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第四十六話 新たな友情~交わした握手、芽生えた絆~

「ふ~ん、なるほどな・・・」



 心地よい風が包み込むこの中庭で、及川は自分の過去を俺に全て話してくれた。



どうして伊集院さんを好きになったのか、どうして自分はそこまでして勉強していたか



前までは俺を敵対視していたのに、それでも正直に俺に話してくれた。



まあ、なんか無理やり俺が聞いたみたいな感じにはなったが、それでも、及川という人間についての片鱗を垣間見ることができたことは確かだ。そして及川との距離がぐっと近づいたような気がした。



こいつは正直な奴だ。そして素直で、それでいて真面目すぎるほど真面目で・・・良い奴だ。



教室の時に勝負を吹っ掛けられた時はすげ~嫌な奴、絶対こいつとは気が合わないと思っていたけど、案外、こいつとは馬が合いそうな気がしてきた。



「だけど、なんで勝負を吹っ掛けたのが俺なんだ?ほかにも人はいただろ」



わざわざ色んな出来事のせいで近づきがたい雰囲気をつくってしまっていた俺をターゲットにしたのはなぜだ。数ある生徒の中でわざわざ俺を選んだことにはなにか理由があるのか??



「それは・・・君が伊集院さんと仲が良いという噂を聞いてね・・・」



「・・・はあ!?」



なんか理由なんて聞くんじゃなかったという気持ちが急速に芽生えてきた。俺が伊集院さんと仲がいい??一体どこの場面をみてそんなこと言ってんだ?ぜひともその場面を一から十まで懇切丁寧に俺に教えてくれ。



「一体誰からそんなこと聞いたんだ??」



俺は及川に尋ねた。というよりそのことを尋ねないわけにはいかないだろ。へ~そうか~だなんて流すスキルは俺は持ち合わせていない。てかそれKYなだけだろ。



「え、いやでも部活も同じだって聞いたし。それに・・・」



一度及川はその続きを言うのをためらうと、不安そうにこっちを向いて、そしてまたうつむいてという動作を繰り返した後、観念したように話し出す。だからその恥ずかしがり屋の乙女みたいな仕草やめろって。女ならともかく男だと気色悪いぞそれ・・・



「それに・・・朝の保健室で二人っきりでいたっていうのも聞いたんだが・・・」




「・・・!?」



及川から発せられた突然の一言。俺が伊集院さんと保健室で二人っきりでいただと!?



なにを言ってるんだ。そんなことがあるわけ・・・



その時、俺の頭の中で一筋の電撃が走った。そんなことあるわけないと思いながらも脳内検索してみたところ、まさかの一件該当項目ありの結果。



記憶というものは恐ろしい。前にも工藤が言っていたが、自分で忘れていても、脳はちゃんと記憶している。そしてそれはふとしたことをきっかけに鮮明に頭の中で蘇る。



朝の授業前の保健室で伊集院さんと二人っきりというシチュエーション。あるはずのないその場面に、確かに俺はそこにいた。



 

 アビシオンとの最初の戦闘の翌日。目を覚ました時、確かにそこに伊集院さんはいた。すうすうと寝息を立てながら。



「あ~、なるほどね・・・」



俺は額に手をついた。謎はとけた、というほどのことではない。つまり、その半端なくタイミングの悪い、いや奇跡のタイミングで俺達の様子を見た生徒がいたってわけだ。大体その後すぐに、健や玲達が来ていたわけだし、目が覚めた後のほんの一瞬だけの時間を、運悪く目撃したってわけだ。



まあたしかに、授業が始まる前の早朝の保健室で、若い男女が二人っきりでいたともなれば勘違いするのも無理ないか。て、あれ?そもそもその状況をなにと勘違いするんだ?なんかこういう流れが定石って感じだから言っちゃったけど、自分で言ってることがなんのことかわからない。



まあそこはスルーしよう。そこを思いつめると話が長くなりそうだ。



「あ~及川。それは完全に勘違いだわ」



俺は及川に言った。とにかくこの誤解を解かなければ。



「勘違い?」



すかさず及川は聞き返してくる。



「ああ。それは俺がその前の・・・」



うっかり口が滑りそうになる。そういえば及川は一般生徒であり普通の人間だった。その前に戦闘があっただなんて言ったらまた話がおかしな方向にいってしまう。危ない、危ない。間一髪だったぜ。



そういえば、俺は健達等のドラゴン以外の奴でこうして普通に話すのは初めてだった。あ、その前に篠宮さんがいたか。



「じゃなくてあの時俺は貧血で倒れて、それをたまたま発見した伊集院さんが保健室に運んでくれたんだよ」



この時の俺は、どんなに腕のいい芸人でも敵わないほどのひらめきとアドリブ力で話をつなげた。まあなんだかありふれた感じではあったが、今は充分だろ。



「ふ~ん。じゃあ君と伊集院さんは特になにもないってことか・・・」



ふ~どうにか俺の話を信じてくれたようだ。なんとかピンチは脱したな。



「でも部活は同じなんだよね?え~となんだっけ?あ、そうそうDSK研究部か」



「へ!?」



ピンチの後にピンチあり。この展開でその名を出すということは次の一言は間違いなく・・・



「そういえば、DSKってなんの略なんだい?いまいちなにをしているのか想像もできないんだけど・・・」



ですよね(笑)そうなるよね、やっぱり。普通の人ならDSK研究部と聞いたらそれがなんなのか気になるよな。100人に聞いたら99人ぐらいはそう答える。後の一人はそれにも気付かないバカだ。だが、目の前にいるのは及川。気付かないはずはない。



