異形
もうすでに頭の中は限界に達していた
すでにここまでありえない事の繰り返しのようなできごとを経験していたにも関わらず
今、さらに混乱させる状況を目の当たりにし上手く呼吸すらできなくなっていた
男は彼女のそばにしゃがみ込み息があるかを確かめている
そしてこう静かに呟いた
「オレの目を見るんだ、見ろ!」
聞き間違えたのかと思うほど全く意味がわからない言葉を投げかけている
「ダメだ・・・これじゃあ見れない。もっと密着させないと・・・」
そう言うとそっとヘルメットに手をかけゆっくりと外していく
(!? こいつは・・・川島!?)
川島の顔には小さく千切られた布のような物が2~3枚貼り付けてあった
(なんなんだこいつは!?)
川島は彼女の腹部に手を突っ込むと血で汚れた手を自分の顔に塗りたくった
「はぁぁぁぁ、これで張り付くうううう」
そして彼女のツナギの下に来ているTシャツを引きちぎり手のひらのサイズに整える
それをペタリと顔に何枚も貼り付け
「伝わってきたぞおおお!これでよく見えるはずだああ!」
恍惚とした表情でわけのわからない言葉を発するこの男に俺は目が離せないでいた
「でももっとちゃんと貼り付けておかないとな・・・」
こう言うとポケットからホチキスを取り出し
パチン・・・パチン・・・パチン・・・パチン・・・パチン・・・パチン・・・
パチン・・・パチン・・・パチン・・・パチン・・・パチン・・・パチン・・・
という音と共に顔の皮と布が一体化させていく
もはやパッチーワークのように布が貼り付けられたその顔は目だけを残し顔が隠されていった
恐ろしすぎるその光景に俺は夢なら覚めてくれ
いつもの日常に俺を戻してくださいと神に祈るばかりであった
「さぁ見せてくれ。お前の作品を!!」
そう言いながらゆっくりと彼女の首を絞めていく
彼女の目が見開き、彼の目をじっと見ながら一言消え入りそうな声で呟く
「な、なんで・・・」
そんな彼女の問いに答える筈もなく
「見える、見える、見える」
彼女の体がガクッと力が抜け全てがだらんとゴムの塊のようになった
今度こそ本当に彼女は息絶えてしまったのだとわかった
川島は笑みを浮かべつつも震えた声で
「どんな小説や映画よりも素晴らしい!」
そう聞こえた、いや間違いなくそう言っていたはずだ
とにかく早くどこかへ消えてくれ
いなくなったら携帯で警察にすぐ連絡しよう
捕まってもかまわない!やっと俺の決心がついた
それなのになんでなんで・・・
「そこに隠れているんだろ?お前の場所はわかってるぞ・・・今見たからな!」
そう言うと俺が隠れているクローゼットに手をかけ乱暴に開いた
「狂ってる・・・ひ、人殺しめ!」
恐ろしさで声を出せるとは自分でも思えなかったが言わずにはいられなかった言葉
「オレにとって今日が生まれて初めての殺しだ、それにしては上出来だろ?・・・ハハッ」
引きずり出された俺はとうの昔に戦意は喪失し成すがままに殴られそのまま意識を失った
「いくらなんでも遅すぎる・・・」
かなりの時間が経ったはずだが島田さんが戻ってくる気配はない
こんな状態だから時間の経過が体感的にゆっくり感じてるかもしれないと最初は思っていたが
それでも遅すぎる
何かあったんだろうか?遠くで獣の声のような音も聞こえた
いてもたってもいられず手をつき立ち上がろうとすると手のひらに硬い感触を感じる
手に取りそれがなんなのか確かめると一冊の手帳のようだった
思ったほど汚れておらず最近ここに置かれたようだ
パラパラとめくってみるとB級ゴシップ記事のような下世話な内容が書き連ねられている
その中の一ページに目が止まる
とある事故の関係者を取材していた事
その関係者になんとも怪しい仕事が舞い込んだ事
そして記者である自分の勘を信じその人間の変わりに自分がその仕事に参加する事
そんなような内容がつらつらと書いてある
(もしかしてこの仕事の事じゃないのか?その予想が当たっているとしたら島田さんが危険だ!)
