起床時間 朝の会
今日は早めに帰れたので、早めの更新です。そして、早く寝て明日に備えます。
誰かに袖をひっぱられて目が覚めた。かすかにぼやける視界の端に小さなリスみたいな女の子の姿が映った。それが誰なのかは、すぐに分かった。
「刹那ちゃん、おはよう」
小さく頷きながら、袖から手を離した刹那ちゃんは申し訳なさそうに「ごめんね」と告げた。
「ううん。起こしてくれてありがとう。みんなはどうしてるの?」
「・・・朝ごはんの用意できてるから」
「え?」
ようやく完全に目が覚めた私はあわてて起き上がると、ぐるりとあたりを見渡した。女性陣は、ナイフで果物を切り分け、知己と瞬は昨日と同じようにそれを大きな葉の上に取り分けていた。
「うそ?みんな、もう起きてたの?」
思わず、『なんで起こしてくれなかったの』とお決まりの台詞を言いそうになった。きっと、家でだったらそう言ってる。そんな私の気持ちを察したのか知己が声をかけてきた。
「別に、希望をのけものにしようってわけじゃねえんだぜ。俺は、起こそうって言ったんだけどよ、こいつらが寝かせておけってうるさかったんだよ」
「なに、一人だけ点数かせいでんのよ、いやらしいわね」
そう言った真友ちゃんに続いて瞬が口を開いた。
「高山さんだって、疲れが貯まる時もある。そういう時は、ゆっくり寝かせてあげたほうがいい」
「そうよ。のぞちゃんは、みんなのために一生懸命頑張ってるんだから、たまには寝坊させてあげたほうがいいの」
二人の言葉は私の体のことを思いやってくれてのものだった。だから嬉しかった。
(だけど・・・)
みんなが私のことを気遣ってくれるのは嬉しい。けど、それ以上にみんなが働いているのに自分だけ何もしないでいたことが悔しかった。疲れているのはみんな一緒なのに、自分だけ寝坊してしまったことが申し訳なくて、情けなかった。
(あー、もう最低だ、あたし!)
心のどこかに「何で起こしてくれなかったの!」という理不尽な怒りがこみあげてきている。八つ当たりだと分かっているし、的外れな気持ちだということも分かっている。それなのに、自分の中にそんな気持ちがあることが一番つらかった。私は、やり切れない気持ちをなんとかしたくて、みんなに頭を下げた。
「ごめんなさい。寝坊してしまって」
そう言いながら、目にうっすらと涙が浮かんでいる自分に驚いて、あわてて袖で顔を拭った。その途端、知己が突然怒り出した。
「ほら、言ったじゃねえか!起こしてやった方がよかったんだよ!自分だけが楽しようなんて考えないやつなんだよ!」
知己の言葉に、瞬と真友ちゃんは申し訳なさそうな顔をして、揃って私に頭を下げた。
「すみません、高山さん」
「ごめんね、のぞちゃん」
二人の言葉に、私は慌てて手を振った。
「二人は全然悪くないよ。悪いのは寝坊した私だもの」
「ですが、高山さんの意に沿わないことをしてしまったのは、僕のミスです」
瞬が目に見えて意気消沈していくのが分かった。私は、自分のちっぽけなわがままのために、二人が心を痛めているの見て、心の底から申し訳ない気持ちでいっぱいになった。二人は悪くない。むしろ、私にとって良い人であり、ありがたい人だということを伝えようと思った。けれど、
(なんて伝えればいいのか分からない)
私が悩んでいると、知己は二人に追い打ちをかけるように言葉を続けた。
「尾田先生も言ってただろ。『相手のことを本当に思いやるのなら、時には厳しい言葉も必要だ』って。お前、クラスのリーダーだろ。それくらい分かれよな」
知己の言葉に、私の胸がズキリと痛んだ。
(もう、止めて、知己!)
