悪魔との契約
雨が降っている。ひどい雨だ。
視界を遮るように雨粒が叩きつけるから、世界には自分しか居ないような気持ちになる。
……違う。気持ちになる、じゃない。事実、一人になってしまった。
ねえちゃんが死んだ。
誰より大好きなねえちゃんが。
何より大切なねえちゃんが。
あたしのせいで死んだ。
雨が降ってもなお、まだ色濃く残る肉の焼けた臭い。雨に打たれて少しずつ散らばる、黒い塊や欠片たち。
さっきまでねえちゃんだったもの。
必死にかき集めても、集めたそばからボロボロと崩れていく。いやだ、やめて、流さないで。
ねえちゃんを、取り上げないで!!
さっきからいくら力を使っても、治らない。いつもならすぐ元通りなのに、全然治らないのだ。
薄暗い雨の中、力を使うたびにぼんやりと手元が光るが、それだけ。全く手応えがない。
ねえちゃんには力を使う際、手元を光らせないように散々叱られたものだが、今はそんなことに構ってる場合じゃない。
こんなのおかしい。治って、早く治ってよ!
ねえちゃん、ねえちゃん、ねえちゃん。
いつもみたいに、あたしを叱って、諌めて、それから、それから。
最後は優しく笑って、抱きしめてほしい。
視界が悪いのは、雨のせいなのか、止まらない涙のせいなのか、定かではないが、もう何も見えない。
目を開いているのか、閉じているのか、起きているのか、眠っているのか、わからない。
あたしは、どこで間違えた?
なにが悪かった?
どうしてこんな結末が許される?
許さない。絶対に、許さない。
ねえちゃんをこんなにしたやつらを。
ねえちゃんを守ってくれない神様なんて、世界なんて。
いらない。
あたしは何を犠牲にしても、ねえちゃんを取り戻す。
たとえどんな対価を支払うことになっても。
悪魔が居るなら、今こそ現れてほしい。
神様はだめだ、どうせ役に立たない。
だって神様とやらは、等しく皆を愛しているとかで、一人を特別扱いしてくれないのだ。
それでは困る。
今のあたしに必要なのは、たった一人を取り戻すために力を貸してくれる存在だから。
そうするとやっぱり、今のあたしに必要なのは、
【悪魔しかいねぇよなぁ?】
その声は男のような、女のような、悲鳴のような、囁きのような声だった。
ねえちゃんだったものを集めるあたしの手のすぐ傍に、小さくて黒い靄みたいなものが蠢く。おそらくコレが、声の主だろう。
不思議と、恐れや不安や怯えなんかは、一切無かった。むしろ、高揚感が込み上げる。
うまくいけばねえちゃんを取り戻せるかもしれない。それだけがあたしの胸を占めていた。
……かもしれない、じゃない。絶対、取り戻すんだ。
「あたしに差し出せるもの、全部あげる。だから、あたしの願いを叶えて」
【対価は等価でなければならない】
声が厳かに告げる。それは警告のようであり、巧言のようでもあった。
【願いが大きければ大きいほど、対価も大きくなるが、オマエが差し出せるもので足りなければ、どうする?】
「たとえ世界を滅ぼしたとしても、差し出してみせる」
【ニンゲン風情が?】
靄なのに、喉の奥で笑うような気配がある。きっと人間は弱い生き物だとバカにしているんだろう。事実、そのとおりだ。
ねえちゃんは、大好きで大切で、あたしの生きる意味だった。
そんなねえちゃんが居ない世界なら、べつに滅んだって構わない。
ねえちゃんを大切にしない世界なんて、なんの意味もない。
「あたしは普通の人間より力がある。きっとあんたの役にも立つ。あたしの全部を差し出すし、足りない分は持ってるやつから奪い取ってでも支払う。だから、」
コレは人とは違う理に存在するモノ。必要なのは相手に利益があると思わせることと、対等な立場を示すこと。
決して臆してはいけない。
