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「オレってマジモンスター(6)」

 一夜明けて……サンサンとした日差しがシャナーラの町を明るく照らしている。


 闇夜やみよのうちにホウキではらわれたかのようだ。青空には一切の雲もなく、快晴。空を舞う鳥たちも実に気分がよさそうにしている。


「いっつぬっ、さんすっ! ごーろっく、しつ、はつッッッ!!」


 昨日の夕方に少女をかついだパウロが出現した森は西の方角。町をはさんでその反対側にも森は広がっているのだが、先に川が流れていて希少な岩石の取れる岩場がさらにその先でゴロゴロしている。


「・・・パウロはともかくとして、どうしてミリスもストレッチを?」


 少女アルフィースは首を傾げてみせた。それは目の前でゆったりとした動きをしている女性に向けてのものであり、斜め後方でハッスルしている少年については触れないようにしている。


「ああ、これ? “収空拳しゅうくうけん”といってね、私がまだ学生だった頃から……ずっと続けているのよ」


「へぇ、どうして?」


「んんっと……健康のため、かな。少し前まで身体が弱かったから……護られてばかりも、いられないでしょ?」


「ふぅぅぅん、なるほどね。ちょっと面白そうね、それ!」


「やってみる? スタイルの維持に、柔軟性を高めるにはもってこいよ。まずね、基本は呼吸なんだけど――」


「あっ・・・・・ぅ、ぅん」


 正直な話、アルフィースはお世辞せじじりにめたつもりだった。基本的に身体を動かす……というか汗をかくことが嫌いな彼女は断じて「私も~♪」なノリで発言したわけではない。ただ、予想以上にミリストリアもハッスルしていただけなのである。


「まぁ、確かにそれ始めてから体調、安定してるものな。おかげで緊急に装心そうしんってこともほっとんど無いし」


 ゴリゴリと機械的な杖で肩をマッサージしながら、ジェットが会話に割り込んできた。ちょうど持ち手の部分が曲がっていて、これが肩甲骨けんこうこつ辺りにフィットするらしい。気持ちいいのであろう。半分口が開いている。


「そうねぇ、発作ほっさの無い生活は心も穏やかに、晴れやかなものだわ。医学と武術には感謝ね」


「ん……“発作”って???」


 何気なくわされる中で飛び出た単語。そこに引っかかった少女が「待った」をしてみる。


「ああ、こいつね。ちょっと前まで病に……まぁ、不治ふじの病ってやつをわずらっていてさ。今も治ってはいないんだけど……ソローミン型肺機障害って聞いたことある?」


「そろーみん・・・かた・・・??」


「んん~~、強烈なアレルギー反応っつーか? 主に空気……の中の不純物? まぁ、なんか酸素に混じったヤツに対して身体が異常反応を起こす、みたいな? たぶんそんなものらしい……よく解ってないけど。発作が出ると息するだけでメッチャせきしたり嗚咽おえつしたり、マジヤバい」


「へぇ、空気に・・・・・ヱ? ってことは息、できないってこと??」


「発作が起きたらな~。だから大変でさ……ああ、年取るごとに深刻になってくタイプなんだぜ、そのソローミン型って」


「!!?!? み、ミリスッッッ!! すぐにその運動を止めなさいっ!!!」


 アルフィースは声を張り上げ、けわしい表情でミリストリアにつかみかかった。少女のタックルをくらったミリストリアはしかし、ほとんどらぐことなく「あらあら」と小柄な人を受け止めている。


「ハハハ。いや、だから治ったんだよ。なんか呼吸法? それがスゲー感じで、収空拳もその一環なんさ。正直このオレですら今もってよく解ってねぇが……なんかくってダチのドクターが教えてくれてよ。実際効いてんだから、不思議よなぁ。あれだけ帝域の権威共が躍起やっきにしてるってのに……世界ってのはまったく、広いもんだぜ」