 今問題なのはDSKが何を意味するのかを教えて健のネーミングセンスがある意味天才的なものであるということではない。問題はその活動内容だ。



今までやってきたのはターゲットの殲滅、およびそれに関しての作戦会議。どれもこれも常人に話せるものではない。そもそもあれ自体、なんか新しい基地みたいな感じになっていたし。



正直に、話すわけにはいかないか・・・



「そういえば、俺に勝負を吹っ掛けてきた時、なんであんな絵に書いたようなガリ勉君発言だったんだ??お前はそれが間違ってることを伊集院に会ってわかったんだろ?」



 俺は話をそらすという作戦に出た。もうこうなったら無理やりにでもその話をなかったことにしよう。



「え?ああ、あれか。あれはその~あれだ・・・」



そう言って及川はほんのりと顔を赤くしてぽりぽりと顔を掻く。だからやめろってその仕草。男じゃ、なにもときめかないぞ。



「ああでもしないと、勝負に持ち込めないかな・・・と思って」



俺はその時、お前どんだけ不器用なんだよっ、とツッコミを思わず入れそうになった。まあ今そのツッコミを入れると、今の雰囲気がぶち壊しになりそうだからそっとしとこう。だけど、それはさすがに不器用にもほどがあるだろ~



ほかにも色んなやり方があったはずだ。だけどその中から的確に一番面倒なものを選ぶというのは、ある意味才能なのかもしれない。



 勝負で勝ったら告白、そのためにわざわざ喧嘩を売ってまで勝負を持ち込む



なるほど。つまりこいつは不器用なのか。



物事をまっすぐにしか捉えられない。なにか起きたらそれに対して応用がきかない。ただ目の前の相手に真っ直ぐにぶつかることしかできない。それでいて自分の主張はできない。



だけど



純粋な気持ち、真っ直ぐな気持ち。それを及川は持っている。きっと、及川は純粋に伊集院のことが好きなんだ。そうでなかったらあそこまでやらないだろ~普通。



なんだか羨ましいな。



そうやって純粋に物事に立ち向かっていける、純粋に誰かを好きになれる。そんな純粋で、真っ直ぐな気持ちになれる及川が、なんだか羨ましい。



近くにいて、遠い存在



こうして普通に喋っているのに、住む世界がこんなにも違うものかと思うと、自分のいる世界が遠く感じた。



純粋な気持ち・・・そんな気持ちを、俺も抱いてみたいな・・・



俺は上を見上げた。



青く澄み切った空。手を伸ばせば届きそうな空。俺を優しく包み込む空。なににも汚されていない青い空



あの空へ・・・飛んでいきたい。そして、風を感じたい



「どうしたんだい一之瀬君」



「お?」



その一言で、俺は我に返る。今のこの世界、及川達人間のいるこの世界に俺は引きもどされる。



「ああスマンスマン。で、これからどうすんの?」



「え・・・どうするって??」



「もう伊集院のことはあきらめるのかってこと」


俺がそう言うと、及川は先程とは違って鋭く、真剣な眼差しで答えた。



「そんなわけないだろ。こんなことであきらめるわけにはいかないよ!」



待っていましたその言葉。まあ及川がそう答えるのはわかっていたんだけど。こいつはそんな生半可な気持ちで伊集院さんを好きになったわけじゃないってことはさっきの話で充分わかったことだから。


「そっか・・・よ~し!!」


そう言って俺は勢いよく立ち上がる。そんな俺の姿をみて、及川はポカンとした表情で俺を見上げる。



「まあ俺になにかできるわけでもないけど。俺は応援するよ。お前の恋を」



「え・・・?」



及川はキョトンとした顔をしている。さすがに今のこの急展開の状況に、対応できていないようだ。



「う~ん・・・しかし伊集院か。めちゃくちゃ相手にしにくい相手だな。だけどなせばなる!!」



俺がそう言うと、及川が慌てて立ち上がり



「ちょっと待て。いつから君に手伝ってもらうことになっているんだ??」



慌てふためきながら俺に言った。



「いいじゃないの。一応俺は伊集院とかかわりがあるわけだし。良い戦力になるぞ??」



「・・・・・・。ぷっ、なんだよそれ」



及川は笑った。純粋で、そしてくったくのない笑顔。その姿は、とても眩しくみえた。



そして俺は、右手をすっと及川の前に差し出した。



「俺は一之瀬 蓮。よろしくな!」



「な、なんだよ突然・・・」



及川は最初はその状況に戸惑っていたが、その状況を飲み込むと、うんと頷いてから右手を俺と同じように差し出し



「僕は及川 直人。こちらこそよろしく!」



ガシッ



俺と及川は、ガッシリと強く、そして固く握手をした。その握手には、確かに友情という名の絆が結ばれていた。




 陽の光が眩しく、そして新緑に満ちたこの中庭でまた一人、新たな友達ができた。それはドラゴンではなく、初めての人間の友達だった。



そして、俺達が数秒の間握手していると




「なに勝手に青春してんだよ!お二人さん!!」



突然聞き覚えのある声がした後、その声の主が及川の頭を小突いた。



「あっ・・・」



ポトッ



及川のメガネが落ちた。



「おい大丈夫か及川・・・」



俺がそのメガネを拾って及川に差し出した時、俺はその光景に思わず拾ったメガネをまた地面に落としてしまう。



「及川・・・お前その顔・・・」





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