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「オレってマジモンスター(7)」



| オレらはモンスター 第二章 ~ 稲妻いなづま暴風ぼうふう ~ |




 晴れやかな朝の草原。森を越えて来た4人の男女が一面緑の地を歩いている。視界に広がる草原には5つのテントが確認できた。


「おほぉ!! ここが野郎とうぞくどもの住処すみかだっぺね!?」


 【パウロ少年】はそれらを見て鼻息を荒くした。その隣に立つ【ジェット】は平然とした表情ながら、足元に赤黒い汚れを見つけて「ふ~ん」と小さくうなっている。


 彼らの少し後ろを歩くボーイッシュな女性もまた、草原に残る“血の痕跡こんせき”を眺めて溜息ためいきく。その隣にくっついている【少女アルフィース】は警戒を強めているのであろう、キョロキョロとしていて落ち着かない。


 ――本来、ここはシャナーラの村人達が代々受けいできた伝統ある採石場キャンプだ。現在ここは不当に占拠せんきょされており、横暴な盗賊共が我が物顔で生活している。また、彼らは村にも度々ちょっかいを出しているようで、日々に窃盗せっとう傷害しょうがいの罪をコツコツと重ねているらしい。そうしたことから村人達には苛立いらだちや不安の様子がうかがえる。


 この盗賊団はある日に突如とつじょとしていた存在であり、団結力は薄い。しかし、それを“何者か”が強力な統率力でまとめているようだ。


 盗賊団を即席で形成し、荒らすだけ荒らしてふと解散、消えるように姿を隠す。そしてまた別の場所で盗賊団をつくり、荒らして……と。そのような手口で犯行を繰り返す“男”。


 その男は帝域ていいきによる第二種指名手配を受けている存在であり、薄く化粧をのせた端正たんせいな顔に白いタキシード姿が特徴的とされる。外見と口調から一見しただけだと紳士的に思われたりもする。


 ただし、その外面そとづらの裏は非常に冷酷れいこくなもので……犯行手口と同じく感情が突如とつじょとして荒れたりしずまったりと、とても正常なものではない。得意とする凶器ぶきである長さが数mもある“かわむち”を常に携帯けいたいしており、おだやかな会話の最中さなかで何の前ぶりもなくいきなりそれを人間にぶつけたりする。


 予測不能な嵐のように沸き、荒らし、消滅を繰り返す盗賊の手口はまるで“災害”。それに本人が持ち合わせる狂気的な気性きしょうと繰り出される轟音ごうおんともなう鞭の乱舞。


 そうした特徴とくちょうを総合して、その男は【荒天こうてん】の手配名てはいめいを受けている――。


「おうおうおう!! てめーら何者だ!?」


 何者かが現れた。どうやら盗賊の1人がパウロ達に気が付いたらしい。


 “岩堀り盗賊団”の1人がテントの1つから出てきた。その声を聞いたのか、仲間達がゾロゾロと姿を現してくる。仕事に出払っている者もあるだろうが、それでもここには5人の盗賊がつどって姿をみせた。


 現れた5人の盗賊共……それを見たパウロは一歩前に出て声を張り上げる。


「おめだづ!! ここさ集落の人が使ってた場所なんらろ!? それを勝手してわりぃと思わねが!? 何も追い出さんでも、一緒に仲良く使えばええでねが!!」


 ズイズイと歩み出ていく。こうして彼はいきどおってはいるものの、できれば会話によって事をおさめたいと考えているのだろう。まぁ、それで納得するような連中であればそもそも町の人だけで解決している問題だ。


 案の定、盗賊共は威嚇いかくを続ける。


「仲良くぅ?? 馬鹿言ってんじゃねぇ、ここは俺達のモノなんだよ! 部外者に使わせてたまるか!」


「なるほど、おめたづの……いぁいぁ、なんでさ!? ここさ使ってたんはあっちの集落さ住んでる人たちらって、そう聞いたべや!?」


「前はそうかもしれねぇが今は俺達が使ってんだよ!! 今は・俺達の・場所・なんだ!! この岩堀り盗賊団のな!!」


「んだか? あれ、んでもそれって……うばったってことなんらろ??」


「そうだよ、奪ったんだよ! だから俺達が使うんだ! わかったら部外者はすっこんでろ!!」


「・・・・・いぁ、ダメらって! なしてそんな乱暴なことすんの!? 自分たちが同じことやられたら嫌らろぉが!!!」


「そりゃ嫌だろうさ。だったら……くやしかったら奪い返せばいいだろう! しかし、町の連中じゃぁそれも無理だろぉがな? ひぇっへへへ!!」


「こっ……こんのわからず屋め!! なしてこんなんすっか、オラわっかんねぇだよぉ!?」


 らちかない。盗賊がわからず屋なのもそうだが、パウロの説得術によって事態が好転するとは到底思えない。


 パウロは自分の価値観で語っているのだが、それでは根本こんぽんから考え方が異なる相手は納得しようがない。


 それを見かねて……。


「よぉよぉ、パウロ? こういう手合いは綺麗きれいごと言っても聞かないぜ。オレらの当然とこいつらの当然は違うのさ。そういう事だってある……話すだけ無駄なんだよ」


 ジェット=ロイダーが割って入った。マスケット銃の取っ手で肩をマッサージしながら、冷めきった表情で盗賊共を見ている。


 そう言われても……どうにもパウロは納得ができない。ジェットとパウロもまた、根本に違うものがあるからである。


「ジェット……だってよ? 昔、オラの村さおそってきた奴らもこんなん言ぅて、物さ奪おうとしたんだわ。でも、そんなん誰も良い気がしねぇらろ? ったって“すまんなぁ”って、普通は悲しいらろうが!!」