「そ、そう……い、今はともかく平気なの……ね??」


「おう、すっかり良くなったよ。そりゃ、治療中はたまに発作もあったが……まぁ、そんな時の装心だわな。ハハ、人工呼吸じゃねぇけどよ、似たようなもんだ」


「え、なんで……ああ、なるほど。装怪者の『不死化』を利用していたのね」


「YES、そゆこと☆」


 ここで。話の中で軽々しく出てきたので、少し「不死化(現象)」というものについてれておこう。


 ――装怪者は普段、そこらの人間と変わりはない。しかし、装心中(相方が怪物と化している時)は不死身となる。まぁ、正確には不明ではあるのだが……ともかく装心中は“何らか”の加護によって装怪者は身の安全を保障される。例えば発作も収まるだろうし、仮に巨大な刃が身体を真っ二つにいても問題なく、すぐ元に戻る。なお、この時の彼女らはぼんやりと輝きを放っている。


 なぜこのような現象がしょうずるのか? 人々はよく調べてはいるものの、まだ真意には至っていないようだ。そもそも実際は加護ですらないと思う。


 これを要約ようやくすると『装心すれば装怪者は安心、安全です』ということ。そういうものなのだ。


「やめて、指をささないで頂戴ちょうだい。あなたなんかが無礼ぶれいでしょう?」


 それはともかくとして。アルフィースは「そゆこと☆」と指をさされたことが不快らしい。ムッとして軽々しい男に詰め寄った。


「おーお、恐いねぇ。オレもミリスに抱きついて泣いちゃおうかなぁ?」


「・・・・・ぶつわよ」


 まったく小ばかにしたような態度である。ジェット=ロイダーという男は相手が少女であろうが嫌味に容赦ようしゃがない。彼の精神が子供らしいからこそ対等にしているのか、それとも子供だろうが大人だろうが無関係に応ずるがゆえであろうか。後者であればアルフィースもまだそれほどイライラしないであろう。


「大丈夫、私が代わりにぶってあげる♪」


「ァちゃーーーーっすぅ!? 痛ってぇ! いや、マジ右側から攻めるのやめろや、防ぎヅレーっての!!」


「だって、防がれないようにしているんだもの……」


 宣言通りに右のつらを張り手され、大の男が揺らいだ。毅然きぜんとした体幹たいかんから繰り出される“技”としての掌底しょうていである。ミリストリアの一撃はしっかりとジェットのあご先をはじき、彼の膝はガクガクと揺らいでしまっている。


 ……ところで。一体、彼らは何をもって『町の東側にある森の外れ』でこのようにイチャイチャとしているのであろう?


 それには昨日の話が関係している。食事を終えた後にそれぞれ再び、男と女で部屋を分かれたのだが……そこでジェットがパウロにこう切り出したのである。


『――ってかさ。今日はいいとしても、お前らこれからの旅で金、どうすんの??』


 もっともだ。すでにジェットからお代をめぐんでもらっている立場であり、これ以上彼の財布を頼り続けるのも問題であろう。


 ジェットはそれでも構わないと内心では思っている。しかしそれでは「これでもなんとかなる」という誤った価値観を少年少女に与えかねない……現時点で常識が不足しているのだから、それを増長ぞうちょうするような真似を自分が行うわけには……などと。彼は意外とお節介せっかいらしい。


 そこからジェットは基本の基本として「金を稼ぐ」という行為を彼らに行わせようと考えた。もちろん、自分も同伴どうはんしてかせぎを折半せっぱん、という形である。


丁度ちょうどいまよ、オレらが取り組もうって仕事ヤマがあって……ま、そのためにこの町へと入ったんだがな。どうだ、やってみるか?』


『おお……おぉー!!! 稼ぎだか、そりゃあんがてぇべ! そういやおっとぅ(父)は“村の外だととにかく金、金、金が大切なんだわ”とか言ってたきがすっけな!』


『へぇ~、いい父ちゃんじゃん。でも、そんならその手段や手引きくらいしてやりゃいいのに……ま、いいケド』


 そうは言ってもジェットには不安があった。それはそもそも彼からしてまともな稼ぎを行うタイプではなく、現にこれから挑む稼ぎだって“仕事”と言うにはあまりに抽象的なものなのである。