「ねえちゃんが死んだことを否定したい」
しばらく沈黙が落ちた。
靄も何か考えているんだろうか。前向きに検討してくれてるなら、良い。
さっきまで蠢いていた靄がじっとしていると、ねえちゃんみたいに雨で流されないか、心配になった。
今のあたしには、もう、この靄しか縋るものが無い。居なくなってしまっては、困るのだ。
靄の思考を邪魔しないよう、そっと両手で掬い上げて胸に抱え込む。温かくも冷たくもない、不思議な感覚。フワフワしてるような、ドロドロしてるような、なんとも表現しがたい。
【……なにしてる】
「あんたが流れていかないように」
【流れる?】
「ねえちゃんは、もう……捕まえられないから」
酷くなる一方の雨に、ねえちゃんだったものはどんどん流されて、あたしの手元にほとんど残ってない。
まるで最初から無かったみたいになっていく。
嘘みたいだ。こんなに呆気なく、失ってしまうんだな。
「あたしリリー。あんたは?」
【……悪魔に名は無い】
「そうなの? 不便だね。じゃあ、あたしがつけてあげる」
さっきまでじっとしていた靄が、再び蠢き出した。なんだ。名付けは嫌なのか?
【好きに呼べば良いが、名付けは本契約になるぞ】
「むしろ好都合なんだけど。なに? あんたは名付けされると困るわけ?」
【……今の名無しでは、オマエの願いを叶えられない。だけど本契約をすれば、オマエは契約に縛られることになる】
「悪魔なのに、叶えられないとか、あるの……」
てっきり神様なんかよりよほど有能だと思っていた。
だからこんなふうに、まるで悪魔が無能だから契約を考え直すようなことを言われるなんて、思いもしなかった。
何もしてくれないくせに、信仰ばかり求めてくる神様なんかより、よほど信頼できる。
「ま、いっか。もしかしたらあたしの名付けで、あんたがすごく強くなるかも知れないし。そしたら叶えられるかもしれないでしょ? それに、全部をあんたに押し付けるつもりはない。あたしも全力でサポートするしさ。二人で頑張ろうよ」
これでも最高位と謳われた聖人のねえちゃんより、強い力を持っているのだ。そんな人間が名付けたとしたら、それはものすごく強くて恐ろしい悪魔になるのではないだろうか。
あたしが名前を考えてる間にも、靄はもぞもぞと蠢いて、何か物言いたげな様子だが、あたしはねえちゃんと違ってバカなので、はっきり言われないとわからない。
その真っ黒な色は、炭を思い出した。ねえちゃんとよく焼いた、炭と灰。
「……ローワン」
あたしが呟くと同時に、蠢いていた靄が突如として、暴れるように激しく動き出した。まるで存在の淵を無理やり引き伸ばすような、内側から大きな力が噴き出すような。
そしてあたしはあたしで、自分の内側から何かがゴッソリと削り取られるような感覚に、意識を保つことに必死だった。
少しでも気を抜けば、このまま昏倒してしまいそうな、痛みとも苦しみとも形容しがたい感覚に、靄を押しつぶさないよう、唇を噛み締めて耐える。
なるほど、名付けとは命がけなのだなと身を持って学習した。まぁ今後経験することも無いだろうが。
気を逸らすためにも、ローワンのことをはっきりと意識する。
ねえちゃんとたくさん焼いた、炭。
いろんな木を焼いたけど、とくにたいへんだったのはナナカマド。生木だと全然燃えないのに、しっかり乾かしてから燃やすと、最高の炭になった。
燃えにくさと、燃えやすさを同時に持つナナカマド。だから、敵からの攻撃は通りにくく、敵への攻撃は苛烈なまでに通るように。
ローワン。誰よりも強くて、誰よりも美しい悪魔になれますように。……もちろん、今の靄も可愛らしいけどね。
あたしがローワンを意識して認識するほど、その存在感は引き伸ばされ、どんどん大きく膨らんだ。