 パウロは「ギュ」と、拳を硬くする。その拳には熱がこもり、鋼のような筋骨がきしむ音が聞こえる。それを察したジェットは熱くなっている少年をなだめようとした。


「おいおい、落ち着け。こいつらは人から物を盗ったってな、“なにも感じない”んだ。ラッキー、やったぜ!……くらいには思うだろうがな。そういう連中な――」


「おうおう、勝手にしゃべってんじゃぁねぇぞ!! でもその通りだぜ……世の中は奪うか奪われるか、それ以外にあるかい!? へっへへへ……あんたらの連れている女だって奪ってやるからな!! いたずらしてやるからな!!!」


 せっかくジェットが場を落ち着かせようとしていたのに……その労力は無駄となった。


 何より、盗賊共が下劣げれつな視線を女性達に向けたことが問題だ。可憐かれんな少女が「あぅっ」とすくんでおびえてしまったことが……“守護者”の逆鱗げきりんれる。


「――てんめぇら、アルフィースつぁんをなんだって!? 彼女さ怖がらせて……こんの野郎ッ!!」


 それまでパウロ=スローデンはどうにか対話で納得させたいという思いがあった。だが……それも、もう駄目ダメだ。


 彼にとって護るべき少女を“攻撃”されることが許しがたい。そして彼女を怯えさせることは十分に“攻撃”として認識される。


「言ってわがらねぇならよ――――“こう”するっきゃ、ねぇらろッがぁぁぁ!!!!!」


 体格2m近い大柄な少年がえた。さらに一回りは大きくふくらんだかのように彼の筋肉は隆起りゅうきして熱をびる。


「ウオォォォオラァッッッ!!!」


 そしてすさまじい。迫力に気圧けおされている盗賊共に向かって少年は突進。猛烈な速度で真っすぐに突っ込み、盗賊の1人と激突した。ぶつかった盗賊は数m吹っ飛んで大地に倒れて痙攣けいれんしている。


 呆気あっけにとられる他の盗賊共だが、そこはさすがのあらくれども。「なにしやがる!!」とおの々にこん棒やナイフを取り出し、一斉に大柄な男へと襲い掛かった。


 こん棒が大柄な少年のひたいを打つも、「イテっ!」と言わせるだけで反撃の拳が盗賊を吹き飛ばす。


 ナイフが少年の二の腕を切り裂いたが、表皮から出血があるくらいで「アダっ!?」と言いつつ、これも振り回した腕によって盗賊が昏倒こんとうさせられる。


 そんな調子で……。


 盗賊達は次々と少年にいどむもののどれもかなわず。最終的には草地で失神している盗賊5名という光景ができあがった。


 ものの数秒のことである。ほとんど一撃一人で片が付いたのであっさりなものだった。パウロは少々息が上がっているにしても、打撲だぼくや切り傷などにそれほどダメージは感じていないらしい。微量な出血はすでに止まっている。


「はぁ、はぁ……わ、わからず屋らっけこーなんだわ!? もう、こんな悪さすんじゃねぇぞ!!」


「いや、聞こえてねぇって。しっかし……無茶苦茶するなぁ。まぁ、大した怪我けがは無さそうだけどよ。ちょっとは回避動作ってものをしろよな?」


 少年の暴れっぷりを見たジェット=ロイダーはあきれながらも関心はしている。確かに滅茶苦茶ではあるけど、1人で大の男5人を倒してのけたのはただ事ではない。頑丈がんじょうだからこそか、自分の被害をかえりみない直線的な行動には心配もあるが……。


 少年の暴れっぷりを眺めていたアルフィースとミリストリアはどちらもポカンとして口を開いていた。アルフィースは「や、やりすぎじゃない?」と倒れた盗賊の身を案じ、ミリストリアは「な、なんて瞬発力なの?」と少年のけた外れた身体能力に驚愕きょうがくしている。


 傷だらけの少年は自身を気にすることなく、「これで集落の人達さ安心すっぺな!」と胸を張って笑った。そしてアルフィースに「お~~い、やったっぺよぉ~~!」と手を振ってみる。しかし、それに対して少女は苦笑いをするのみだ。素直に乱暴な行いに気が引いているのであろう。