 しかし、それはこの世界を知るにはうってつけかもしれない……特に何処どこか不明な山奥育ちの少年と、おそらく労働の概念などかいしていないであろう聖圏出のお嬢様ならば……早いうちに知っておくべきことでもある。


 ――この世界は良い人間ばかりではない。例えばみんなで仲良く掘っていた採掘場を「ここは今日から俺達のものだ!」と居座って身内以外を追い払い、独占するやからも存在するのだ。


 そういったことから。ジェットは昨晩にパウロと話し、朝食の際にミリストリアにも相談をしてみた。彼女もいくつか不安をべたが、考えとしてはジェットに共感し、少年達にも同行してもらうことにした。


 張り切るパウロは早朝から町の外周を50回走った。ウォーミングアップは万端である。彼は話をくわしく聞き、相手が“賊共の撃退・捕獲”であること知ると「あったまってきたべぇ!!」と拳を震わせていた。少女を救ったあの時と同じ感情である。


 そうして一行は現場である『採掘場キャンプ跡地』を目指しているのだが……さっそく問題が立ちふさがった。


「川を渡る橋が……無いわね」


「ああ、落とされたそうだぜ。町人は完全にシャット・アウトってことだろ」


 森を抜ければ細い川が流れているのだが……困ったことに。ミリストリアがどれだけ周囲を見渡してみても橋が無いのである。ジェットが言うようにこれは盗賊の仕業だ。


 水深すいしんからしてジェットの腰元くらいである。無理をすればパウロやミリストリアなどは渡れるかもしれないが……流れがそこそこに速いのでアルフィースやジェットなどは流されること必至ひっし


「したら、ここを渡ればいいんろ? んだら、ちょっと待っててくろ!」


 この状況を見て、パウロは何処かへと駆けだしてしまった。彼は駆けだす前に一言掛けてくれるが、その後の初動が速すぎて「待って」がまるでかない、というか聞こえない。


 ・・・数分もすると、パウロが戻ってきた。その脇にはしっかりと“ごん太の長い丸太”が抱えられている。まるで「小脇にちょっと」みたいな様子だ。


「おー、やるじゃん。向こうに届くぜ、こんだけ長けりゃ――って、アッブネぇ!? おい、それ横に持つな! 縦に持て、縦に!」


「あっ、すまんす。だっけどよぉ、これだと丸っこいけ、乗ると落ちねぇか不安だべよ、特にアルフィースつぁんが……」


「何? そりゃ、落ちるわよ? 悪い?」


 悪くはないが、問題ではある。だったらパウロが抱えて行けばいいだろ……と思われるが、アルフィースは何かジリジリと距離を取ってまるで抱えてもらう様子が無い。昨日はあれだけおぶさっていたというのに……。それを見たミリストリアは微笑んだ。


 そこでジェット=ロイダーである。彼は「要はたいらならいいんだろ、誰みたいにとは言わんが……」などとこぼしながら横たえられた丸太の前に立った。


 彼から見て真正面に横たわっている丸太。それを前にしたジェットは左手に持っている機械的な杖を反転させ、がった丸みのある取っ手を掴む。そして杖の先端を虚空にぎ払ってみせた。


 この時生じたのは集約された火炎かえん奔流ほんりゅう。薄く、薄く……白く見えるほどに広げられたそれは“炎の刃”とでも表せよう。炎刃えんじんは包丁でバターでも薙いだかのように丸太を一閃いっせん、カットした。げた切れ目からわずかに煙が昇り、単なる刃による切断とはことなることを如実に証明している。


「うへぇ!? なんだべなんだべ!? どーしたって、丸太が斧もねーのに真っぷたつ!?!?」


 パウロが動じるのも無理はない。当たり前のように数秒で行われた動作だが、過程と結果のどこにも「当たり前」が存在していない。納得できないのは自然のことである。


 まぁ、例え斧があったとしてもこの長い丸太を半分になどできないし、そもそもパウロもこれを素手でなぎ倒してきたのだから不思議さでは大概たいがいであろう。


「・・・・・昨日、聞きそびれたんだけど。あなた、あの焚火の火を消したでしょ?」


 昨日の小路こうじでの出来事を思い出したアルフィースが「はっ」として青年に問いただす。それを受けたジェットはひょうひょうとしたもので「今更?」のような表情で少年と少女を交互に見た。