気づけばあたしと同じくらいの大きさになり、ぼんやりと人のような形になってきた。
もしかして、人の形を取れるんだろうか。だとしたら、かなり、相当、上位の悪魔ということになるのでは。
さっきまでの靄を思い出すと、あたしの名付け一つで随分と強くなってしまった気がする。もしかしなくても、あたし、やっぱりすごい力があったんだな。
まぁ、これからは悪魔のためにしか使わないんだけど。
感謝しろとまでは言わないので、せめて、あたしを尊重してくれると良いな。ほぼ間違いなく、悪魔としての階級を段飛びで上げた、はず。
ローワン。どんな悪魔なんだろう。ローワン。あたしの名付けた、あたしの、悪魔。
あたしが生きてる限り、願いが叶うまでは、あたしだけの、悪魔。
あたしにはねえちゃんしか居なくて、そのねえちゃんが居なくなったら、なんにもないと思ってたけど。
これからは、ローワンが居るんだ。
そう思うとなんだか、少し、くすぐったい。
「リリー」
さっきとは違って、はっきりとした声があたしの名前を呼ぶ。それはたしかに、男の人だとわかる、声。
「ローワン」
顔を上げると、真っ黒な男が立っている。座り込んだあたしが見えない顔に目を眇めると、静かに跪いた。さすが悪魔、できるヤツ。
黒い髪に不健康そうな青白い顔。その真ん中で燃えるような赤い瞳がこちらを射貫く。不健康そうな印象とは裏腹に、その顔自体は恐ろしく整っている。
具体的に言うと、ねえちゃんと並んでもおかしくないくらい。男の人でこんな整った顔、見たことない。
中性的な顔に対して、体つきはややゴツそうだ。背は高そうだったし、体にはしっかりと厚みがある。足が長いから、跪いてるのが驚くほど様になってる。
悪魔なんて他に見たことないからわからないけど、服も見たことないような真っ黒い服を着ている。悪魔も服って着るんだ。まぁそれもそうか。人の形を取るなら、着るか。
「オマエの名付けで、オレは格段に強くなった。これならオレの野望も遠くない。契約してやる」
「悪魔にも野望とかあるの? なんか意外。でもそうか、欲に正直な生き物なんだっけ。ま、契約してくれるなら、その野望について手伝うのも吝かではないよ」
「……一つ、言っておくことがある」
「なに?」
「オマエの姉は、既に死んだ。死んだものは、戻らない」
頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
そんなの……そんなの、言われなくてもわかってる。わかってるからこそ、だからこそ、悪魔に縋っているのに!
「待て、落ち着け。死んだものは戻らないが、死んでないものを戻すことはできる」
「なにそれ?」
「オマエを姉が死ぬ前の時間へ戻し、やり直すことは可能だ。そうすれば、姉の死を回避することはできる」
ぱっと目の前が開けた。
そうそう、そういうのを求めてたんだよ。
正直、こんな黒焦げになったねえちゃんが元通りになるなんて端から思ってない。戻るとしたらあたしの力で戻せてるから。
およそ人智の範疇を超えた力だからこそ、成し得るような裏ワザを求めてたので。
その提案、もちろん乗ります。
「ねぇ、ローワンも一緒に来てくれるんだよね?」
「当然だ。契約者と離れる悪魔がどこに居る」
「そうだよね……、良かった」
あたしはすでに、この真っ黒な悪魔に、愛着のようなものが湧いてきた。
仕方ないじゃない。だって、もう本当に、世界に独りぼっちだと思ったんだ。
でも、ローワンが居る。それはあたしをいたく励ました。
「ローワンの野望ってなに? あたしも手伝うから教えてよ」
「……魔王になることだ」
「まおう……魔王か! へー、いいじゃん。せっかくだし最強を目指すのもありだよね。任せて、絶対に魔王にしてあげる!」
