表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

胎動

「シズカさん指名入りましたー」


「予約何時~?」


「21時だそうです」


「おっけー」


(はぁ~あたし何やってんだろ・・・)


幼稚園の先生になるのが夢だった

しかし元々裕福な家庭では無かった為大学や短大に進学するお金も無く仕方なくこの仕事を始めた

短期間で稼ぐには体を売るしかなかった


(今月分の給料で目標の金額まで行くはず!あと1週間我慢すればやっと辞めれる!)


(お母さんにお金の事はバレないように上手いことごまかして明日あたりからこれからの話しをしてみよっと)


「シズカさーん、そろそろっスよー」


「わかった、もう出るよー」


店からほど近くの駅前、そこから少し路地へ行ったところで待ち合わせとのことだ

ここの路地は薄暗く飲み屋の看板も明かりが点いておらずいつ歩いても気味が悪い

しかし客からすると人目のつかないところということでこの場所が喜ばれるという店の配慮であった

待ち合わせ場所に付きまだ誰も来ていないことを確認しスマホを取り出す


「今着きました」


「了解、じゃあ後はよろしくー」


ネットでも見ながら待つかとしばらく経つと前のほうから男がやってきた


「シズカさんですか?」


「そうです、どうもー今日はよろしくー」


見たところ20代前半くらいだろうか私服を着ているのでかなり若い客のようだ

おとなしそうな印象でお客のタイプとしては無理なことを言わなそうな安心できる感じだ


「じゃあ、すぐそこにホテルありますので・・・」


「あ、いや。今日はボクが探してきた良い所があるんでそこに行きたいんですが・・・ダメですか?」


「う、海の近くでとってもいいところなんです!もしあれだったら別料金払いますからお願いします!」


普段のシズカであったら即断るのだがもうすぐこの仕事とサヨナラできることと

男性のおとなしそうな風貌も重なり今日くらいはいいかなと考え始めた


「夜の海かー、なんか雰囲気良さそうだし・・・わかりました。車ですか?」


「はい!ありがとう」


「フフフ、そんな喜ばなくても」


車中で色々な話しをした

保育士の資格を取りたい事や女手一つで自分を育ててくれた母親の事

高校の頃の友人に今何してるのか聞かれると返答に困ってしまう事


「そうなんだ、女手一つでか。偉いなお母さん」


「お母さんの事はホントに尊敬してるの、感謝の言葉も見つからないくらい」


「お父さんの死に目には会えたの?」


「ん?確か~私まだ小さくて授業受けてる時だったかな。先生から倒れたって教えてもらってすぐ病院行ったけどその時にはもう・・・」


「残念だったねそれは」


何の変哲もない会話ではあったがシズカは妙な違和感を感じた


「なんか話しやすいってよく言われない?余計な事ペラペラ喋っちゃった」


「実はよく言われるんですよ話やすいタイプって、なんでかは自分じゃわからないけど」


「いい人って事じゃない?」


和やかなムードで会話が進んでいたが目的の場所に着いたのか車が止まる


「ここ?なんか埠頭っていのこれ?目の前めっちゃ海なんですけど?」


と言いながら思わずシズカは笑った


「あぁ、ホテルはこのすぐ近くです」


「実は最近彼女と別れてしまって・・・その時よく来た場所なんです」


「え!?そうなの・・・」


「なかなか忘れられなくて・・・でも一人じゃ行く勇気が無かったんです」


「なるほどねー、それで私を連れてきたと」


「すいません、なんかつき合わせちゃって」


「私も色々話聞いてもらったし、いいよ気にしなくて」


「ホテルとか別に今日は行かなくてもいいんでただ一緒にいてもらえます?」


真っ暗な海を車の中から二人で眺める


「そうだ、キミの話し聞いてあげるよ!これも仕事のうちだし!」


「本当ですか!?いきなり言われるとなんだろ・・・あ、3ヶ月前に仕事辞めたんですよボク」


「ええー、なんでなんで?それが原因で彼女さんとは別れちゃったとか?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


うかつであった

余計な一言であった、言わなくてもいい事を言ってしまった

シズカは時折余計な一言を言ってしまう癖がある

しかしいつも言い放った後にその事の重大さに気づく自分に嫌気がさす

しばしの沈黙の後意を決して喋りだす


「じゃー最近は就活とかで忙しい感じかな?」


「いえ、やりたい事が見つかったんです。それがなんなのかは内緒です」


「えー、逆に気になるんですけどー」


「気になりますか?」


シズカが返事を返そうとした瞬間突然ガバッと男が助手席に座る自分の上に覆いかぶさってきた

シートを一気に倒され馬乗りのような状態に戸惑いながら


「ちょ、な、なんなの?まさかここでするの?」


そう言いながらも何かあったら大変な事になると嫌な予感が頭をよぎる

周りの状況を確かめ誰かいないか探した

しかし残念ながら人影はおろか車も滅多に通らない場所だった


「ちょっと!どいてよ!!いい加減にしないと叫ぶよ!」


バシッ!


鈍い音が車内に響く

男の力で思い切り殴られ一瞬で頭が真っ白になり

痛みと恐怖で声など出せる余裕などなくなった


「誰も来るわけねーだろこんなとこに」


ハッ・・・ハッ・・・ハァー


上手く呼吸ができない

どうしたらいいのか考えることすらできない

ただ目の前にある男の顔から目を離せないでいた


両手が首元へ迫ってくる


グゴゥ・・・ウェ・・・オゴゴ・・・


首を両手で締め上げられ親指でのど仏の辺りを強く押し込まれている


(ぐ・・・ぐるじ・・い・・・誰か・・・)


次第にシズカの顔が真っ赤に染まり額の辺りには血管が浮き出してきた

興奮した男がシズカの襟に噛み付き引きちぎる

その時シズカはサイドミラーに離れた所ではあるが薄っすらと人影のようなものが見えた気がした

しかしこんな所に人なんかが来るわけも無いであろうし

仮にそれが人だとしても助け呼ぶどころでは無かった


(ホントに・・・し・・・死ぬゥ・・・)


「オレの目を見ろ!オレだけがお前の全てを理解できる!」


自分を殺す男がどんな顔なのか絶対忘れないそんな気持ちだったのかはわからないが

瞳孔が開ききり明らかに異常とも言える表情の男の目を見続けた




(お母さん・・・ゴメンね・・・)




シズカの目には真っ白なまぶしい光が刺し込み、そして何も見えなくなった



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