「あれ、言ってなかったか? いや、ほら……オレって都市で魔術習ってたからさ。学校のひましてる時にやってて……火をけたり消したりってのが得意なんだよ。あとは電気で簡単なライトを作ったり、とか?」


「ほぉぇぇぇ~~~~~、なぁんてこったい!? ・・・今日もまるでわがらない」


「魔術……なるほどね。そうか、だとすればその杖……もしかしてあなた、帝域の軍人出身なの?」


「あー、それ違ぇわ、マジ。ほんとオレのは趣味しゅみだから♪ これも自前で買ったんだよ。装飾そうしょくとかオーダーメイドで……カッケェっしょ? あくまでオレって頭脳労働が専門だからさ、今日みたいなのは特別だし」


 どうやら単なる杖ではない得物えものを持ち直したジェット。彼は大柄な少年に丸太を川に渡してくれ、とうながす。「合点がってんでぃ!」とこれも軽々と、丸太が川にかかる。実際、不思議技能ショーとしてはジェットもパウロもどっちもどっちであろう。


 少々疑念を強めた少女はあるものの……4人の男女は無事に丸太橋を渡り、対岸へと進んだ。


 そこには再びの森。そこを少し進むと、今度は岩肌のがけにぶち当たる。


「おー……おおぉ?? なんだっぺこりぇ? 紫なんだか赤なんだか緑なんだか……変な岩だべなぁ」


 パウロは興味深く岩肌の壁を見上げている。小高い丘の一部なのであろうが、そこに露出した岩の一部が不思議な色合いをしているからだ。


「こいつは耗輝岩もうきがんつって、この辺りの名産だな。まぁ、みがくとすっげぇイイ~感じに黒みが消えてな、上手いこと装飾品に使えんだわ。しかし、こんな岩肌にゴツゴツと露出しているのは珍し――」


「私、これ好き」


「……解ったよ。後でな、町に戻ったらな」


 ミリストリアの催促さいそくを受けつつ、ジェット達は耗輝岩の壁に沿って進んだ。


 しばらく進むと森と平原の境目のような場所にでて、そこにいくつかのテントが小さく見えて来た。どうやら目的のキャンプ地とはそれのことらしい。


「あったな……あれが盗賊の住処すみかってわけだ。ま、本来は村人の採掘拠点なんだけどよ」


「うぉぉっし、したらさっそく行くべ! 宿の爺さんも言ってたけんど、ホントああいう卑怯ひきょうな連中はオラ、見逃せねぇべよ!」


 パウロはどうにも“盗賊”という存在への敵意が深い。これは幼い頃、ヤットコ村で発生したとある事件のせいである。父親譲りの正義感というものもあるだろう。


「まぁ、あせるなって。こういう仕事には大体、前座ってのがあんだわ」


「ふぁ? ……ほ、ホォォアァッ!!!? な、何者だず、おめら!?!?」


 盗賊の住処まで少々距離はあるが、確かに肉眼で見える距離である。そして、村からこの場所を目指す場合に通るであろう岩沿いのみちには……ジェットいわくの“前座”達がたむろしていた。


「あ゛あ゛???」


「なんだ、あんたらよぉ!! ここは俺ら“岩堀り盗賊団”アジトへの通り道だが!?」


「どうすんのよ!? 身包みぐるみ置いて帰るか? それとも歩けないほどボコボコんなって、川に流されて消えるのか!?」


 3人だしかも全員がいきなり喧嘩腰けんかごしである。これはつまり、「盗賊の見張り番3人衆が勝負をいどんできた」ということに他ならない。


 見張り番3人衆は当初ひたすらギロギロとしていたが……よく見れば背が高い2人の男性を確認すると警戒して口を閉じた。それぞれ見合って、目線で意志の疎通そつうを行っている。特に大柄で筋肉質な存在は明らかに強そうなので、すっかり萎縮いしゅくしたらしい。