「笑わないのか?」
「なんで? 笑う理由がないよ。あたしだって、自分の野望のためにローワンを喚び出したんだよ。お揃いじゃん!」
「おそろい……」
「似た者同士ってことで、これからよろしく、ローワン!」
いきなり手を握って握手するあたしに、やや面食らった様子のローワンだったけど、すぐに落ち着いてこういうものだと理解したらしい。
「ローワン、たぶん人間と契約するの初めてでしょ? あんま人間のことわからないと困るだろうから、あたしの中身を覗いてしっかり人間を勉強してね。そしてあわよくば、あたしの今後について対策を立ててね」
「そうだな。これまで喚び出されても契約に至る人間は居なかったし、観察するだけだったから、まさかこうして名と姿を得ることができるとは思わなかった。契約した以上、オマエの願いは叶えてやる。名付けの恩もあるしな」
「名前はべつに気にしないで。あたしが不便だから付けただけだよ。でも契約はしっかり果たしてね。絶対ねえちゃんを取り戻したいの」
「承知した」
「あと最後に一つ」
「なんだ」
「あたしは、オマエじゃなくて、リリーだよ」
「……おかしなヤツ」
そう言ってローワンはあたしの胸に手を伸ばし、そのままズブズブと腕を突っ込んだ。
痛みは無い。けれど、なんていうか、自分の内側からぞろりと撫でられるような、気持ち悪さはある。うぇぇ。次からは絶対に予告してからにしてもらお。
気づけばあんなに激しく降っていた雨は上がり、雲間から陽が差していた。
必死にかき集めたはずのねえちゃんだったものたちも、すっかり流されてしまった。
あたしの手元にはもう、なんにも残ってない。欠片一つ、残らなかった。
どうせ降るなら、ねえちゃんが燃やされてるときに降れば良かった。そうしたら、ねえちゃんも燃えなかったかもしれないのに。
ねえちゃん。
大好きで大切で、あたしの一番。絶対、取り戻してみせる。
たとえ、ねえちゃんの命と引き換えにあたしの命を差し出すことになっても。
ねえちゃんが生きていてくれるなら、それで構わない。
雨が止んだからか、人の気配が近づいてくる。きっと、火炙りにされた魔女がきちんと燃え尽きたのか、確認に来るのだ。
このままでは目立ってしまって憲兵に突き出されるかも。困ったな。なんせ、あたしは胸に腕を突っ込まれてるので。
「ローワン、どこか人の居ないところに移動したい」
「承知した」
ローワンがあたしの胸に突っ込んでない方の手で指を鳴らすと、一瞬の浮遊感の後、どこかへ移動した。きっと転移魔法だ。便利だな。
転移してからも、ローワンはあたしの胸に腕を突っ込んだまま、黙って中身を覗いているらしい。そのままなんか良い策を思いついてもらいたい。
あたしも自分なりにできることがないか考える。
ローワンは悪魔だから、きっとほぼ万能の魔法が使えるはず。あたしには聖人の力があって、二人合わせれば大抵のことが実現可能だろう。
魔王って具体的にどうすればなれるのかわからないけど、でもたぶんあれだ。神様と同じで、信仰を集めれば強くなるんじゃないかな。たぶんだけど。
信仰の厚い宗教ほど、神様についてその存在が強く描かれてるし、あながち間違ってないと思う。たぶん。
じゃあ、ローワンを信仰したら、どうなるんだろう?
あたしは、ねえちゃんを散々利用したくせにアッサリと捨て、全てを擦り付けて知らん顔した、教会を許さない。あいつらが信仰を集めて神様を強くしてるとしたら、その信仰、根こそぎ奪い取ってやる。
神様なんて、何一つ救いを与えてくれやしないのに。
だったらあたしたちは、ローワンは。どんなときも救いを与えてやれば、人々はコロリと改宗するのではないだろうか?