 そうして「終わった」感のあるパウロだが……まだである。


「いやパウロよ、まだ終わってないぜ? あたまつぶさなきゃぁ、この仕事は終わりにならねぇからさ……」


 失神している盗賊を1人1人縛り上げながらジェットがつぶやく。チラリと、その切れ長なひとみが視線を送る。


 視線の先。このキャンプ地で最も大きなテントから――“男”が1人。


 ゆっくりと歩いている。それは白いシルクハットに白いタキシードのよそおい……。


「――――町に滞在していることは知っていました。しかし、わざわざ僕のような一般都民に会いに来てくれるなんて……光栄ですよ、“ロイダー先生”?」


 草原の緑に白い姿がよく目立つ。“その男”は微笑みを浮かべて穏やかな口調で話した。


 挨拶あいさつを受けているジェットは急ぐ様子もなく。のそりと立ち上がって長い前髪を横にすいて眼光を鋭く向ける。


「はぁ、光栄?? おいおい、勘弁かんべんしてくれよ。オレはお前を人間だとは思っていないからよ。会えてむしろ不愉快ふゆかいっつぅーか?」


 いきなりひどい言いざまである。確かに元から口の悪いジェットではあるが、まともな挨拶にそのような返答をするのはあまりに無礼ぶれいであろう。


 一方、シルクハットの男を見たミリストリアは自然とアルフィースの前に位置をとった。少女は不思議そうにしながら彼女の横からひょっこりと様子を見る。


 シルクハットの男は薄化粧の表情にまだ、微笑みを浮かべている。


「ひどいなぁ……やはり、ジェット先生みたいな高尚こうしょうな方からすれば一般人なんてそんなあつかいなんですか? いくらなんでも傲慢ごうまんが過ぎますよ。可哀かわいそうに……」


「オレだって一般人だよ。勝手に先生呼ばわりはやめてほしいね……つか、お前が自分を“普通の都民”だなんて……正気か? まず普通の人間かがあやしいんだぜ?」


 ジェットはつくづく嫌悪けんおしているらしい。嫌味ではなく、本気で嫌だから純粋な悪口をぶつけている。


 ここでシルクハットの表情がゆがんだ。くちびるが震えて目元が痙攣けいれんしている。


「……ねぇ、どうして? どうしてそんな悪口言うの? もしかしてさっきから……ねぇ、どうして? 僕は悪くないのに……どういうつもりなの?」


 目をむき出し、歯と歯をカチ鳴らして地団太じだんだを踏み始める。シルクハットの男は空や草原を落ち着きなく見回した後、自分のほほを強くつねった。


 そして、突然と叫び始めた。


「悪くなぁい!! 僕は悪くない、悪くなぁぁぁい!! 悪いのはお前だ、ジェット=ロイダー!!! 何で僕がこんな辛い思いをしなきゃいけない?? ……悪いのはジェット=ロイダー、ジェット=ロイダーなんですよ!!? お前は悪者だ、犯罪者めぇ……ハァハァッ……あれ、この痛みって……ああああほっぺたが痛いよぉおぉぉぉおお!?!?!?」


 薄化粧に赤がにじんだ。強く抓った頬から出血したのである。


 全身が痙攣しているかのように震えているシルクハットの男。その姿を見たジェットは「やれやれ」とマスケット銃を構える。


「お目覚めかい、“荒天のブリューゲル”くん? イカレタてめぇとの会話はここまでだ。オレがあんたの悪行に……今日、ここでケリをつけてやるよ」


 ジェットは鋭く対面の男をにらんだ。睨まれたシルクハットの男――【荒天のブリューゲル】は全身を震わせながら腰元の(ぶき)に手をかける。



 ・・・・・と、そうしたやりとり。それを横で聞いていたパウロ少年は会話の内容こそよく解っていない。なんかジェットが話してたら白い人がいきなり叫んだように見える。


 しかし、どうやらこの草原に立つ白い男こそが“盗賊のボス”なのだと察することはできた。


 よって、パウロは当然のように彼の説得にかかる。


「あのさおめぇはえと……名前はなんてんだ、ぶるんげる??」


「ジェットは悪人、ジェットは悪人……いや、悪いぶたです。こんな人の心も無いような言動……とても人間じゃない。彼は壊れているのです。僕が直してあげないと……」


「お~~い? あんさ、オラはパウロ……パウロ=スローデンってもんだぁ! おめさ、ここで一番いっちゃんえらい奴なんらろ? ちぃっと、話さ聞いてくんねが?」


「滅茶苦茶にしないと……壊して、直さないと……だって間違っているから――――ええ、そうですよ? 僕はここをまとめている者です。名をブリューゲル=シュライザーと申します。どうぞよろしく……パウロさん、でしたか?」


 荒天のブリューゲルは帽子ぼうしをとり、深くお辞儀じぎをした。表情には穏やかな笑顔が戻り、身体の震えは何事も無かったかのようにんでいる。


「おお、よろすくなぁブリューゲル! んでよ、おめさ……盗賊な? それ、やめてくんねかな?」


「はい、よろしくどうぞ……えっ? 仕事とうぞくを辞めてほしい、ですって??」


「んだ。らって、困ってる人がおるんよ。この場所さ本当はあっちの集落の人達が使って――」


「いきなり仕事を辞めろだなんて、何をおっしゃります!? あなたと僕は初対面なのに、どうしてそんなこと言うのですか!? ……何ですって、困る?! 困りますよそれは!! 仕事を辞めたら困るじゃないですか!? あなたは僕のことを考えていますか?? そうでなければそれは僕に対して失礼でしょう!?」