 その大柄な存在をズイと押しのけ、小柄な少女が可憐かれんに存在感を発揮した。


「あなた達が悪者なのね!? 盗賊なんて……下劣げれつな真似する下賤げせんなる者共が、それ以上私に近寄らないでくださいませ!!!」


 自分から出張っておいて「近寄らないで」とはこれ如何いかに。されど、小柄な少女にさげずまれて……盗賊達は本来の血の気を取り戻したようだ。


「あ゛あ゛!?!? なんだテメェ!! あんましナメた口きいてっと、どうすっかわかんねぇぞ!!! ・・・っと、オホッ??」


 見張り番3人衆は指差しを行った。そして、野郎2人にまぎれている可憐な少女とりんとした女性を確認した。そうしてあらためて、目線による作戦会議を行う。


 しばらくして……どうやら彼らの方向性は定まったようだ。


「お、オッホン。ええと、そこのキミタチ! 我々は寛大かんだいな盗賊、岩堀り盗賊団の一員である! しかし、寛大でありながら非常に恐ろしい存在だ!! そこでだ……ええと……」


「うむ、割と凶暴でもあるのだ、我々は。だけど寛大でもあるので、ここはキミタチをボコボコにしない選択肢を1つ用意しよう。えと……それはつまり……」


「ああ!! つまり、そこの女性達を置いていきなさい。あと、男共は金とかも置いていけ。そうすれば男はボコボコにしないし、女性方とは楽しくできるだろう? 悪くない提案だと思う!!!」


 彼らはおどしに掛かった。いまいち歯切れの悪い言いざまではあるが……つまりは「女と金目の物を置いていけ!」という、いかにも盗賊然とした、清々しい提案を行ってきたのである。


 この提案を受けて。ジェットは機械的な杖でもある“得物”をくるり、その左腕で回して持ちえた。


「下手な交渉しやがってよ……悪ィな、そりゃ受けられねぇわ。だが、代わりに“いいもの”をくれてやるぜ」


 ジェットの左手に握られている得物。彼はその尖っている先端部を見張り番3人衆に向ける。


「い、いいものだって? へへ、なんだ物分かりがいいじゃねぇか!」


「おお、そうだそうだ! さっさといいものを置いて、何より女も置いていけ!」


「そうだとも! 俺たちは男にゃ用はねぇんだ! 女性と楽しいひと時を過ごしたいんだ!」


 盗賊達は素直すなおなようで、ニコニコとして互いに顔を見合わせている。思ったよりあっさりと提案が通ったのだと楽観視しているのである。


 ジェットもまた、軽く微笑ほほえんだ表情を浮かべている。そして得物を……片手で器用に構え、取っ手を脇の辺りに押し当てた。そして杖の中腹部にある突起物――『引きトリガー』に指をかける。


「ああ、こいつはシビれるぜ? 女と楽しむより、よっぽど刺激的さ……」


 そう、引き金を備えた機械的な杖はつまるところ銃――“マスケット銃”である。それも単なる銃ではない。


 ジェット=ロイダーが手にするマスケット銃。それは特注に制作された逸品いっぴんであり、彼とたくみな職人・オオキによって作り出された芸術的合作だ。実弾を用いない魔術の銃……いわば“魔銃まじゅう”と呼ばれるものである。


 魔銃は実弾を用いず、使用者の魔力を凝縮ぎょうしゅく、現象の弾として撃ち出す武器である。正確には魔術補助器具に分類されるが……用途からして武器以外の何物でもないだろう。


 実弾を用いないため弾切れの心配というものがなく、管理の面でも解りやすい。これそのものが大変に高価という問題はあるものの、長く見れば経済的に優れる場合もある。また、形状にも実弾では不可能なつくりが可能で、ジェットのものはただの杖かと思われるほど細い。


