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この世界で、君だけが獣を王にした  作者: そよら
フェーズⅢ 巨大交易都市マーケット・ゼロ
32/50

Ⅲ-EP.1 通行ゲート

 石と金属で組まれた巨大な門が、空を切り取るようにそびえ立っていた。


 見上げるほど高い城壁の向こう側にあるのは、巨大交易都市マーケット・ゼロ。

 人も、獣も、物も、噂も、買えないものも売れないものもないと謳われる街。


 列が進み、リフも一歩、前へ出た。

 等間隔に置かれた国境審問所には、入国のための照合を待つ獣族の長い列が出来ている。 

 その流れに混じりながら、リフはふと足を止めた。

 振り返っても、そこに、探していた気配はない。


(まだ、到着してない……)


 横に並ぶはずの気配は、しばらく空いたまま。

 歩幅を合わせる相手がいないだけで、身体の置きどころが分からなくなりそうだった。

 進む列は止まらない。リフの番が巡る。

 壁面に刻まれた紋章が目に留まった。

 向かい合う二体の獣、麒麟属(きりんぞく)支配領。

 角と鱗が絡むその下で、赤鹿族の照合官は、「登録証を」と短く告げた。

 リフは何も言わず、懐に手を入れた。

 照合台の上に、ヴォルガから貰った金貨をそっと一枚置く。


 赤鹿族の照合官は、そこで初めて目線を上げた。長い指が伸び、無言のまま金貨を摘み上げる。角度を変え、光にかざし、指先で擦った。


 一瞬の沈黙。


 やがて金貨は押し返されることなく、視線だけで前を示した。


「通れ」


 通行ゲートが開く。

 その瞬間だった。


「ふざけるな!!」


 横の列が、跳ねるように崩れた。


「通せと言ってるだろうが!!」


 振り返ると、門前でひときわ目立つ女が暴れていた。腰まで流れる派手なピンクの髪。長い脚。外套の隙間から覗く白い肌が、妙に艶めいている。

 赤鹿族の照合官が二人、距離を取って構えた。


「登録証を出せ」


「そんなものはない」


 女は鼻で笑い、腕を組む。


「とっとと、通せ!」


 隣の照合所からの怒声は、収まらない。

 列が乱れ、照合官たちが女を取り囲んだまま動けずにいる。

 リフは通行ゲートを通過しかけ、踵を返した。

 照合台へ戻り、もう一枚、金貨を取り出す。台の上に置き、視線を伏せたまま、短く言った。


「これ、隣の人の分も」


「ふむ」


 照合官は金貨を素早く懐に入れ、隣の審問所を見やると、腰を上げた。

 騒ぎの外側に立つ赤鹿族の一人に近づき、低く言葉を落とす。

 ほどなく、隣のゲートも開いた。

 同時に、リフの列も再び流れ出す。


 背後で、ひそひそと声が重なった。

 列の後方。

 猿族が、照合台とリフの手元を交互に見ていた。


 リフは振り返らず、そのまま門をくぐった。


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