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ソラミミ  作者: k_i
第2章
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2-4.パレード潰し(3回目)

 三度目のパレード潰しに来ていた。

 何度来ても、いやな感覚。

 目の前でもう、一人死んでいる。今度は、両手両足がさよならしていった。この子の口からはまだ、あああ……と声が漏れているが、それもピエロが出しているんだ。さき、助けようと駆け寄ったら、ひょこんと顔を出して引っ込めた。たちの悪い、冗談みたいな死。

 

 こんなに人が、死んでしまうものなのか……だけどなぜか違和感を感じない。もちろん、最初に四副(しぞえ)さんが死んだときにも、今だって、恐怖はずっとある。だけど、わかってきたのは、わたしたちはもう今、そういうところに、そういう世界にいるのだ、という思い。

 何故だろう。わたしは確かに昼寝魔で、それにずっとぼうっとしている子で夢見がちな子で、今までそういう認識に欠けていたのかもしれない。前にあった、安心に包まれた世界とはもう、違う。学園は、それを仮初めに隠しているに過ぎないんだ。

 前の戦いからもすぐに姉妹の死という事実に慣れてしまった。この今目の前で無残に死を曝しているこの子の死にも……だけど、恐ろしい死。この戦いの死は、死んだという実感に乏しいというのだろうか。文字通り死んだというよりも、絵のなかだとか紙のなかだとかどこか別の戻って来れない場所に閉じ込められてしまったというような。それがわたしたちの死なんだ。

 

「ソラミミ!」

 霧のなかから、駆けて来る。

(こおり)さん」

 今回の戦いには、郡さんもまた加わっている。

「ソラミミ、ピエロを三体、斬った!」

「三体……」

「……。あの……自分でやってみ。どんだけ、大変なことか。あれを一〇〇、二〇〇、と当たり前のように斬ってる草里は、ある意味人間じゃないよ」

「そっ、そうだよねごめん……その、おめでとう。お疲れさま」

「ああ」

 と言い、郡さんは死体になった友達に、すっと黙祷しすぐにピエロ斬りを構える。

 

 郡さんの他に、この今目の前に死んでいる子……それに、郡さんと一緒にいた二人。一人は、郡さんに続いて戻ってきた。

「はあ、はあ。わたしも、一体斬りました」

草鳥(くさとり)さん、無事でよかった。付見(ふしみ)さんは?」

「うっ。ふ、付見さんは、うう、さっき、戻ってくるときに、す……すぽーん、て……」

「す……?」

 すぽーん、て……。郡さんは黙っている。草鳥さんもそれ以上何も言わない。わたしも、聞きたくなかった。

 あとは、草里(そうり)。草里はまた、戦いの最初からほとんど姿が見えない。だけど、ピエロはどんどん降り積もっている。順調なようだ。

 

 今回は、なので元々の人数は六人で来た。

 相手になっているパレードは、今回は随分小さい。あまり大人数で来ると、パレードは現れないこともあるのだ。五、六人になると大きなパレードには出遭わない。このくらいの人数、これくらいの相手、というのがちょうどよかったかもしれない。けど、連れてこれば来るだけ、死人も確実に出るというのもいやな話だった。

 小象は、わたしの後ろにじっと、いる。今回は、模型にもなっていない。ただじっと堪えるようにしてわたしを見ている。見守ってくれている、ように思う。わたしは象を抱きしめる。

「この辺りを離れないように」

 郡さんが周囲に気を配る。

「もうピエロはほとんどいないわ。三人で背中合わせにしているのよ。草鳥、いる?」

 白い霧が、深い。

「は、はい。大丈夫ですっ」

「ああ。草里……早く」

 まだ、来ないのか。遅い。もう、舞ってくる紙の死骸になったピエロも、ないのに。どこかでまだ戦っているのだろうか。

 一分。二分。三分。時間だけが経過する。

 ピエロの死骸は、一枚、二枚、三枚とどこからともなく来る風に流され、霧のなかに消えていく。

 はあ。はあ。息だけが聞こえる。

 つめたいのに、汗がはらりと伝う。

 はあ。はあ。わたしの息。郡さんの息。……。

「く、草鳥さん?」

 す

「おい。草鳥」

 すぽーん

「……ああ」

 まただ。いやだ。いやだ、もう。わたしは小象にぎゅっと掴まる。いやだ。

「来た!」

 郡さんが指差す方から、影が来る。うう……本当に、本当に草里なの。草里だ。

「遅いよ! いつもいつも……何故。周りを見てよ。もうわたしたちだけしかいないよ!」

「ソラミミ。小象を」

 うっうう。いやだよ。いやもういいよ。わたしは小象からするりと手を離す。

 ぱぽー。

 小象はわたしたちから一歩前へ踏み出す。

 前方からは…… ……何も来ない。

 白い霧がぐるんぐるんと流れているだけだ。

「……勝ったの?」

 郡さんが前を向いたまま独りごとのように発する。

 わたしもじっと前方を見つめる。ずしん、というあの足音は響いてこない。

「草里、鍵は?」

「ある」

 ちゃりん。草里はすでに鍵を。

「戻ろう。戻ろうよ、もう、いいでしょう?」

 草里は何も言わない。

 また時間が過ぎる。

 何も現れない。

「ち」

 草里が小さく舌打つ。逃げた、か。と言葉を吐き出す。鍵を、廻した。

 

 

 少しずつ霧が薄れていくなかを、わたしたちはとぼとぼ歩いていく。

 もうここは、もとの峠だ。しっかり土を踏みしめているのはわかる。

 草里の思いは、一体どこにつながっているの。

 すぐ前を歩いている草里との距離が、わたしには掴めない。

 小象は、そんなわたしの後ろをただしっかりとついてきてくれている。

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