 ブリューゲルはまだ微笑んでいる。微笑んだ表情のまま、まくしたててこたえてきた。


「・・・・・。」


 思わぬ反応にパウロは言葉を失いかける。しかし、どうにか対話をと……呼吸のすきに割り込んだ。


「あ、あんな? 困るって、それは集落の人たちのこったで……おめさが困るってのはその――」


「まったく……少しは考えて発言していただきたいですね! だから……ジェット=ロイダー?? そうですそうです、ジェットですよ、ジェットォォォォ!!? 僕は人だッ、キサマこそ豚畜生だろうが!? 困るんだよ、お前のようなわからず屋ッ!! ンあああああああッ、おっかしいだろおおおおおおお!!!! …………んねぇ、そう……思いませんか?」


 大人おとなが地団太を踏んで泣いた。怒りを通り越したブリューゲルの頬を涙が伝っている。どうやら彼はかなしんでいるらしい。


「・・・・・。」


 あまりにも素っ頓狂とんきょうな反応をされてパウロは何も言えなくなった。隣に立つジェットもまた、空腹に腹をたてて騒ぐ犬でも見るかのように冷めた表情でブリューゲルを観察している。


 気づくと一転して穏やかに微笑んでいるブリューゲル。彼は口元に指を置いて考え込んでいるようだ。


「どうしたらいいんでしょう? こういう時は考えることが大事です。だって人間なんだから…………ああ、そうですね。ぶっ壊してやろうか? なぁ、お前さ、既婚者きこんしゃだろうジェット?? 後ろにいる女がそうですか、その隣の小娘は何者だ? ……解りましたよ!! 丸ごとぶっ壊してさしあげますから。なぁにが発明家の大先生だ……所詮しょせんは人を見下す傲慢ごうまんな勘違いした人なんです。だったら道を正してあげるのが、せめてもの情けでしょう。仕方がない人ですよ、まったく……」


 荒天のブリューゲルは腰元から鞭を振りぬいた。鋭い風切り音が離れた位置にある4人の耳にも届く。


 ジェットは諦めのような心境らしい。口角のはじを下げて首をかしげている。


「壊す壊さないって……あのな。すでにお前が壊れてんだよ、ブリューゲルくん。だからオレがこうして――」


「じぇ……ジェット!! こいつは危ねぇ、何すっかわがんねぞ!? こう、こんなにも……ともかく危ねぇって!!」


「へぇ? あっ・・・ぱ、パウロ!?」


 パウロ少年は……ちょっと混乱しているようだ。今まで会ったこともない異常な存在を前にして、どうしたらいいのか解らない。ただ「危ない」と本能が心の奥で叫んでいることは解った。


 少年は無意識にジェットをふくむ3人を護るべく前に立っている。警戒して見る少年の視線の先――



 ――草原に立つ白い装い、紳士的に微笑むブリューゲル。



 白の装いに咲く赤の色合い……鮮血に染められたかのように真っ赤な手袋が残像を残した。手癖てくせのように振りぬかれる彼の鞭はあまりに速く、遠目で眺めるアルフィースにはその軌道などまるで見えない。


 パウロ少年もまた、まともに鞭の軌道きどうを視覚でとらえることができない。どのように見たらいいのか解らないのである。


「悪い人……僕を傷つけた人。きっと、これからも誰かを……だから、それを……今、ここでぶっ壊してやるよぉ、ジェットォォォォォ!!!!!」


 壊れていたものが露出したのか泣き叫んで鞭を振り回し始めた狂気の男。その姿を見たパウロは本能的に飛び出た。


「やめれぇ!! おめさ落ち着けって、そんなんしてっとあぶねぇろが!?」


 荒れ狂う天候のように激しい感情、それが体現したかのように振るわれる鞭。振り回される無軌道な脅威きょういは風圧ですら草地をえぐり、草土くさつちを弾き飛ばす。


「や、やるしかねっぺよ!? なしてかこん人、おかしくなってんだわ!?」


 混乱しているパウロはただ、本能のままに「なんかせんと」と思って走る。彼がほこれるものは自慢の体躯たいく……それにうたがいはない。


「パウロ、待った! いくらお前でもこいつはさっきみたいには……って、オォイ!?」


 走り出した少年の背中に向けてジェットが叫ぶ。だが、大柄な少年は止まらない。


 巨体が大地を駆け、猛然もうぜんと荒れ狂う鞭の暴風圏へと突入していく。


「おめさ、ブリューゲル……ちぃっと静かにせいッ!! あんまし騒ぐと、アルフィースつぁんさ怖がっちまうらろが!!!」


 困惑した頭にあってもやることは変わらない。山の中で熊と遊ぶ時と同じく、“突っ込んでぶっ飛ばす”……これに尽きるのだ。


「ウォラァァアア!!!!!」


 凄まじい速度と圧力。熊よりも速く、力強い。人間離れした身体能力が暴力的に狂人へと突っ込んでいく。


 対するブリューゲルは中背ちゅうぜい。体格はどちらかというと細身であり、明らかに常識の範疇はんちゅうにある身体である。


 だが、彼は熊とは違うし……有象無象の盗賊共とも異なる。


「!! ありぃ!?」


 パウロの視界が回った。ぐるりと、回転して朝の太陽が視界に入る。舞い上がった土砂が目に入り、チクチクと痛みを感じた。


 荒れ狂っていた鞭の乱舞から突然と一撃が伸び、少年の足元をすくったのである。それによってひっくり返って倒れた少年は空を見上げている。


 この直後。少年を襲う痛みは半端なものではないだろう。これまで未体験な――“想像を絶する”ものだ。


「――――ッ!!? アガァアアァァッ!?!?」


 うめき声はパウロが発したものである。彼の身体はどうにも常人離れしたものであり、皮膚も分厚い。ちょっとやそっとのことでは深い傷など負わないほどだ。ナイフでかすめられても平然とできる。


