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ソラミミ  作者: k_i
第2章
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2-3.わたしは夢の空で象を産む

 わたしは、宝石探しに来ている。

 随分、久しぶりに来た感じ。

 ここ最近は、パレード潰しの印象しかない。いいや、今はそのことは考えないでいよう。

 

 わたしだけの、わたしの夢の空。

 ここは空がとても深い。

 空と大地の境界が曖昧だけどここはずっと、ずっと深い空が広がっているみたいで、わたしはそこを気持ちよく泳ぐように飛ぶ、飛ぶように泳ぐ。ここは空で、ここは大きな水のなかで。今は、わたしひとりなんだってことがとても、心軽やかにさせる。

 

 それからしばらく、目を閉じて流れていた。

 

 どこかに、辿り着いたな。目を開くと、幾許か空気が澱み、ほんの少しだけど空の色も暗く濁ったように変わっている。

 この空は……空の領主の空域か。

 この辺には、幾つも空の領主の城がある。

 でもそういえば、やけに何も飛来してもこないな。領主が城から出てくることはないが、それぞれの領地を示すために遣いとか鳥とか色んなものを飛ばしてきたはずだけど。

 わたしから空の領主に会いに行ってみる?

 時が経って、この辺の情勢も変わったのだろうか。

 

 あのときはまだ子どもだったし、何かにつけてこの空を飛ぶわたしが目障りだったのかも。虫のようにでも見えていたのかもしれない。

 それに比べて今のわたしはもう、少しだけ……大人だ。

 わたしは、今自分が学園にいるときよりももう少し大人じみた身体をしているという思いに駆られ、自身の身体をまじまじと見る。着ているのは学生服じゃなく、パジャマでもなく、薄い白いローブのようなもの。少し、透けて見える。少し恥ずかしくなる。

 ……いいさ。そんなこと、気にしている場合じゃない。

 

 行こう。

 辺りをさーっと見渡すと、高いところに雲が一つ、そこから砦の形が覗けている。あれだな。何となく見覚えもある。

 ひとっ飛びに、大きな雲の上に佇む城門のところまで来る。

 門の前で、古びた雲が千切れて漂っている。扉は破けて、開けっ放している。

 城のなかは暗い。

 まるで、これじゃ廃虚。もう誰も住んでいないのかもしれない。そうなんだよな。わたしのところにもう空の領主の使者は長年、遣わされていない。最後に来たのが、もう二年いや三年は前だろうか。

 風が吹いてくる。この城の辺りまで来ると、とても風が強いんだな。ここはとても高い空。

 あの城の尖塔の頂なんて、旗がびゅうびゅうと風に靡いている。

 あそこまで行ってみようか。でも、飛んで行くには風が気になる。途中で風に飛ばされて今日の探索はそこまでで終わってしまうかもしれない。この薄暗い城のなかを通ってあの尖塔まで出ることを思うと、それも気乗りがしない。

 宝石があるとも思えない。

 ふう。何となくため息、門の脇の古い柱に背をもたれさせる。

 

 ……どんどこどんどこ。

 

 ん? 何か、聴こえてくるな。

 

 どんどこどんどこ。

 

 風以外の音だって珍しいんだ。

 

 どんどこどんどこ。どんどこどんどこ。

 

 これは……えっ。まさか。パレード。こんなところにパレードが来たことなんてなかった。

 雲の隙間から下の空を見てみる。遥か下の下。薄っすらと見える大地の影。そこに、なんだかおかしな奇形じみたパレード。

 その映像が、みるまに近づく。

 

 踊っているのはピエロじゃない。見たこともない、頭の禿げたきっかいなどうぶつたちがぴょこぴょこ飛び跳ねていて、見ればどれも手足の数がおかしい。三本しかなかったり、五本あったり、手足そのものがなくて体ごと跳ねていたり、頭がなかったり。

 ああ、こんなもの、見てて気持ちのいいものではない。それどころか一体何だって言うのだろう。

 あんなのはわたしの飛ぶこの空にはいてほしくない。

 あれもパレードだって言うのなら、あんなのといつか戦うのかしら。

 そう言えばあのパレードに、象はいないみたいだな。今日は何も見つからない。

 

 そう思ったとき、いつの間にか手に何か握っている。容易に開きそうもない。いつの間に手に入れたのだろう。これ……持って帰れるかしら。

 でも、何だろう。何か、重い……。

 気分も、沈む。

 そのとき、奇妙に明るい音楽がどんしゃかどんしゃか間近で聴こえていた。さっきのパレードだ。

 はっ。うわ。わたしの周りでいつの間にか踊っている。寒い。寒気がする……

 どうぶつというかまるで、人間じみた、人間のなり損ないのようだ。わたしを、仲間に誘っているのかな。わたしもあんなのになるっての。ああ……とても、寒い。ああ手が、だめ。重い。パレードはわたしの周りを囲んで円を縮めるようにどんどん、近寄ってくる。

 ああ、来ないで……見ないで。まるで何かが生まれるように、わたしの手のひらがちょっとずつ開き始める。重い……寒いのに、熱い。熱が出ているのかもしれない。なのにどこか、快感だ。何かを産むっていうのはこういう感覚なのか。うっ。

 ぱぽー。

 象。

 わたしの手のひらから、象が飛び出してくる。

 えも言われぬ感覚、感情。

 

 小象だ。だけど前のよりまだ大きい小象だ。パレードのはしゃぎが一層大きくなる。囃し立てる。はあ……象を出し終えたわたしは、その場にひざをかかえてうずくまる。禿げたどうぶつたちが、いやらしい目でわたしを見てくる。

 象はもらっていくぞ? 馬鹿な。それは、わたしの小象だ。渡すもんか! 去れ、去れ。汚らわしいパレード、この小象はパレードなんかに渡しはしないのさ。

 わたしは涙を流して、小象に頬をすり寄せる。

 だけど、なぜ。象は行ってしまう。パレードについて、行ってしまう。わたしはなのに、ひざをかかえたまま、動くことができない。なんて寒いパレード。行ってしまえ。ああ。……

 

 

 目が覚めると、そこには小象がいる。

 おまえ、大きくなったねえ。

 この象……わたしが、掴まえた。わたしがこの手で……生み出した象なの。

 けれど宝石なんかじゃない。それに、あんな汚らわしいパレードのなかで、生まれた。わからない。どういうことなの。

 小象。一体、おまえは……。

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