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第四十四話 及川の追憶Ⅱ~すぐ傍にその人はいた~

「バ・・・バカな・・・」




 僕の手元にある一枚の紙。




模試結果詳細と書かれたその紙を前にして、僕は目を真ん丸にして震えていた。




「僕が・・・僕が2位だと・・・」




手を震わしながら持つその紙には



2位 及川 直人 私立城南中学校



その紙には、僕にその現実を訴えかけるように、僕の名前の横には「2位」とはっきり書かれていた。



「う、嘘だろ・・・」



僕は一年の時に受けた5回の模試、その5回とも僕は1位を獲得していた。つまり今まで1位以外だったことはない。ずっと1位の座に僕は着けていた。



もちろん、今回も1位を獲れるだけの自信はあった。特に調子が悪かったわけでもない。出来はそれなりによかった。いつもどおりの出来だった。




だけど、現に僕の目の前にある紙には、僕の名前の横に、確かに「2位」と書かれていた。




「・・・だれか新聞を持ってないか!?」




僕は叫んだ。この地域一帯で行われている模試、その結果はもちろん個人への通達しかなく、他人の成績を見ることはできない。しかし、実はそれ以外に他人の成績を知る手段がある。




まあかなり限定的なものだけど、新聞には模試の成績のトップから三人、つまりトップスリーまでの成績優秀者の名が得点と共に掲載される。



つまり、そこには僕の上、1位の奴の名前が記されているはずだ。



一体どこのだれが僕よりも上の成績をあげたのだろう。今の僕はそのことを知ること意外考えていなかった。それほどにこの結果は僕にとって衝撃的なものだった。




「新聞ならここにあるぞ」




名前も知らないクラスメイトの一人が僕に新聞を手渡す。入学してもう一年にもなるというのに、名前も知らないなんて、こうしてみると僕がどれだけ交友関係を犠牲にしてきたかがわかる。こうして普通に喋ってるけど、その人のことをなんにも知らないなんてどれだけ薄っぺらい会話をしているんだ。全く、くだらないな本当に。




「ああ、ありがとう」




そう言って僕は新聞をくれた知らないクラスメイトの顔もみないで新聞の模試結果詳細についてのページを開いた。僕は何度もこの詳細のページを開いている。僕は常にトップスリーの中に、いやトップにいたからな。どこにそのページがあるのか手に取るようにわかる。経済、社会、教育とページが続いた後の13ページ目。地域について書かれたこのページの左上にこの時期はそのことが書いてある。



そして僕は、模試について書かれたその記事に目を向ける。



模試特別表彰者一覧、あった、これだ。




模試でトップスリーに入ると、この特別表彰だかなんだか知らないが表彰される。でも僕はこんなものに興味はない。表彰状がほしいならくれてやる。あんな紙切れもらったってなにもうれしくない。



僕が求めているのは順位、つまり1位の座だ。それ以外に興味はない。




「・・・やっぱりこれは現実なのか」




 そこに書かれている順位、そこにも2位の欄に僕の名前が掲載されている。どうやら模試結果詳細の通達の誤りではないらしい。



くそっ一体どこのどいつだ、僕から1位の座を奪い取り、僕より上の成績を取ったのは!!



そして僕は2位と書かれた僕の名前の上にある、今までならなかったはずのもう一つの名前に目を向ける。




1位 伊集院 有希 県立瑞穂中学校


「な・・・!?」




伊集院 有希、県立中学校だと~~~!?




一般生徒とともに生活、僕たちとは違って普通な学校生活を送っている県立中学校の生徒と、僕たちのような勉強、勉強、ひたすら勉強で上を目指しているいわば勉強が専門のような私立中学校の生徒では、本来なら学力、いや勉強の量で圧倒的に差がある。



部活でも勉強でもなんでもそうだけど、私立中学校はどうして強いのかと聞かれれば、僕たちはそれ以外のことを犠牲にしてまでそのことに取り組んでいるからだ。そして僕たちはその学校という名の看板を背負っている。上を目指すために僕たちはここにいるんだ。普通の中学校とは覚悟が違う。逆にいえば、僕たちからその必死になって取り組んでいるものを取り上げれば、僕たちにはなにも残らなくなる。だって、それ以外のことを犠牲にしてきたんだから。失ったものはそう簡単には元には戻らない。



だから上に行けばいくほど、そこには私立のものしか残らなくなる。彼らは強いんじゃない。怖いんだ。自分からそれを取り上げられたらなにも残らなくなることを知っているから。だから必死になって自分の場所を守っているんだ。




だから本来なら、この欄に県立中学校の名が刻まれているのは極めて異例なことだ。現に三位には僕と同じ私立第一城南中学校の生徒がランクインしている。今までもずっとトップスリーはうちの学校の生徒で埋め尽くされていた。



だけど、確かにここに県立中学校の名は刻まれていた。死に物狂いに勉強してきたうちの学校の生徒を、そしてこの僕を抑えてそこに名は刻まれていた。



伊集院 有希



一体どんな奴なんだろう。全く聞いたことのない名だ。




<7月22日 第二回模試会場>




 また模試の日がやってきた。結局、伊集院 有希という人のことはわからなかった。わかっているのは県立瑞穂高校の生徒ということだけ。一応その瑞穂中学校について調べてみたが、やはり普通の中学校だった。これといって特徴があるわけでもなく、本当に普通だった。



しかしそれならなぜ、伊集院 有希という名が出てこない?



