|オレらはモンスター!!_SS:聖圏マグナリア(後編)|
Phase3:_アルフィース
高貴で幸福な夫妻の間に産まれた娘。【アルフィース】と名づけられたその子は両親の愛情をこれでもかと受けて育った。それはもう、はっきり言って“甘やかしていた”と断言してよいほどである。
ウルスガンド家には執事と家政婦が合わせて数十人いるのだが、それら全てもまた彼女を愛し、そして徹底的に甘やかした。
少女を叱る者はほぼいない。両親さえ滅多なことでは叱らず、叱ったとしても彼女が泣けばすぐに謝って頭を撫でまわす有様。
元々活発で元気一杯な気性ということもあったのだろう。少女は御転婆というに相応しい……いっそ我がままの領域に至ったと言っても過言ではない。
少女アルフィースは欲しがるものはなんでも買い与えられた。ウルスガンドの財力からすれば玩具だろうが宝石だろうが希少なペットだろうが、全て安易に手に入った。
聖圏内の様々な場所に旅行も行ったし、習い事だって「やりたい」と言えばなんでも習えた。ただし、それらを継続したかどうかは問われない。
与えられた玩具は基本的にすぐ飽きて放り投げ、宝石など装飾品は一度身に着けたらテキトウに仲の良い家政婦にあげた。希少なペットも愛でるには愛でるが世話をするわけではない。そんなことしなくとも多勢にある使用人たちが世話をしてくれる。
好き放題なものだ。少女アルフィースは毎日、装いを新たなものにして着飾りながら両親に甘えきって成長していった。たまに使用人から注意されても両親に言いつけたり、そもそもが耳をかさずに無視して走り去ったりと滅茶苦茶な振る舞いも見られた。
横柄で傲慢で自己中心的……それがアルフィースという少女の内面的な印象となるのがほとんどであろう。
それなのに彼女は周囲から愛され、継続して15歳までチヤホヤの限りを尽くされた。どうしてなのか?
いくつか理由はあるだろうが……一番は彼女があまりにも“可憐”だったからだろう。
しなやかな黒髪を靡かせて走り回る彼女の姿はだれから見たって愛らしいものであり、成長していくにつれてそれは見とれてしまうほどの存在感となっていった。
常に煌びやかな装飾品で身を包んでいるが、どれほど高価な宝石も意味を成していなかった。何故ならそれらよりも本人の輝きの方が目立つからだ。
それに活発ではあるが振る舞いが粗野なわけではない。彼女自身が「淑女」たるものを目指していると常に豪語しており、母親のようになるのだと礼儀作法は熱心に学んでいた。その割には我がままではないかと思うが、そこは彼女にとって大事ではないか本人に自覚がないのだろう。
ともかく振る舞いには礼儀正しさが垣間見えるので、その容貌もあって初対面ではまずだれもが息をのむほど流麗な印象を受ける。そうした雰囲気を彼女は幼くしてすでに纏っていた。
会話するとその気性が露見して若干に印象を落とすことになるが、それでも第一印象が良すぎて余りあるので基本的に好かれることとなる。
美しく、快活な少女アルフィース……その存在は嶺滝においても広く知られることとなり、それなりに成長してくると他の家から父親へと将来の話しが続々と届いた。
聖圏のとくに高家においては許嫁をもつことは珍しくない。高位な家柄同士で繋がりを持ち続けることで家名を高める意図が風習として現代も続いている。例えばアルフィースの両親も幼少期から許嫁の関係であった。
しかし、父親のマルスティンはかたくなに許嫁の申し込みを拒否。何度言われようが徹底して態度を変えなかった。
真意は本人しか解らないだろうが……マルスティンはきっと、あまりにも娘のアルフィースが可愛すぎて彼女が結婚するという未来を想像できなかったのではないだろうか。彼女の隣にだれかあるという画を描きたくもなかったのだろう。
申し出は断る。そしてそれとは別な手段で近づこうとする男子もはねのける。多勢の使用人たちが常にアルフィースを護り、いかなる羽虫すら近づかせぬとウルスガンド家が1つとなって少女を保護していたらしい。それが果たして良いことかは解らないが、ともかく少女は過保護にされていたのである。
――年に1度の夜。嶺滝のセイデンにおいて最も高貴とされる時間。
階層に設けられた花園。そこにたった一晩、咲き誇る青き花弁。
高貴な家の人々が集い、一部招待された栄誉の人々も混じるその夜。
朧と灯された霊灯の光が月光に添えられて、それはそれは幻想的な青い花園の景色がそこに浮かび上がる。
その一夜は静寂として愉しむものだと、それが高家の嗜み。
しかし、少女が1人。礼節は忘れたのか知らないが……ともかくその夜も変わらず活発にしている様子がある。
普通は怪訝にされてなんなら追い出されてもおかしくはない。
だが、青い花園の中に入って踊る少女の姿ーー。
月光の中で青く靡く黒髪、翻ったドレスの優美さ、広げた四肢の白き艶やかさ……。
少女アルフィースは青系統の色合いを好む。そして周囲もまた、彼女には青い色がよく似合うと感じていた。
彼女が踊り疲れて両親の元へと戻るまで、だれも彼女を咎めはしなかった。
そもそも彼女は体力がないのですぐに疲れるということもあるし、家柄が高すぎて注意しにくいということも理由としてあったかもしれない。
だが、それ以上に彼女をもっと見ていたい、眺めていたいと誰もが感じた。
天性のものだろう。少女アルフィースは単に美しいからというわけではなく、その内面からも何か、人を惹きつけるものがある。だれもが甘やかしたくなるほど、愛される才能というものがあるのだろう。
よほどのことがあろうと、彼女が疎外されるなど有り得ない。嫌われる、ということすらまず無い。
ある種に超人的な彼女の魅力を凌駕するものがあるとすれば……それはせいぜい、【神意】くらいのものだ。




