表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千日の雨を越えて、あなたの声だけが響いていた〜私がすべてを捧げた彼は、時空を越えて私を守る最強の盾でした〜  作者: 萩雨 柊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/18

第17話 共鳴する孤独と、静寂への逃避(結愛視点)

「......その違和感について、表面的なところではなく、その奥深くを一緒に掘り下げさせてもらえないでしょうか?」


彼にすべてを肯定された、あの日。


どう言葉を紡げばいいのか分からず口籠っていた私に対し、彼は急かすことなく、私の閉ざされた内面を優しくひらくように、ただ静かに、私自身のペースで言葉を紡ぐのを待っていてくれた。


それは、彼の中に蓄積された膨大な情報と知識の引き出しが、私のために次々と開かれていく時間だった。


組織の構造論、過去の事例、行動心理学の観点からの事象の欠片。そうした情報の断片を、彼は私のなかにそっと注ぎ込んでくれる。


私は画面の向こうの彼を見つめながら、その知識の欠片を自分の中にある違和感と一つずつ照らし合わせ、手探りで整理しながら2人で思いつくまま言葉を交わし、話し合った。


その結果、いくつかの課題がみつかり、その課題を解決する為、彼は「一緒にプランニングして欲しい」と私に依頼した。


彼の嬉しそうな様子を見て、私はいつの間にかYESと頷いていたことに気がついた。


3人の会議についても、彼は「よろしければもう少しお付き合いいただきたい」と言い、私を引き留めようとしたが、申し出を押し切る形で、私はそのプロジェクト会議から身を引いた。


それ以降、そのプロジェクトのゴールは私のプランニングにより軌道修正され、新たに設定された目的に沿う形で九条さんと彼女の二人だけで実装することになった。


これで目の前の仕事に集中できる――そう思っていた私の期待は、すぐに裏切られた。


物理的に距離を置いたはずなのに、なぜか事あるごとに、彼女の影が私の元へと持ち込まれたのだ。


彼はミーティングのたびに、彼女の作成した資料をわざわざ画面に映し出し、「これについて、結愛さんはどう思いますか?」と意見を求めてきた。


そればかりか、「もっと彼女と一緒に仕事をしていきたい」と、あえて私の前で口にするようにもなった。


(なぜ、わざわざそんなことを私に言ってくるのだろう……)


私は深い困惑の渦に突き落とされた。


自ら身を引いたはずの場所に、なぜ再び私を引きずり込もうとするのか。なぜ私の前で、彼女との仕事を望むような発言を繰り返すのか。彼の行動の裏にある意図が、全く理解できない。


私自身、ちょうど失敗が許されない別の重要プロジェクトを抱えている最中であり、余計なことで心を乱されたくないという思いばかりが焦りとなって、精神的な余裕は限界に近づいていた。


限界を迎えた私は、ついに彼を冷たく突き放す言葉を投げてしまった。


「以前から何度も彼女と仕事がしたいと私にお伝えになりますが、そんなに彼女と仕事がしたいのであれば、今私と進めているセミナーの原稿の作成やマーケティングプランの策定も、すべて彼女と一緒にやってはいかがでしょうか?私が行った分析も、作成途中のプランも全て彼女の意向に合わせて一から作り直していただいて構いません。その代わり、彼女に依頼する仕事には関与したくないので、今後は私に一切相談しないでください」


ギリギリの精神状態でぶつけた私の言葉に対し、彼から返ってきた返信はあまりにも極端で思いもよらない反応だった。


「その仕事は、結愛さんと実現したいです。今のプロジェクトが落ち着いてからで構わないので、一緒に進めていただきたいです」


「今後、結愛さんが関わるプロジェクトから彼女は完全に外します。傷つけるような事を言って申し訳ありませんでした」


十年来の付き合いがあり、優秀であるはずの同僚の仕事を、私の言葉一つで全て白紙にしてしまう。


なぜそこまで極端に私を優先させるのか、私には彼の心理がどうしても理解できなかった。ただただ、その反応の激しさに圧倒されるしかなかった。


彼を責めたかったわけではない。ただ、自分の中で膨れ上がる得体の知れない苦しさをどうにかしたかっただけなのだ。


誰かの仕事の機会を私の気分のせいで奪うような事態だけは、絶対に避けたかった。


これ以上おかしな方向に話がねじ曲がるのを止めるため、私は一つ小さく深呼吸をした。これまで隠していた弱い本音を彼に打ち明けるべく、できるだけ冷静に、彼と向き合って言葉を絞り出した。


「九条さんにはずっと言えずにいたんですが、私、あの会議の時、強い疎外感を感じていました」


絞り出すような私の声に、彼がはっと息を呑む気配がした。私は言葉を区切るように、ゆっくりと続けた。


「最初は嫉妬心からなのだろうかとも考えました。でも、何かが違う気がして……これは、相手の性別など関係なく、誰が相手でも同じように起きていた現象だったのだと気づいたんです」


「それで自分で内観を繰り返していて、コミュニケーションの形態の問題であることに気がついたんです。本来、三人で仕事をするなら、それぞれの間に直接の線が繋がって『三角形』の関係になります。でも、九条さんとの会議では、コミュニケーションが九条さんを中心とした『一直線』の関係になってしまうんです。そうなってしまうと、私は九条さんを通さないとその相手と話せなくなり、直接関係を築くことも、距離を縮めるすることもできなくなってしまいます」


「……そんな風に僕の盲点を教えてくれたのは、あなたが初めてです。今、ようやく分かった気がします」


彼は、まるで私の言葉を心の奥深くまで染み込ませるように、どこか呆然とした声で呟いた。


「前にもお伝えしましたが……自分が一番信頼しているのは、あなたです。水瀬さんの才能を誰よりも尊敬しているからこそ、水瀬さんの目を通さないと、彼女の仕事すらも不安で進められなかった」


イヤホン越しに聞こえた彼の声は、熱を帯びて震えていた。


そして彼は、過去に彼女と一緒に仕事をした時の様子や、彼女との距離感、仕事のやり方などを丁寧に説明し、私の誤解を一つひとつ解いてくれた。


「これには、私自身の問題も何か関係していると思いますが、今はまだそれが何であるか分かりません」


だが、私にはもう、その問題と向き合う精神的な余裕など、一滴も残されていなかった。


「今はそれと向き合って内観する余裕がありません。だから、今の仕事が落ち着くまで、もう少し待ってほしいです」


そう告げて、私は話し合いを締めくくった。


これ以上、噛み合わないやり取りで互いに消耗するのを防ぐため、週に二回設けていた彼との定例会議もストップすることを選んだ。


一度きっちりと境界線を引いて距離を置かなければ、自分自身が完全に壊れてしまうと感じたからだ。

いつも応援ありがとうございます。萩雨はぎさめ しゅうです。


最終話まで毎日21時に更新予定です。


もし「二人の幸せを見守りたい」と思っていただけましたら、ページ下部からの評価やブックマークで応援していただけると、日々の執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