そんな普通な中学校なら、模試で一位の奴が出たらどこかにそれについての掲載があるはずなのに。というより目立つはずだ。



普通な学校の中で一人の突出した人間。それが目立たないわけがないはずなのに。



だけど、その瑞穂中学校のホームページにも、資料にも、その掲載はなかった。なぜだ?なぜなにも情報をつかめないんだ??



 おっといかんいかん。今は目の前の模試に集中しなければ。だけど、どうしても気になる。今は模試に集中しないといけない。それはわかってる。だけど僕は、伊集院 有希という人物についてどうしても知りたい。



自分でもなぜここまでその人について知りたいのかわからない。




「今から出欠をとります。呼ばれたら返事をしてください」




先生による出欠が始まった。前から順に次々と呼ばれては返事をしていく。基本的にここの並びは学校別の生徒の五十音順だ。まず最初に我らが城南中学校から。城南中学校からは数多くの生徒が模試を受けるので、いくつかのクラスに分けられている。まあ教室全部が城南中学校、というのも気味が悪いし。とりあえずひとクラスに10人ほどが配置されている。



「・・・・・・及川君」




「はい」



僕は及川の「お」だから比較的早く順番がまわってくる。ふと、周りを見渡してみると、あることに気づく。



「あれ?隣がいないな」



周りの席は生徒でびっしりと埋まっているというのに、そこの席だけさびしそうにポカンと開いていた。だれか欠席でもしたのだろうか。



「・・・・・・。はい、それではこれで出欠は終わります」



 やっと出欠が終わった。これからいよいよ模試に取りかかっていく。そして僕が筆箱からペンを取ろうとした時



ガラガラガラ



突然ドアの開く音がする。




「・・・すいません。遅れました」




教室中のみんなの視線がそこに釘つけになる。




そこに立っていたのは、長い銀髪の髪に白い髪飾り、そして白い肌。とても可憐で、僕たちと同じ人間とは思えないほどその様は美しかった。




そう、まるで天使のような人がそこに立っていた。




「・・・ギリギリね。まあいいわ、入りなさい。伊集院 有希さん出席と」




「えっ・・・」




その時、僕の耳にある言葉が聞こえた。




伊集院 有希




そしてその人はスタスタと無表情で歩くと、僕の横にあるポカンと空いた席にかばんを置いてちょこんと座った。




その時、僕は発作的に、机に置いてある名札を思わず立ち上がって見た。



模試では自分の名前、出身学校などが書かれた名札が貼り付けられている。




「なっ・・・!?」




そこには




県立瑞穂中学校二年 伊集院 有希




 なにかをものすごく探していた時、そういう時に限ってどこを探しても見つからない。こんなところにあるわけない、というところまで念入りに探しても見つからない。その探していたものはもう存在しないのかと思えるほどに見つからない。だけど、そういう時に限って、その探していたものはなぜ今まで気づかなかったのかわからない、というところにある。ここまで探しても見つからなかったのに、どうしてそんな簡単なところにあるのかと、呆気にとられるほどに簡単なところにそれはある。まるで、それは誰かのイタズラかのように。




「・・・なに?」




「え?」




僕は思わず裏返った声で声を上げてしまう。




確かに、知らない人が隣で自分の名札を熱心に見ていたら気味悪がられるのは当然だ。はたからみればなにやってるんだこいつ、と変な目に見られるものだ。




「あ、すみません・・・」




僕は自分の机に視線を戻した。だけど、探し求めていたものがこんな近くにあると、どうしても動揺を隠しきれなかった。だめだ、落ち着かないと・・・




僕は手で自分の頬をつねった。うん、確かに痛みを感じる。感覚を失うほどまで動揺はしていない。




「ふう~」




 僕は大きく深呼吸をした。そして机にさびしそうに置きっぱなしになっている黒のペンを握りしめた。





え~となんかすいません><本当はこの回で及川の過去の話を終わらせる予定だったんですけど、なんか予想以上に長引いてしまいました。次の回でなんとか終わらせるつもりなんでよろしくお願いしますm(_ _)m


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