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01 TO BE NEXT

「【衝撃反射インパクトリフレクション】!! ロイッ、トドメですわ!」


 ダンジョン第一階層最奥。

 円形闘技場のようにぐるりと樹々に囲まれた戦場にハルカの鋭い声が響く。


 導かれるように彼女を攻撃対象としたモンスターがまんまと強固な大盾により弾き返されて体勢を崩される。


「はああああぁぁぁ!」


『————ウガアアアアアアアァァァ』


 鼓膜を激しく震わすような断末魔をあげて苔大鬼(モスコミューンオーク)の巨体が斃れ伏す。


 森林領域(エリア)である第一階層の階層番人(ボスモンスター)苔大鬼(モスコミューンオーク)


 下へと降りる階段を求めてやってくる冒険者にその資格があるかを第一の番人である彼は問う。迷宮内を徘徊する他の怪物(モンスター)と異なり、寡黙な番人として朝夕いつでもそこに鎮座していた。


 一般的な大鬼(オーク)よりも二回りほど大きい身体は3メートル。階段の前でジッと挑戦者を待ち続けているためか、身体中が苔むしている。硬い楢の木を武器として棍棒のように振り回す。


 盾で攻撃を受けたハルカの脚が地面に沈み込み、悲鳴をあげるほどの膂力(パワー)を持ち、厚い脂肪は硬い装甲と化す。そんな怪物がようやく地面に寝転んだ。


「ふーー。さすがの強さだったね……」


「やりましたわ! これで第一階層ともオサラバですわぁ」


「パパッ! コレッ!」


 地面にぶち撒けられたドロップアイテムの中から気に入ったものがあったのか、ムゥがそれを抱えて走ってくる。


「ムゥちゃん、なんですの? それは。あら、綺麗ですわぁ。あの醜悪なオークからドロップしたとはとても思えませんね」


「でしょお? とってもきれーなの」


「えっと、どれどれ?」


 迷宮教典(ダンジョン・レコード)に現在進行形で書き込まれていくアイテムの情報に目を通す。


―――――――――――――――――――――

【苔大鬼の翡翠玉】

取引価格:一〇〇〇〇〇エルン


《説明》

 大食漢である苔大鬼が食べた物が胃の中で結晶化したもの。その仕組み(メカニズム)は不明だが、苔大鬼の特殊な胃液が関係していると推測される。

 大きさと球体の美しさによって価値が変わる。

―――――――――――――――――――――


 おお……! さすが一階のボスモンスター。ドロップする素材(アイテム)の質も他のモンスターとは比べ物にならない。ボスモンスターを楽に倒せるようになれば本当にお金持ちになるのも夢じゃなさそうだ。


「どうしよう。このまま二階層に降りる?」


 ボス戦を経ても体力にはまだ少し余裕があった。回復系のアイテムも十分な量のストックがある。ただ慎重を期すなら引き返すのもひとつの手だ。疲労は蓄積しているし、いざという時の判断を鈍らせる。


「ここまで来て引き下がれませんわ! 時間が経てばまたあのオークが復活してしまうんですのよ。この時を逃す手はありませんわぁ」


 強敵との激しい戦闘の後でハイになっているハルカは行く気満々だ。果たしてうちの怪物娘はどうかな?


「きょーはまだあんまつかれてないから、いってもいいよう? だめだったときは、かえりみちパパにおんぶしてもらうの」


 2体の強化種モンスターを産み出した怪物氾濫(モンスターハウス)事件から2週間。すっかり傷も癒え、再び装備を揃えて今日に臨んでいた。


「これを降りれば2階だよ。またいっそう攻略難易度は上がると思う。油断しないで行こう」


 話し声がして大広間(ホール)に冒険者の一団が入ってくる。


「げっ! 先客がいたのか。ボスオークも……討伐済みってわけか」


「タッチの差だったみたいだねー」


「ギルドに討伐情報がなかったから、せっかく急いで来たのによー」


「にゃはは。こればっかりは仕方ないよ。冒険者はいっぱいいるのにボスモンスターは一体しかいないんだもん。争奪戦だねー。お? およよ?」


 猫人の女の子が近づいてきてジロジロと大きな目をさらに大きくして観察してくる。ううっ……。なんなんだろう? とても居心地が悪い。


「やっぱりキミが噂の子連れ探索者くんでしょ!」


「こいつがあの怪物氾濫(モンスターハウス)のモンスターを血の海に沈めて、強化種を2体同時に撃破したって言う? 顔に傷のある、筋骨隆々の大男だって言う話じゃなかったか?」


 いったい僕のイメージって……。噂話に尾鰭がついてとんでもないことになってるよ。


「だからそんなんじゃないって言ったでしょー。ホントに危ない人はフツーの見た目をしてるんだから」


 どなたか存じませんが、ちっともフォローになっていないです……。


「ハルカ、僕ってそんなイメージなのかな?」


「き、気にしないことですわ。ドンマイですの」


 新領域へと続く色濃い苔が繁茂した白石の階段が口を開けて僕らを下へと誘う。


「さあ、気を取り直して行きましょう。いざ、第二階層へ!」


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