いたんだって」
一本、また一本と、蔓は増えて私に絡みつく。
「僕は君と生きる為、
地球をより良く進化させる為に、
必要な神をたくさん創った。
でも……もう、解ったんだ。
要らないよ、神も人間も」
アシェルが独り言のように語り続けている間に、
私の球体の身体には、無数の蔓が隙間なく蔓延る。
きっともう、
摩訶不思議な緑の球体が完成しているだろう。
「い、要らないの? に、人間? 私も?」
口にしながら、ゾッとする。
恐るべき神様である、アシェルの話の半分も意味が分からないけれど、とにかく、地球の終焉が近づいているような事を言っているのは確かなようだ。
「ううん?
君と僕の二人以外は要らないって話だったよ?」
「……そ、それでも、嫌なんだけど……」
何と、私は含まれていなかったらしい。
でも、もし月のような場所でアシェルと二人っきりだと想像したら、
淋しくて悲しくて耐えられそうもないと思う。
「ああ、辺鄙な場所で退屈かもしれない?
それなら、沢山の動物の番を作って育ててやろうと、僕は思ってるんだ」
「や、やめてよ、皆はどうなるの!?」
私は私の大事な人々を思い出す。
「新しい惑星を作ったら、他の全ては地球ごと消滅させるつもりだよ」
アシェルは何でもないことのように平然と言う。
「いいでしょう?
カインもミシェルもヒューゴもサディスも、あのラルラも、……
役立たずの邪魔者は要らないから」
「アシェル、や、や、や、約束………」
恐怖で、私の声は上擦っている。
「…………ああ、誰も殺さないってやつ?
うーん、そうだね…………」
アシェルは、何ていい加減な態度だろう。
神様は約束を必ず守るんじゃなかったの?
「あ、呼んでる」
「えっ」
「あちらの世界で僕たちを起こしてるみたい」
「あ、本当!?」
たぶん、ヒューゴ先生とお母様の声が、
私とアシェルの名を呼んで響いている。
「取り敢えず戻ろうか?
アリスの惑星も成長が止まったみたいだし・・・・・」
アシェルはにこりと笑った。
「へっ、戻るって、この姿で!?」
私はあまりに球体になり過ぎた自分に焦る。
成長が止まったとはいえ、こんな球体で人間社会で過ごせるはずがない。
「僕も力が足りない。
やっぱり、一度国に帰って本体を取り戻さないといけないみたいだ」
そういえば、アシェルの身体は母であるラルラ様に奪われてしまい、今はアシェルが自作した木人形に入っているのだ。
「楽しみだなぁ。
いつか二人で、この新星を真空の夜に打ち上げようね」
「ねぇっ、この球体、どうするの!?
アシェルってば!!」
私は、
会話の全てにおいて置いてきぼりになっている。
「さあ、目を覚まして────────」
アシェルは宙に浮いて、
どうかなってしまった私の、
歪曲した球面の蔓延る蔓の上へそっと両手を置いた。
非常事態、眼が血走っているような精神状態で、
これ以上、目が冴えるはずもなく、
私は逆に目をきつく瞑った。
「熱い……………苦しい…………助けて、よ……………」
私の球体の内部は、マグマのように熱く煮え滾っているようで、
ドクン・・ドクン・・
と、心臓の音がやけに激しく響いていた。
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