ねえちゃんに石を投げたやつらも、魔女と罵倒したやつらも、助けてくれなかったやつらも、本当に救ってやるつもりはない。
ローワンが最強になるために、丁寧に掬い上げ、小さな救いを与えて、信仰を捧げさせてから、ローワンの糧になってもらおう。
あたしには飛び抜けて強い聖人の力がある。ローワンを神様に仕立て上げるのは、簡単だろう。
多くの人間が信仰する神様が実は悪魔だなんて、ひどく滑稽だ。
だけど何もしてくれない神様より、実際に救いを与えるあたしたちの方が、よほど神様らしいことになるだろう確信があった。
「リリー」
「なに?」
「概ねのことは理解した。対策についてもいくつか考えた」
ズブズブとあたしから腕を抜きながら、淡々とローワンが言う。傍から見たらシュールだろうな。
「過去に戻るって、まさかこのまま戻らないよね?」
「精神だけ時間を遡る」
「じゃあ身体は放置していくってこと?」
「そうなる」
ローワンの返答に小さく安堵する。だって、この姿で過去へ戻ると、ねえちゃんが混乱する。
いや、あたしとしては、成長してる方がねえちゃんに迷惑かけないと思うんだけど、やっぱり混乱させるのは良くない。
それに、身体を放置するってことは、目的のためにも都合が良い。
「ローワン。あたしを過去に飛ばしたら、残ったあたしの身体は欠片も残さず食べちゃってね。たしか、聖人の生き肝やらを食べたら悪魔は強くなるって聞いたことある。他の誰かに利用されるのは、絶対に嫌だから。全部、ローワンが食べて」
「……承知した」
ローワンはどこか困惑した様子で頷いた。なんだろ。あたしが悪魔について知識があるの、おかしいのかな。
「なんか変なこと言った?」
「いや……、普通、恐ろしいだろう。けれど平然と食べろと言うから、なぜかと」
「そりゃ恐ろしいけどさ。でもあたしの中身は過去に飛ばされた後なら、空っぽだし、痛みもわかんないだろうし、それは死んだのと同じでしょ? それなら、せいぜい有効活用しなくちゃ、勿体ないから」
「もったいない……」
「使えるものは使わないとね。それがたとえ、自分の抜け殻でも」
「……そうか」
あたしの肉体を食べることでローワンが強くなるなら、それは結果的にあたしのためにもなる。
やり直しを何度も繰り返すわけにはいかない。ねえちゃんをあんな目に遭わせるのは、一度で十分だから。何者にも邪魔されるわけにはいかない。
そのためには、ローワンが最強であるほど、成功確率が上がるのだから。強くなるためにも、抜け殻であるあたしの肉体なんて、欠片も残さず食べてもらいたい。
「頼りにしてるからね」
「契約した以上、最善を尽くそう」
「あたしのことも頼って良いからね」
「……承知した」
ローワンがあたしにはわからない言葉を囁きながら、ぼんやりと光る掌をあたしの胸に翳す。少しずつ薄れる意識に、時を遡る魔法も意外と地味だなぁなんて思う。
もっとこう、ピカーーって派手な感じかと思ってた。
「ローワン、絶対、残さず食べてね」
あたしの最後の言葉に、ローワンがなんて返事したのかは、わからなかった。
こうしてあたしは、ねえちゃんを取り戻すために、悪魔と契約した。
余談
「ところで、あたしが過去に飛んだら、過去のあたしの意識ってどうなるの?」
「ぶつかり合って強い方が残る」
「えぇ……じゃあ過去のあたしは消えるのか」
「なぜ自分が勝つ前提なんだ?」
「だって。毎日ねえちゃんと幸せに暮らしてるあたしと、ねえちゃんを取り戻すために必死なあたしなら、後者が勝つに決まってるじゃん」
「……そうか」
「というか、このままだとねえちゃんが死ぬぞって言ったら、あたしなら自分から消えそうだけどね。ねえちゃん至上主義だから」
「その見解は興味深いな。自分を犠牲にしても厭わないのか」
「だって、ねえちゃんが一番なので」
ローワンはリリーのねえちゃん至上主義思考にたいへん興味を惹かれています。