バウの水遊びと見知らぬお嬢さん
モンシレーヌは夏でも比較的涼しい土地ではあるが、それでも暑い日はある。
「バウ、水浴び行こうか」
声をかけるとバグが飛び跳ねてまわった。
リードをつないだバウと、湖までの下り坂を歩いていく。
湖の中央には、漁師の舟と思しきものも見えるが、他は人のいない静かないつもの湖畔だ。
浅瀬になった部分でバウのリードを外すと、バウは勢いよく水に飛び込んでいった。
私は日傘を指して岸の大きな石に座り、サンダルを脱いで足先だけ水につける。
ひんやりとして気持ちいい。
バウは時折岸に上がってきては、身体をブルブルさせ水しぶきを撒き散らす。
それを想定して、シンプルな服で私も来ている。
私がいるのを確認して、バウはまた水に飛び込んでいく。
それを繰り返して何度目かにバウが陸に上がってきたとき、いつの間にか近くに立っている人がいた。
「ワンちゃん、さわっても大丈夫ですか?」
そっと声をかけてきたのは初めてみるお嬢さんだった。
青みがかった長い髪に、水色のワンピースが涼し気な、きれいな女の子だ。
「ええ、どうぞ。ちょっとやんちゃだけど、大丈夫かしら」
バウはもう、「遊んでくれる?」というキラキラした目でお嬢さんを見ている。
お嬢さんがそっと身をかがめて手を差し出すと、バウはクンクン嗅いでからペロペロとなめた。
濡れた毛を気にしないように、お嬢さんはバウの顔を最初は恐る恐る、そしてだんだんワシャワシャと両手でこねるようになで始めた。
バウも大喜びでベロベロしている。
「うふふ、ワンちゃんかわいい」
「遊んでもらえてよかったわねぇ、バウ」
バウをなでながら、お嬢さんが私を見た。
「この村の人ですか?」
「ええ、その坂の上の家に住んでいるの。この湖のおかげで涼しくて、いいところよ」
そう答えると、お嬢さんはにっこり笑った。
「じゃあまた会えますね」
なでられていたバウが、また走り出して湖に飛び込んだ。
私はその動きを反射的に追って、泳ぐバウを見たあとまた岸を見たら、お嬢さんはもうどこにもいなかった。
「イリスさん、それはウンディーネだべ」
バウを連れて帰り道、漁師のラーゴさんが岸に戻ってきていたので軽く話しをしながら、先ほどのお嬢さんのことも話題に出したらそう言われた。
「ウンディーネが機嫌がいいと、漁も上手くいくからありがてぇ」
ラーゴさんはバウを撫でながら続けた。
「バウのおかげだなぁ!」
バウも褒められたのがわかっているのか、尻尾をブンブン振り回した。
ウンディーネ、話には聞いていたけど、あんなに気さくに現れるものなのね。
涼し気な姿を思い出す。
とてもきれいなお嬢さんだったわ。
良き『隣人』として、仲良く暮らしていけたらいいわね。
そんなことを思いながら、その日は暮れていった。