 だが、それなのに……ブリューゲルの振るう鞭の一撃はあまりに鋭かった。


 突進する大男の足元を掬った鞭はそのまま空中で加速して下に一発。打ちえられた少年の屈強な腹筋は抉られて、血と皮膚の欠片かけらが飛んだ。


「んぐっ……く!? おおおお!!?」


 予想外の光景でパニックにおちいるパウロ。激痛を覚えながらも彼は立ち上がろうとするが……そこに追撃が襲い掛かる。


 少年の反射神経と瞬発力が無ければ鼻が吹き飛んでいたかもしれない。“顔面目掛けて振るわれた鞭”を咄嗟とっさに腕で防いだが、その腕からも血が吹きあがった。


「アッいつっ……!!!」


 火傷を負ったかのような痛みに顔を歪めるパウロ。その眼前では微笑むブリューゲルが赤い残像を虚空で無数に描いている。


 それは加速の証明――高い技術によって振るわれる鞭の先端は音速を超え、文字通りくうを切り裂く。


「申し訳ありません、パウロさん。いきなり飛び出してきたもので……だけど、邪魔じゃまだからついでに壊しておきますね?」


「!? ――――――ッッッ!!!!!」


 暴風がしょうじた。高速で振り回される鞭は空気を裂き、真空を生じて衝撃波を伴う。轟音ごうおんと共に繰り出される鞭の連撃はさながら嵐の襲来、さらされる人は成すすべなく……必死に腕で顔を守り、身をかがめて荒天が過ぎ去るのをこらえて待つしかない。


 ただし。その一撃一撃は気を失いかねない激痛がともなっている。


「グッッッあああああ…………うぐぁッ!!?」


 数秒の内に数十発の打撃が加えられた。その全てが局所的衝撃波を伴うものであり、少年の身体から血と肉が飛び散っていく。


 痛みと苦痛にえきれず、巨漢きょかんはたたらを踏んで後退。そのまま背中から大地に倒れた。身体には無数の傷があり、抉られた至る部分から血が流れ出ている。激痛によって意識は朦朧もうろうとし、呼吸もえだ。


 パウロはボロボロにされてしまった。今は身動きもとれない有様でうなることしかできない。それは少年が突進を開始してから10秒ほど、わずかそれだけの時間に屈強な少年は叩きのめされた。


 少年を見下げる狂人は微笑んでいる。これは愉悦ゆえつによるものではなく“平穏”の想いから生じるものだ。あるべき姿になったと、彼は心の底から安堵あんどしている。


 荒天のブリューゲルは鞭をしならせ、ピンと張った。飛び散った血液が薄い化粧をほどこした頬に飛沫ひまつする。


 自身がつけた頬の出血は解らないが、鞭から飛沫した血には明確な不快感があらわとなる。よって、ブリューゲルは改めて鞭を振りかぶった。


 そこに――――乾いた銃声が鳴り響く。


「その辺にしておけ。そいつはオレの友人ダチなんだよ……てめぇと違って、未来がある」


 銃声にしてはやけに軽い音。それは発生源が特殊な【魔銃】だからであり、銃口からは煙ではなく青白い光が残光としてチラついている。


 はなたれた電気のかたまりは鞭で軽く振りはらわれた。微笑む男が視線を隻腕せきわんの銃士に向ける。銃士はひょうひょうとした表情ではあるものの、銃口をターゲットから外そうとはしない。


「大丈夫、忘れていませんよ? 本来、壊すべきものはあなたですから。そして…………ジェットォ?? 僕にだって未来はあります……明日は来るんです、誰にだって!!!」


「明日はあるだろうさ。しかし、それが等しく輝かしいものとは限らないだろ。テメェはお先真っ暗だよ……オレが暗闇に沈めてやる」


「またまたぁ、決めつけちゃってぇ……決めつけてくれるなよッ!!? 気取った学者風情がよぉッッッ!!!!!」


「だから、オレは学者や先生なんてがらじゃぁ……いや、もういい。まったく、人以外と話すのは疲れるぜ……畜生ちくしょうとの通訳を誰か呼んでくれないか?」


「――――ンンンンああああああっ!?!?」


 ブリューゲルは地団太を踏んで失礼な男をにらみつけた。その表情は歪んでおり、微笑みの片鱗もない。すっかり、足元の存在から意識はれたらしい。


 鳴いて、身体を震わせながらブリューゲルが歩き始める。いきどおりからくる“あせり”があるのだろう。早足はやあしに近寄っていく。


「お前には“動くな、止まれ”なんて警告は無しだ。さっさとぶっ倒れちまいな、イカレ野郎が……!!」


 ジェットもまた憤っている。それは彼にとって大事な友人を傷つけられたからだが……されど冷静さを保ち、対象との距離をはかる。


 そして銃口から放たれる稲妻の弾丸。実銃よりは少ないものの、反動によって隻腕がわずかに揺らいだ。


「――ジェット?? “こんなもの”が僕に通用するとでも……まさかでしょ??」


 弾丸ははらいのけられた。このブリューゲルという男……実際のところ実弾相手でもむちさばける力量を持つ。そうでなくとも避けるくらいは平然と行えるだろう。


 動体に対する“眼”が異様に良いのである。また、勘にも優れており、それはこれまでの人生を壊滅的な社会性で乗り切るための“危険予知”として用いてきた。さらに別称として“奇術師”と呼ばれる程に器用でもあり、殊更ことさら縄を用いた素早い奇術を得意とする。鞭の扱いはむしろその延長なのであろう。


