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異世界美容室  作者: きゆたく
二年目、異世界隣国騒乱篇
51/136

孤児院の訪問、皆の意見


 パラレルでは、定期的にボランティアをしている。オーパイさんが入社した辺りに始まった。きっかけは、領主のハマナンさんがお願いしてきたからだ。場所は孤児院で、内容は髪をカットしてあげたり、水浴び場でシャンプーしてあげたり、セットしてあげたり、一緒に遊んだり、食事したり…そんなもんだ。ハマナンさんは仕事としてお金を払おうとしてたけど、断った。それで良いとスタッフが言ってくれたからね。で今日は…。



「いつもありがとうございます。今日はまた随分大勢で…」


「エライナさん、すいません大勢で。皆、こちら院長のエライナさん、でこちらが副院長で旦那さんのコッチモさん」


「「「「「よろしくお願いします!」」」」」



 とても優しい雰囲気の夫妻だ。まぁ夫婦で孤児院をするんだから、良い人なのは間違いない。そして今日は折角だからという事で、美容学生を連れてきた。マイさんの提案だ。それと話を聞き付けたディーテ様が、ジーク様と子供達を連れて来た。こっちには別の緊張も走っている。



「えっ!あっあれ?こちらの方達は…まっまさか…」


「すいません…気付いた通り、王族の皆さんです…」


「すっすいません!こんなみすぼらしい所へ…」


「気にしないでくれ、今日はただのジークとして来ている。緊張させてすまんが、子供達にも伝えないでくれ。お前達もわかっているとは思うが、王族として振る舞うなよ」



 気にするなってのは無理かもね。一応、社会見学だそうだ。でも国のトップが来るのは大事だと思う。貴族籍を外されているとはいえ、学生達もね。ディーテ様もきっと子供達に何か伝えたいのだろう。



「じゃあ早速、僕とマイさんとナナセさんで子供達の髪を切ってくから、終わった子供からオーパイさんと学生達で、髪の毛をあそこの水浴び場で洗ってあげて。空いている人は、暇な子供と遊んであげてね。後、風邪引くと悪いから、良くタオルドライして魔道具のドライヤーで乾かしてね」


「「「「「はい!」」」」」



 そこから僕達は青空美容室だ。外に椅子を出し、そこで約三十人を手分けしてカットしていく。子供達も楽しそうだ。



「キクチ兄ちゃんいつもありがとう!」


「ナナセ姉ちゃん、可愛くしてね!」


「マイ様、大きくなったら僕と結婚して下さい!」



 変なところで、マイさん信者もいる。終わった子供達も楽しそうに水浴びしている。小さい子はスッポンポンだし、少し大きな子は頭だけ浴びている。学生達も照れながら、頭をシャンプーしてあげている。普段とは勝手が違うけど、それでも苦労しながら楽しそうにしている。きっと貴族時代にはあり得ないだろうな。



「キクチ兄ちゃん!あとで鬼ごっこしてね!」


「ああもちろん!」


「ナナセ姉ちゃん…私も一緒にお絵描きしたい…」


「いいよ!たくさん描こうね!」


「マイ様、僕と後で踊って頂けますか?」


「ふふっ、上手にエスコートしてね」



 また変な奴もいるが、庭で楽しそうに遊ぶ子供も多い。そして子供をカットし終われば、エライナさんとコッチモさんもカットする。その間も子供達は遊び、王様夫妻も一緒に走り回っている。普段同年代の子供と遊ぶ機会の少ない、ルード様とマリー様も楽しそうだ。キレイな洋服も汚れちゃってるよ。エライナさんとコッチモさんも、カットされながら嬉しそうに見ている。



※※※



 遊び終わったら、次はバーベキューだ。ディンドンさんに作ってもらった、鉄板や網やトングを使って肉や野菜を焼いていく。日本の焼き肉のタレも持参だ。もちろん焼きそば等も、控えている。



「「「「「にーく!にーく!にーく!」」」」」


「はしゃぎ過ぎですよ!」



 いつもの様に肉コールだ。元貴族や王族の面々も珍しいらしく、一緒に肉コールをしている。少し恥ずかしいよ。エライナさんとコッチモさんも少し呆れている。きっと王族にも慣れてきたのだろう。こういう人達だからね…。