そう叫びたかったけど、声が出なかった。そうしている間にも知己の話は続いた。
「だいたい、俺が一番希望のことをよく知ってるのに、俺の言うことを聞かねえからこういうことになるんだよ!」
「ちょっと待ってよ!その言葉は聞き捨てならないわ!」
目を吊り上げながら口を挟んだのは真友ちゃんだった。
「なんだよ、本当のことじゃねえか。俺は、希望が幼稚園の頃から知ってんだぜ」
「だから、何よ。長く居た時間が多いほうが、その人のことをよく知ってるなんて誰が決めたのよ。まさか、俺が決めたなんていわないわよね」
「そんなくだらないこと、誰が言うかよ!」
「じゃあ、誰よ」
「そんなの知らねえよ」
「じゃあ、なんであんたがのぞちゃんのことを一番よく知ってるなんて分かるのよ」
「一緒に過ごした時間が多いほうが、よく知ってるなんてことは常識じゃねえか。そんなことも分からねえのかよ」
「過ごした時間はあんたより短くても、のぞちゃんのことを一番分かってる人は他にいるんだから」
「へえ、そんなやついるのかよ。いるんだったら、一度会ってみてえくらいだ」
「あんたも、何回も会ってる人」
「そんなやつ知らねえよ。いいから、名前を言えよ!」
次第にいらいらしてきた知己に、真友ちゃんは刺すような目で答えた。
「尾田先生」
真友ちゃんの言葉に、知己だけではなく、私もはっと胸を突かれた。知己は何か言い返そうと口を開いたけれど、結局何も言い返さなかった。その様子を見た真友ちゃんは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「どう、違う?」
「・・・・・・違わねえよ」
「よろしい。じゃあ、さっきの言葉間違いだったって認めるわね」
知己はしぶしぶ「ああ」と答えた後「けどな」と言葉を続けた。
「この三人の中だったら、俺が一番だと思うぜ」
「そりゃあ、あんたがのぞちゃんの幼馴染だってことは認めるけどね。だけど、小学校に入ってあんたが転校してからは4年生でこっちに帰ってくるまで、一度も会ってなかったんでしょ。計算すると、実際に一緒にいた時間は4年間くらいでしょ。それだったら、あたしだって三年生の時からのぞちゃんのこと知ってるもん」
「それでも、この中だったら、俺が断トツで一番だろ。俺が3年。お前が2年。瞬は1年じゃねえか」
ここだけは譲れないとばかりに知己が食い下がった。そんな知己に真友ちゃんは、自信満々にこう言った。
「けど、あたしはのぞちゃんのことだったら、あんたよりもよく知ってる自信があるわ」
「嘘つけ。じゃあ、なんでさっきは希望の気持ちが分からなかったんだよ」
知己の言葉に、真友ちゃんは誇らしげに言い放った。
「分からなかったんじゃない。分かってて、それでも寝かしておいてあげたの。だって、そうでしょ。のぞちゃんは、『大丈夫?』って聞かれた、必ず『大丈夫』って答えるんだから。違う?」
真友ちゃんの言葉に、知己は言葉を詰まらせた。
(すごい、真友ちゃん。私より、私のことを知ってるかもしれない)
さっきまでの嫌な気持ちがいつのまにか過ぎ去って、真友ちゃんの言葉に感心している自分がいた。
「瞬だって、きっとそうだよ。だから、のぞちゃんに嫌な思いをさせるかもしれないけれど、体を休めてもらう方を選んだの。だって、今日の夕方からは何が起こるか分からないんだから」
今更ながら、みんなの思いやりが嬉しくて胸が熱くなった。と、同時に自分の考えの狭さに、情けなくなった。『起こしてほしかった』なんて考えていた、自分がいたことが申し訳なかった。
「それにね、知己。あたしは、一緒に過ごした時間の長さよりも、その人とどのように過ごしたかのほうが大切だと思うんだよね」
「???」
知己が首をかしげると、真友ちゃんは照れくさそうにこう言った。
「つまりね。大変なときに助け合ったり、励ましあったり、つらいときには慰めあったり・・・あーもう!まあ、とりあえずそんなわけよ。分かるでしょ!」
強引に同意を求めた真友ちゃんの言葉に知己は素直にうなずいた。そして、さっきとは打って変わった晴れ晴れとした様子で返事した。
「ああ、なんとなく分かるぜ」
その言葉が、あまりにも素直な言葉だったので、真友ちゃんは拍子抜けしたように「そ、そう。なら、いいけど」と答えたきり。何も言わなかった。