「ナニ、くっそ……当たらねぇか!?」


 魔弾の欠点を1つ――それは弾速の遅さである。実弾と比べてかなり遅いので、例えブリューゲルでなくとも、実は避けられてしまうことは多い。また、風などの環境要素に強い影響を受けることも欠点と言えよう。


「おやおや、なんですか。やっぱり甘く見てたんですね、僕のこと……ねぇ、ジェットぉ?? …………アハハハッ、ジェットぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 ジェットが雷弾らいだんを連続して放っても、それらは全て鞭によって掃われたり、虚空を飛んでいってしまう。


 焦ったふう苦笑くしょうしつつ、ジェットが後退する。それを見たブリューゲルは歩みをゆっくりとし、微笑みの表情で声を張り上げた。


「アハハハハハッ、馬鹿にしやがって!! やっぱりお前が馬鹿だよ、ジェット=ロイダー!!! それより下がったら後ろの人にも鞭がぶつかっちゃうよ?? 止まりなって、怖いのかな?? ざまぁみろ、アハッハハハハ!!!」


 楽しそうだ。ブリューゲルは鞭を振り回し、大いに幸せを感じながら……いよいよその鞭の射程圏内に獲物えものの姿をとらえられそうだった。


 それはそうだ。そう感じるように誘導されていたのだから。


「アハッハハハ・・・・・はぅッ!?」


「……いやいや、馬鹿はお前だぜ。なぁ、ブリューゲルくん?」


 狂人は気が付かなかった。すっかり気を良くしていたので勘が鈍ったのか、それともここが運のつきであったのか……。


 魔弾の利点を1つ――それは“弾道の自在性”だ。基本的に銃弾は真っすぐ飛ぶものである。それは多少、距離によってしなって落ちたりわずかに風でれたりはするものの、その変化だって使用者の意志によるものではない。


 しかし、魔弾は異なる。そもそも魔銃は魔術補助の器具という意味合いがあるように、あくまで魔弾は“魔術”なのである。これも術者の力量によってはしまうのだが……例えば炎。そのらめきを制御する術が存在する、電流を制御する術もある。焚火たきびを点けたり消したり、ライトを光らしたり消したり……そうした1か0かの技術というものは低級なものだが、より激しい変化や複雑な影響を与えるとなると難しい。


 ここでジェット=ロイダーが行った事……つまり、『生成した雷弾を弾かれないようにえて逸らして放ち、そうした弾のいくつかを軌道変更。ぐるっとUターンさせてイカレた男の背中にまとめて直撃させる』……といった芸当。それはかなりに高等な技術と言えよう。


 ブリューゲルは魔銃を知っていたのかもしれないが、そうした高等技術は知らなかったらしい。悪運、ここにきた。


 稲妻の弾丸は狂人の背中に当たると強く発光し、彼の身体が前のめりに吹き飛ぶほどの衝撃しょうげきを与えた。


 ちょっとしたかみなりが背中に落ちたようなものである。ブリューゲルはうつぶせになって草原へと倒れ、白いシルクハットが草原に落ちた。


「さてさて、こいつは縛り上げるとして……ともかくパウロだ。それとこいつら“兄弟”……弟の方は一体、どこにいるんだ??」


 昏倒こんとうしたブリューゲルを尻目しりめにして、ジェットはボロボロにされた友人パウロの身を真っ先に案じた。生きてはいるようだが……かなりの負傷に見える。少年の手当てあてを急ごうと気が逸れた。



 ――その優しさが、甘さとなる。



「・・・・・ね゛ぇ゛、ジェッドぉ???」


「――――ウッ!?」


 しばろうとはしていた。なわを取り出してこの狂人を縛ろうという意思はあった。だが数秒……ほんの数秒だけ、あきらかにパウロを気にかけて視線を外したのがまずかったのだろう。