「これは、美味い!」


「おいしー!」


「焼きそばは国宝にする!」


「キクチ兄ちゃんありがとー!」


「マイ様、お肉が焼き上がりました、こちらをどうぞ」



 皆、喜んでるみたいで良かった。また変な奴はいるけどね。その後もまた遊び、時間は過ぎていく。因みに焼きそばは食べ物なので、国宝にはならなかった。



※※※



「皆さん、今日はありがとうございました」


「沢山の人達と、一杯遊べてとても喜んでました」


「いえいえ、僕達も楽しんでますから。ねっジーク様」


「ああその通りだ」


「「ありがとうございます!」」



 そして子供達も名残惜しそうにしている。マリー様やルード様も帰りたくなさそう。



「マリーちゃん、また遊びに来てくれる?」


「ルードくんも…」


「お母様、遊びに来ても良いですよね!?」


「勿論よ!」


「父上、僕も遊びに来たいです!」


「ああ、勿論だ」



 そんな中、少し年長組の子供達がやって来る。



「王様、王妃様、今日はありがとうございました。まさか一緒に過ごす事が出来るとは思っていませんでした」


「気付いていたのか…」


「僕の父は、騎士団で…戦争で死にました。前の戦争の時の国葬で、お見掛けした事があったので…」


「私もです…」


「…そうか…それは…すまなかった…」


「そっそんな、謝らないで下さい!そんなつもりでは…」


「私の父も…王様の事を尊敬してましたし、騎士団である事も誇りにしてましたから…」


「そうか…ありがとう…また来るよ…」



 ここには、色んな子供がいる。ちゃんとわかっている子もね…。



「バイバーイ!」


「まーたねー!」


「また遊ぼうね!」


「マイ様!例え死すとも心は!」



 そして僕達は帰った。泣いている子供もいたし、僕達側にも泣いている人はいた。マリー様とかね。あの怪しい奴も泣いていたけど。



※※※



 僕達も遊んだりして汚れたし、折角という事で美容学校の大浴場に皆で入った。王族もね…。あの人達の気軽な行動には、参ったよ。皆、流石に恐縮しちゃったよね。でも楽しく入れた。女子風呂もマリー様がはしゃいだり、ディーテ様がふざけて色々したりして大変だったみたいだ。王族には、かなり珍しい体験だろうし楽しい事なのだろう。そして風呂上がりに、皆で話す事に…。マリー様は寝ちゃったけど。



「色々と勉強になった様だな」


「はい、ジーク様。もし貴族のままでしたら…とても今日の様な体験は…中々出来なかったと思います…」


「孤児はまだあの様な…生活をしているのですね…」



 孤児は決して良い生活をしてはいない。子供達は約三十人いたが、内職の様な事を年長組がしているだけで、収入源は領からの援助と寄付が殆どだ。勿論僕達も寄付はさせてもらっている。でもそれだけでは、服も多くは買えないし、髪をカットしに来る事も出来ない。今流行っているオシャレという文化に、触れる事は出来ない。そこまで汚くはないが、やはり少しみすぼらしい孤児である事には変わらない。



「俺達ですらこうやって、皆で風呂に入れるのに…」


「私達は国の援助をこんなに受けているのにね…」


「…それは仕方無い事よ…それが国を発展させる事なの。優先順位はどうしても下がってしまうわ…」


「ディーテ様、どうにかならないのでしょうか?」


「…ルード、あなたはどう思った?」


「母上…僕は、多分まだ国では動き難いとは思います…平和になっているとはいえ、国防や外交等で余裕はそんなにないと…でも!各国、各領地の民が協力出来れば…!」


「そうだな…その通りだ。だが各国、各領地にも問題がある。領主も良い奴ばかりでもないしな…キクチはどう考える?」



 確かに、難しい問題ではある。でも解決出来ない訳ではないはずだ。



「そうですね…領主も自由にお金を使える訳ではありません…でもハマナンさんは、ポケットマネーで、孤児院にお菓子や食べ物を差し入れしたり、よく遊びに行ったりします」


「あいつらしいな…」


「流石、お兄様です」


「…で、僕達に協力をお願いしてきたんです。でも僕達に出来る事は、そんなに多くはありません。今日の事ぐらいでしょう。寄付もそんなに沢山出来ませんし…」


「それはそうだな」


「でも、そんな事の積み重ねで変わります。つい最近も、母親と子供の為に講習会をしたら、あっという間に教会を巻き込んで一大ビジネスになっちゃいました」


「私もビックリしたわ、いつの間にか商会が出来てて、王都でも大きな商会が愕然としてたわ」



 皆も頷く。わかってきたみたいだ。



「それが孤児院ならって事ですか?キクチさん」


「そういう事。孤児院は子供しかいない。エライナさんとコッチモさんは、手が空かない。けど手の空いている子供は沢山いる。でも子供にはまだそんなビジネスを考える力は無い。だったら?」


「私達が考えるという事ですか?」


「ミナラーさん半分正解。孤児達にも考えさせる。自分達に何が出来て、何が出来ないか。色んな子がいるしね。ミナラーさんも似たような立場だったから、考えやすくないですか?」


「確かに…私はエルフで魔力が高かったから、前王に拾って貰えた…」


「そういう事です。そんな感じで考えて、新しい商売を孤児院で出来ないかな?まあ一概には言えないし、他の孤児院の状況も知らないけどさ。何よりも各国が平和で、戦争が無ければお金も回ってきて最高だけどね。皆はどう思う?」


「面白いな、キクチ」


「店長、私も良いと思います!」


「キクチくんや私が、何で連れていったかわかったでしょ?」



 そこからまた皆で、意見を出し合う。元貴族達の意見は、ここで生活をしているからこそ深みもある。国民の立場で考える事が出来る。そして貴族の立場でも考える事が出来る。この経験はまだここでしか出来ないし、この学生達にしか出来ない。ルード様も勉強になるだろう。ジーク様やディーテ様も皆の意見に感心しているしね。そしてそんな議論は遅くまで続いた。



「流石店長!良い事、言いますね!」


「冷やかさないでよ…少しでも協力しなくちゃいかけないしね」


「そうですね!」



 この世界が良くなればこそだし。身分と貧富の差はオシャレに関係無いって事だ。



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