「よーし、それくらいでいいか?」
リノンさんは、手に持ったナイフをくるりと手のひらで回しながらそう言うと、苦笑いをしながら私たちを見渡した。
「しっかし、あんたらどんだけ仲がいいんだ。希望が寝坊して、それを起こすだの、起こさないだのだけでこんだけ長い間言い合いできるんだから驚くよ。でも、まあ、正直言うと、そんなあんたらが羨ましいよ。なあ、刹那」
刹那ちゃんは、コクリとうなずいた。
「そりゃあ、俺たちは5年2組のリーダー、副リーダーだからな」
知己が誇らしげに答えると、リノンさんは、少し考える素振りをしてから口を開いた。
「それはそうかもしれないけどさ。なんていうのか、あんたらは、もっと深いところでしっかりとつながりあっているように見えるんだよ。さっきの真友の話じゃないけどさ、何か特別な出来事でもあったんじゃないのか?」
その言葉に、ミズキの視線が知己へと送られたのを私は目の端で感じ取っていた。
(知己のことが気になるんだ)
それは当然のことだと思う。私だってもし、好きな人が近くにいたら気になって気になって仕方がないに違いないもの。
そんなことを考えているうちに、真友ちゃんが質問に答えた。
「ありましたよ。他の二人はどうか知らないけれど、あたしにとって特別な出来事はありました。だから、あたしはのぞちゃんのことをこんなに好きなんです」
真友ちゃんの言葉に、私はすぐさま頭をめぐらし、記憶を掘り返した。
(真友ちゃんの言ってる特別な出来事ってなんだったんだろう)
二人の間であった出来事なのに、思い返すことができない自分にいらだちを感じた。真友ちゃんにその出来事のことを聞こうか聞くまいか悩んでいると、知己が口をはさんだ。
「俺だってあるぜ。言っておくけど、真友よりも多い自信があるぜ」
「あんた、さっきの話聞いてたの?多さとか長さじゃなくて、質が大事なのよ質が。数だけ多けりゃいいってもんじゃないのよ、人間関係ってのは」
「おお、お前、今、めちゃくちゃ大人っぽい話し方したな」
「まあね。なんたって、あんたより3か月も長く人生を生きてるんだから」
「今、お前、質が大事って言ってなかったか?」
あきれ顔でそう言った知己に、真友ちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめながら「冗談よ、冗談」といって咳き込んだ。
「さあ、そんなことより食事にしないかい。果物は切り終わってる。あとは、並べるだけなんだけど。それは、誰の役割だったかな」
そう言って片目をつむってみせたリノンさんに、知己と瞬は即座に行動を開始した。二人は切り並べられた果物を人数分用意した大きな広い葉の上に手際良く均等に配っていった。寝坊して朝食の手伝いを何もできていなかった私は、二人に悪い気がして声をかけた。
「ごめんね、私も手伝うから」
そう言って果物を運ぼうとすると、瞬と知己から同時に
「これは、男の仕事」
そう言われ、仕方なく他の女性陣がしている通り、自分の席に着くことにした。私のために開けてくれていた場所はミズキと刹那ちゃんに挟まれた場所だった。私は二人に会釈をして腰を下ろした後、ミズキに対して
「ありがとう」
と感謝の言葉を告げた。
「え?」
不思議そうな顔をしているミズキに私は果物を指差した。
「この果物を取ってきてくれたのってミズキなんでしょ。多分、みんなよりも早く起きて取りに行ってくれたんじゃないかなと思って。だから、昨日のことも含めてお礼を言っておきたいの。ミズキ、ありがとう」
私の言葉に、ミズキは目を丸くして何かを言おうとして口を閉じ、上を向きながら呟いた。
「・・・敵わないな」
「どうしたの?」
私が尋ねると、ミズキは笑みを浮かべて「なんでもない」と答えた。その時のミズキの笑みが、あまりにも寂しそうだったのでそれ以上尋ねることがためらわれた。
「準備完了しました!」
威勢のいい知己の声にリノンさんが答えた。
「じゃあ、手を合わせな」
みんなが一斉に手を合わせる。
「いただきます!」
リノンさんの掛け声にみんなも「いただきます!」と続いた。ふと、学校での給食の時間を思い出した。
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