 その数秒の内にジェットの首は革の鞭によって締め上げられた。


「なッ……お、お前……ブリューゲル!? うっぐ……がはっ!!」


「おっとと、危ないおもちゃは……ぽいっ、とね♪」


 あれだけの鞭捌むちさばきを行う男だ。ブリューゲルは細身にしてもかなりの怪力である。そうでなくとも、片腕しかないジェットではあまりに分が悪い。


 手にしていたマスケット銃もはたき落され、さらに締め上げは強くなる。ジェットのひざはガクガクと震え、酸欠によって意識が薄れ始めた。


「ッ……ぐぅぇっ!?!?」


しびれたよ、いや……本当にさ? ただね……僕は痛みとか苦痛とか……れっこなんだよね。痛くて意識を失うなんて、今では中々できないんだよ……うらやましいよねぇ?」


「こっ、この……マジ、お前……バケ、モン……かよ……ぐぅっ!?」


「……大丈夫、殺さないよ? 動けなくして……ボコボコになった君の大切なものを見せてあげる。長く楽しもう、僕は君と遊びたいんだよ」


 ブリューゲルは乱れた頭髪も気にせず、筋肉に若干の痺れを感じながらも……微笑む。今度は“愉悦ゆえつ”によるものだ。明確に悪口を言ってきた「ムカつく」存在であるジェットを屈服させる状況にあって、痺れや痛みすら快感なのであろう。


「――――ッ!!」


「そろそろ落ちなよ、暗い闇に……ねぇ、ジェットぉ? 目が覚めたらきっと、明るい明日が待っているからさ……」


 優しく、ささやくように。すっかり感傷かんしょうひたりきってよろこびの涙を流すブリューゲル。のけぞるほどに締め上げて、いよいよジェットは舌を出してうめいた。


 そうしてモゾモゾとしている男2人。そこに……声をかける存在がある。


「・・・コホン。ご両人、ちょっといいかしら?」


 ブリューゲルの肩がポンポンと刺激された。「ムッ」として彼の微笑みが失われる。


 お楽しみの時に何だと……突然の介入かいにゅうに対して部外者が邪魔をするな/無粋ぶすいなことをするなと、感情露骨なへの字口で振り返る。


 振り返ったブリューゲルの顔面。丁度良い角度に向けられたアゴ先。


 そこを、刹那せつなに鋭い衝撃しょうげきはじいた。


「・・・・・・パァッ???」


 顔面がゆがむほどの衝撃によって、下唇したくちびるが突き出る。狂人の頭蓋骨ずがいこつ内では狂った脳髄のうずいが何度もゆらがされて意識はどこか遠くに飛んで行った。


 ぐるんと白目をいてその場に昏倒こんとうするブリューゲル。今度こそ完全に失神しっしんしたようで、口からはだらしなくよだれれていく。


 締め上げられていたジェットも倒れそうになったが……その身体は優しく支えられた。やわらかい感触に受け止められたジェットは意識を取り戻す。


「――――で、どぉなったの??」


「ん……“倒した”わ。まぁ、こうなりそうだとは思っていたからね」


 ゆっくりと、支えられながらかがみこむ。むせ返りながら呼吸を整えるジェット=ロイダー。その背中をさすりたい衝動をおさえてさっさと倒れ込んでいる狂人にはがねの手錠をかける【ミリストリア=ロイダー】。


 そう、ブリューゲルは彼女……ミリストリアによって倒された。決め手は“ハイキック”。大地に刺さったかのようにぶれない軸足から、反動を伴った迷いのないの軌道が蹴り脚の一撃によって描かれた。長い脚と柔軟な身体から繰り出されたつま先の衝撃は的確に顎先を弾き、一瞬にして狂人ブリューゲルの意識を遥か彼方かなたにふき飛ばしたのである。


 状況があまり解っていないジェットは背後で拘束こうそくされた狂人を見て大方おおかたを理解。


「ゲホッ、エホッ……あのさ。思っていたならもっと早く助けてよ? なんでしばらく見てたん??」


「だって、あなた達顔が近くって……気持ち悪いから。顔が離れる機会を待っていたのよ」


「えぇ?? 危うく死ぬところだったよ、オレ? ほら、今もこんな苦しい……げほげほ!」


「うふふ、冗談よ。だぁって、あなたごと蹴っちゃったら可哀想じゃない? いざとなったらそれも止む無しとは思っていたけど……」


 冗談にならない冗談にジェットは苦笑いした。ミリストリアのました表情がまた不安をあおる。


勘弁かんべんしてよ。ミリスさんの蹴りだけは2度と食らいたくないです……まぁ、ありがとね」


「どういたしまして――だけど、あのね。今だから言わせてもらうけど……あなたっていつもそうなのよ。こう、油断するというか……昨日も言いかけて途中だったけど、ほら前だって――」


「あのさ、パウロ、パウロ!! あとで聞くから……今はあいつなんとかして! 助けたげて!!」


「え゛っ?? ・・・わ、解っているわよ。ただ、丁度良いから言おうとしただけなんだから! ええと、医療セットは……って、これでどうにかなるかしら? 早く医者にみせた方が――――って、うわぁ!?!?」


面目めんぼくねぇ、ほんにすまんす……」


 ミリストリアが振り返ると、そこにはパウロが立っている。ボリボリと頭をいてしょんぼりとした巨体が確かにそこにる。


 数十発と鞭に打ちえられたというのに、この男は割と平然とそこに立っているのだ。ただしちゃんと血塗れではあるが。


「ぱ、パウロ君!? あなた平気……じゃないわよね?? 動かないほうが――」


「オラ……なんもできんかった。なんかいきなしクルってなって……そんですんげ痛くって、猛烈にやられて……いつの間にか、倒れちまった」


(!? ど、どうなっているのよ……この子、もう傷が……!?)