ヨロヨロと木に手をつき立ち上がるその時だった
「あなた、大丈夫?怪我してるの?」
そう言いながら近づいてくる女性がいた。もちろん島田さんではなかった
良かった!人が来てくれた!みんな助かるかもしれない
「ええ、なんとか平気です。なにが起こったのかわからないんですが他にも怪我をしてる人がいると思うんです!」
助けを呼んでもらおうと必死で説明するが頭が整理できておらず上手く口も回らなかった
「ゆっくり、焦らないでゆっくり説明して。お姉さんがちゃんと聞いてあげるから」
そういうと自分のシャツを引きちぎりボクの怪我の患部に簡単な処置を施してくれた
「これでひとまず安心ね、それで何があったの?」
ボクは深呼吸をし今日一日の出来事を一つ一つ整理しながら説明をした
「早く警察を呼んでください、何か・・・事故でもあったら大変です」
女性はとても驚いた表情で
「そうね、ちょっとそこで待ってて電話してくるわ」
そう言うと電波の届く所へ移動し電話をしてからすぐに戻ってきてくれたようだ
ひとまずはこれで安心だ
「立てる?肩を貸すわね」
そうしてようやく立ち上がる事ができた
男のくせに我ながら情けない
「行方がわからなくなってしまった人達がいるのよね?一刻を争うかもしれないわ一緒に探しましょう」
その意見にはボクも同意見だった
「はい、一緒に行きましょう」
ここでまた彼女を一人で行かせては同じ轍を踏んでしまう
痛みを堪えながら一緒に行くことにした
「あなたはなんでこんな所に来たんですか?」
まずこの疑問を払拭しなければならない、たまたま通りかかった人でもいい
安心できる答えが欲しかった
「私は・・・ある人をつけて来たの」
!?
そういうと静かに語りかけてくれた
「健一君、あぁゴメンねわからないわよね。川島健一って人知ってる?」
「えぇ、今日ここでバイトする時に川島さんという方と一緒になりました」
「そう、健一君の様子が最近少しおかしかったの・・・昨日は特におかしくて・・」
(そういえば川島さん姿を全く見ていない、確か地図によるとここからかなり離れている。気づかずにいるのだろうか?)
「私とても心配だったの、とても不安定な状態に見えたわ・・・だから自殺でもしちゃうんじゃないかと思ってこっそりつけて来たの」
「ええ!?そんな風には見えませんでしたけど・・・そうだったんですか」
「そうなの・・・しばらく離れた所で車を停めて見ていたんだけど彼の携帯に電話しても出ないから心配になって・・・」
「そうだったんですか、川島さんとはお付き合いされているんですか?」
ボクがそう問いかけると彼女はあわてた様子で手を横に振る
「んっ!いえいえ!そんな全然まだそんな関係じゃないの、まだ付き合う前」
彼女は頬を赤らめながら恥ずかしそうに否定した
この状況にには相応しくない会話であるがボクには少しでも情報が欲しかった
少しでも今この現状を把握するために
「とにかく今こんな事話してる場合じゃないわね、早く探しに行きましょう」
「そうですね」
確かにそうだ、早く二人を見つけなければならない
やがて近くに廃墟が見えてくる
その近くにある小さな焼却炉に違和感を感じた
煙突からわずかに煙が出ている
そしてなにかが焼却炉の小さな扉から飛び出しているのが見える
なによりこの臭いだ
子供のころイタズラで両親がいない時にボクは火遊びに夢中になっていた
夢中になっていたといっても灰皿の上で紙をライターで燃やしはしゃぐ程度
ある時、自分の切った爪を燃やして見た事があった
強烈な異臭、独特すぎる臭いに不快感を感じそれ以来ボクはイタズラを止めた
そう、あの時の臭いと全く同じ感覚が蘇った
「すみません、あそこ!あそこに行かせてください!」
彼女にそう頼み肩を借りながら焼却炉近寄っていく
「キャアアア!」
彼女が叫んだ
ボクは言葉が出なかった
半開きになった焼却炉からは足がわずか飛び出していた
恐る恐る扉を開き中を確かめるとそこには頭から体を無造作に突っ込まれている相沢さんを見つけたのであった




