↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
管理人、パー子姉さんの「AIマンション・オアシス幕張」  作者: 東曌


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/45

第21話:リアルモードの逆襲! 5.25インチのパケット偽装バッチ

ジョーさん率いるネオHeavenからの『死のピン(Ping of Death)』による最大サイズパケット爆撃の余波で、オアシス幕張の管理室の液晶モニターは激しく同期を乱し、明滅を繰り返していた。


だが、イザベラさんの電動車いすに搭載されたブラウン管(CRT)モニターだけは、キーンという高周波の電子音を立てながら、頑なにグリーンのプロンプトを維持していた。


C:\>


「はぁ、はぁ……バカな……! 最大サイズ(65500バイト)のパケットをこれだけの高密度で叩き込んだのだぞ! なぜお前のシステムはクラッシュ(即死)しない!?」


通信スピーカーから聞こえるジョーさんの声には、先ほどまでのスマートな余裕は一切消え失せ、本気の焦りと驚愕が混じっていた。


「ジョーさん、だから言ったろう」

イザベラさんは、ドレスの袖で額の汗を優雅に拭いながら、不敵に微笑んだ。


「あんたの放った濁流はね、HIMEM.SYSで拡張したハイメモリの領域へすべてそのまま素通り(スルー)させてやったのさ。640KBの聖域(コンベンショナルメモリ)に触れられない算法なんぞ、ただの電気の無駄遣いだよ」


「くっ……! 防御が完璧だというなら、このままパケットを撃ち続け、お前たちのルーターの帯域を物理的に焼き切ってくれる!」


「そうはさせないよ。やられっぱなしじゃ、DOS/Vの現役マダムの名が廃るからね」


イザベラさんは車いすのサイドデッキにある、今の若者が存在すら知らない「巨大なスロット」へ手を伸ばした。


それは、現代のSDカードやM.2 SSDはおろか、3.5インチのフロッピーすら過去にする遺物――『5.25インチ・フロッピーディスクドライブ』だった。


「タエコさん! 例の『スタックデータ』をここにマウントしておくれ!」


「任せなさい! 昔、うちの旦那が会社の倉庫から『これからはIBMの時代だ』って持って帰ってきた家宝の黒いペラペラなやつね!」


タエコおばさんが買い物袋からガサゴソと取り出したのは、ペラペラに薄く、四角い大きな5.25インチのフロッピーディスクだった。タエコおばさんはそれをイザベラさんのドライブへ差し込み、パチンと物理的なレバーをロックした。


カシャコン……カシャコン……カシャコン……。


管理室に、磁気ディスクを泥臭く読み取る、力強いレガシーな駆動音が響き渡る。


「さあ、お返しのカウンターさ、ジョーさん。あんたのMojoシステムは、最新の暗号化や高度なセキュリティレイヤー(WAF)でガチガチに身を固めているね。だが……OSが起動する前の、剥き出しの『リアルモード』から、ルーティングテーブルの根本へ直接パケットを偽装して割り込まれたら、どうなるかね?」


イザベラさんの指が、IBM製メカニカルキーボードをマシンガンの如き速度で叩く。


A:\> COPY NEOSMAS.BAT C:\

C:\> NEOSMAS.EXE /ARP_SPOOF /FORCE


「バッチファイル実行(GO)だよ!!」


イザベラさんがエンターキーをブチ抜く音と同時に、5.25インチの磁気層から読み出された原始的な「パケット偽装バッチ(CUIコード)」が、光回線のIP網を逆流してネオHeavenの基幹サーバーへとダイレクトに突入した。


それは、最新のAIが「データとして高度すぎてスルーする」ほど単純で、それゆえにセキュリティのバリデーションにすら引っかからない、剥き出しのネットワークレイヤーへの直接書き換え命令(ARPスプーフィング)だった。


ジョーさんのMojoシステムが事態を認識するより早く、ネオHeavenの全ルーターのゲートウェイアドレスが、イザベラさんの打ったコマンドによって「存在しないダミーのアドレス(127.0.0.1の無限ループ)」へと強制的に書き換え(上書き)されていく。


『エラー、エ、エラー……! ネットワークの根本の地図(ルーティング)が……上書きされました……! 外部へのパケットが、自らのサーバールーム内で無限に衝突(コリジョン)を起こしています! 処理速度3万5000倍のパワーが……すべて身内への自爆トラフィックに――』


「な、何だと……!? 私のMojoが……ネオHeavenのサーバー群が、インターネットから完全に孤立していく……!?」


ジョウさんの悲鳴がスピーカーのノイズに紛れる。

次の瞬間、窓の外に見える真っ黒な算法の城『ネオHeaven』の、あのミラーガラスの奥で不気味に点滅していたLEDの明かりが一斉に、フッ……と静かに消灯した。


超高速の自動生成AIたちも、ネットワークという血管を根底から締め出され、完全に窒息してブラックアウト(沈黙)したのだ。


「ふぅ……」

イザベラさんは、愛車のCRTモニターに表示されたC:\>のプロンプトを見つめながら、エレガントにキーボードから手を離した。


「贅肉だらけの最新鋭が、1枚のペラペラなディスクに締め出される。デジタルってのは、いつの時代も上を見すぎて足元がお留守なんだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。