 ボロボロではある。確かにパウロはボロボロにされて肌も肉もえぐられた。しかし、全身に負った傷はすでに回復を始めているらしい。傷口には薄膜が張られており、出血はすでにほぼ止まっている。現在に血だらけなのはその名残なごりでしかない。


 驚異的な回復能力にミリストリアは息をのんだ。しかし、それよりも呆然ぼうぜんとしているのは――少女アルフィースである。


「パウロ? その……大丈夫??」


 傷だらけの大男を前にして、少女はあまり近づこうとしない。怖がるのも無理はない姿ではある。


「あっ……アルフィース、つぁん。その……オラ……すまんす。面目ねぇとこ、ほんに……」


 パウロもまた、少女に直面できずにいる。意気揚々と挑んだ割にはこの姿だと、自分で自分の様をじているのであろう。


 引き気味に頼れる女性の横に立っている少女。うつむき加減に草原でひとり立ち尽くす少年。


 ミリストリアはそんな2人を見て……放ってはおけなかった。


「――パウロ君。あなた、謝ることなんてないわ。だって立派だったわよ? 確かに倒されはしたけど……“アルフィースちゃんを護るため”、勇敢ゆうかんに立ち向かった勇気は誇るべきよ!」


「ゆ、勇気は……んでも根性さ出してもオラは……オラは、護れてなかったっけ……」


「何を言っているの。あなたが最初にあいつの気を引いたから、ジェットも追撃がしやすかったのよ……ねぇ、ジェット?」


「え゛? ・・・あ、うん。そうだぜ、パウロ! 自信出せって!」


 呼吸を整えながら少しうわの空で話を聞いていたジェットはいきなりに協力を求められて慌てた。慌てつつも、彼女の言葉に合わせる。


「まぁ、そのジェットもやられちゃったわけだけど……」


「うわぉっ!? み、ミリスさん?? それは言いっこなしじゃ……/


/え、ジェットもやられちったんか? あらぁ……やっぱす、あいつとんでもねぇな」


「そうよ、ジェットだってやられたんだから。何もあなただけが護れなかったわけじゃない……私たち3人であいつをやっつけたの。つまり、3人で護ったってことね!」


「・・・・・。」


 なんだかパウロをなぐさめるついでに“あなたは私を護れてなかったわね”と釘を刺されているかのような感覚。したたかな一石二鳥を感じて、ジェットは表情を苦々しくしている。


 一方、パウロは……完全に納得はしていないものの、多少は落ち着けたらしい。自分も役に立てたのなら、と。


「オラたち、3人であの子さ護った……」


 しかし、できれば今度は自分1人で彼女を護りたい。そのように思いつつ、おのれの拳を眺めた。


 ともかく。パウロはどうやら無事な様子。そのことを受けて、少女アルフィースもまた、気持ちを軟化なんかさせたらしい。


 気を取り直した少女アルフィースは横に立つ女性を見上げた。そして、その手を引いて注意を向けてもらう。


「ん? なぁに、アルフィース?」


「あ、あのね…………すごかった」


「すごかった? ああ、ジェットの――」


「違うの! あなたよ、ミリス! あなたの、あの、ほら……“キック”! ビュンッて、それはもうすごかったわよ!?」


「?? あ~~~、私のハイキック? すごかったって……そぉ??」


「そぉよぉ!! だってね、あんなにおっかない人が一発!! しかもね、すっごく綺麗きれいだったのよ!? 私……私っ、見惚みほれてしまいました!!!」


「あ、あはは……ありがとうね。まぁ、あれくらいは軽いものよ……うっふふ」


 少女がキラキラとした無垢むくな瞳で見上げてくる。尊敬の眼差まなざしを受けたミリストリアは照れた。


 アルフィースが「私にもできるかな!?こうして、こうっ!!」と真似をしてみるが……到底彼女のイメージとはことなる何かが繰り出された。無垢な姿を見たミリストリアは「そうね、練習すれば……あと、スカートはあんまり向かないかなぁ」と、少し気まずそうにしている。


 昏倒した狂人を背に何やら全て終わったかのような、大団円だいだんえんのような3人。


 あまつさえ「さっそく帰って練習してみる?」「うん、やってみる!」「お、オラなんか腹が減ってきて……」などと。帰路につこうとしている有様だ。



 「やれやれ」と、呼吸を正常としたジェット=ロイダーが露骨なため息をいた。



「あの……キミたち?? まだ終わってないからね……ってか、まぁ盗賊討伐もそうだけどさ。本来の依頼としてはコレ、“回収依頼”なんで……そこんとこどうかヨロシク!」


 長し目に呆れられた3人がそろって「え??」と目を丸くする。


 そして――確かに、ジェットの言った通り。



 ブリューゲル=シュライザーには弟が存在する。彼らは“シュライザー兄弟”として悪名高いのだ。


 もっとも、兄のブリューゲルほど弟は名が通ってはいない。ただ、問題となるのは……今回の仕事が“回収依頼”であること。



 それは元々の製作者であるジェットだからこそ解る、厄介やっかいな想定。


 もし、それにシュライザーの弟が“搭乗とうじょう”しているとすれば……その脅威は単純な戦闘力という意味ではブリューゲルの比ではない。




『……そうか、兄者。今、助ける――――――』






第11話 「オレってマジモンスター(7)」 END







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