 実銃と比べて弾薬管理の利点と特殊な攻撃手段による優位を持つが、弾の速度や威力の安定感、確実性が使用者の力量によって変化する……という点であつかいが難しい。単に引き金を引けば撃てる、というわけでもないので一般的な利便性では実銃に軍配が上がるであろう。


 ただし、存分にこれを扱える魔術師――特に魔銃の扱いにれた者が使えば実銃には不可能な多様性ある芸当が可能。リロードの速度も実弾では有り得ない効率を生み出すこともできる。


 ……そして、またたく間の出来事。重くはないが、よく通る「カゥーン」といった具合の銃声が3つ重なった。


「「「 ほげげぇ!?!? 」」」


 見張り番の3人はほとんど同時に悲鳴を上げると、そろって身体を震わせながら地に伏せた。どうやらしびれてしまったらしい。それを見下げるジェット=ロイダーの隻腕せきわんにはパリパリとした青い光が残光のようにチラついている。


「宣言通り、刺激的だったろ? 悪い子ちゃん共はそのまま寝てなさい」


 ジェットは「1晩くらいなら大丈夫か」などとブツブツ言いながら、倒れている盗賊共をしばり上げていく。ミリストリアも当たり前のようにそれを手伝った。


 さも自然に、夫婦仲良く庭仕事をするかのように平然とした振る舞い。しかし、直前の光景を前にした少年と少女は呆然ぼうぜんとして口をだらしなく開いている。


 しばらくそうしてから、少年は瞳を輝かせるかのように表情を明るくした。


「う、うぉぉ、すっげェ!? まったく何が何やらだったけんど……きっとジェットはすげぇんだろな!!?」


「ん?? おうよ、ナイスだろ。荒事あらごとは得意じゃねぇが……まぁ、これくらいはな? ナハッハハハ」


「頼りになるねぇ! オラさ、おめさの腕がバァチバチしてっから“なんした!?”思ったんに……どうしたってそれがこうなんのさ! まったくすんげぇわ、ジェットったらほんに!!」


「よせやい、大したことじゃねぇっつーの! ・・・ま、オレってば? その気はねぇんだけど、ついついさりげにせちまうっつーか? へっへ、まぁ、なんつーかよ……つくづく自分の非凡ひぼんさがにくい? って感じで。わりぃな~~ホント☆」


「と、盗賊はまだいるんらろ!? オラもオラも! 見てて、アルフィースつぁん! オラだって頑張っけ、そらジェットみてーにはいかんらろも……そんでもオラの取りさこの腕っぷしくれーなもんらし。そもそもオラってば君を護るってまずそれ――」


「いやまぁ、実際のところマジ、こんなんどってことねーって……。しかし気ぃ引き締めろよ、パウロ。この仕事のきもはこいつらじゃねぇから。あいつら“兄弟”以外はおまけだからよ。ほんと油断は禁物……って、聞いてるか? おい、パウロ??」


 男2人は意気揚々としている。特にパウロとしてはジェットの活躍を見て思うところがあったのであろう。意気込んでいる。


 しかし、その後ろでは――震えている少女の姿があった。具体的にはミリストリアの後ろである。


「――怖かった?」


「う、うぅんん?? ど、どうかな?? いや、怖くなんてないワッ!!」


「そう……なら、せめて並んで歩いてくれると助かるのだけど?」


「・・・あっ!? そ、そうね。掴まっていると、歩きにくいものね……!」


 オドオドとしながら離れたアルフィースは、木のみきに仲良く寄りかかって泡を吹いている人間が見えないように、ミリストリアを壁代わりにして歩いている……改めて、彼女の腕にしがみつきながら。


 歩きにくくはあるが、気分は悪くない。ミリストリアは少女が転ばないように気を付けて歩いた。



 優しい歩行の最中。ミリストリアは盗賊のアジトと化したキャンプを意識して深く呼吸を行った。


 ジェットが言うように……この先にこそ真の問題があると理解しているからこその“備え”。



 盗賊にも、色々ある。それこそ、単に“悪人”といってもそれは様々であろう――――。






第10話 「オレってマジモンスター(6)」 END







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