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第3話 村の子どもと「ちょっとした治療」

お久しぶりです!お読みいただきありがとうございます!

薬草畑の噂は、あっという間にフロストヘルムの小さな村に広まった。


 数日後、村の女性が城館を訪ねてきた。腕に幼い女の子を抱えている。女の子は顔色が悪く、ぐったりとしていた。


「あの……薬師の方がいらっしゃると聞いて……」


 女性の声は震えていた。


「この子が三日前から熱が下がらなくて……村には医者もいなくて……」


「見せてください」


 私は女の子を寝台に寝かせ、額に手を当てた。確かにひどい熱だ。呼吸も浅い。


 聖レノア草は解熱作用がある。さっそく煎じて飲ませよう——と思いながら、私は無意識に女の子の胸元に手を当てていた。


「早く元気になりますように」


 心の中で、そう祈った。


 すると。


 私の手のひらから、淡い光が漏れた。


「え?」


 温かい、柔らかな光。それが女の子の体を包み込むように広がり——数秒後、消えた。


「……あれ? 今のは何——」 「ママ……」


 女の子が目を開けた。頬に赤みが戻っている。額の熱は完全に引いていた。


「リナ!? リナ、大丈夫なの!?」 「うん……おなかすいた」


 母親が泣き崩れた。私は慌てて「お、落ち着いてください」と声をかけたが、根本的に何が起きたのかが自分でもわからなかった。


「あ、あの……今の光は……?」 「さ、さあ……聖レノア草の成分が、空気中に揮発して……それが偶然体に浸透して……たぶんそういう仕組みです、はい」


 苦しい言い訳だった。でも他に説明のしようがない。私は魔法適性ゼロのはずだ。光なんて出せるわけがない。


 きっと気のせい。薬草の成分が効いただけ。  そう自分に言い聞かせた。


 しかし——扉の影でこの一部始終を見ていたカイルは、腕を組んだまま、とても複雑な顔をしていた。


 その夜。


「ゴドフリー」 「はい、カイル様」 「……あの女、本当に魔法適性ゼロなのか?」 「宮廷の診断ではそのように」 「……ありえない」


 カイルは窓の外を見た。月明かりに照らされた薬草畑が、淡く光っている。


「あれは『治癒魔法』だ。それも、第七位階以上の。俺が帝国の戦場で見た宮廷治癒師でも、あそこまでの即時治癒は不可能だった」


「では、アリシア様は……」


「わからん。だが——あの適性診断は、何かが間違っている」


ーーーーーーーーー

フロストヘルムでの暮らしは、思った以上に快適だった。


 朝は薬草畑の手入れをして、昼は村の人たちに薬を配り、夕方は図鑑を読む。夜はゴドフリーが淹れてくれるお茶を飲みながら、その日の薬草の成長記録をノートにつける。


 何より嬉しかったのは、村の人たちが私を受け入れてくれたことだ。


「アリシアさん、これ、うちの畑で取れたジャガイモです!」 「薬をいただいた御礼に、編み物を作りました!」 「うちの子の熱も下がりました、ありがとうございます!」


 こんなに人に感謝されたのは初めてだった。王都では「適性ゼロの令嬢」として腫れ物のように扱われていたのが嘘のようだ。


 ただ、一つだけ気になることがあった。


 カイルだ。


 あの領主は相変わらず無愛想で、食事の時もほとんど喋らない。目が合うとすぐに逸らすし、質問しても最低限の単語しか返ってこない。


「カイル様って、私のこと嫌いなのかしら……」


 ゴドフリーにこっそり聞いてみた。


「とんでもございません!」老執事は慌てて手を振った。「カイル様は……その、人付き合いが大の苦手でして。幼い頃から孤独に育ち、帝国との国境紛争で従軍されてからは、さらにお口が重くなられて……」


「そうなの……」


「ですが最近は、変わってきたと私は感じております」


「変わった?」


「はい。アリシア様が来られてから——カイル様は毎朝、薬草畑の柵を点検されております。黙って、誰にも言わず。壊れた板を直し、雪除けの屋根を付け足し……」


 ……ええっ?


 言われてみれば、確かに畑の柵が日に日に頑丈になっている気はしていた。あれは自然にそうなったのではなく、カイルが毎朝直していたのか。


 胸の奥が、じんわりと温かくなった。


 ——不器用な人なんだな。


 その日の午後、私はキッチンを借りて焼き菓子を作った。薬草から抽出した氷雪薄荷のエキスを練り込んだ、爽やかな味のクッキーだ。


 カイルの執務室の前に立ち、ノックした。


「何だ」 「あの、よかったらこれ、どうぞ」


 小さな籠にクッキーを詰めて差し出した。カイルは無表情のまま、しばらくクッキーを見つめていた。


「……なぜ」 「畑の柵を、毎朝直してくださっていたでしょう? そのお礼です」 「…………」


 カイルの耳が、ほんのわずかに赤くなった——ように見えた。照明の加減かもしれない。


「……礼を言われることじゃない。領主の仕事だ」 「でも、嬉しかったので」


 私が笑うと、カイルは顔を背けた。


「……置いていけ」


 ぶっきらぼうな声だったが、その夜ゴドフリーから聞いた話では——カイルは一枚残らず全部食べたらしい。しかも「……悪くない」と呟いたとか。


「カイル様がお菓子のご感想を口になさったのは、私の記憶にある限り初めてでございます」


 ゴドフリーは涙ぐんでいた。大げさだ。


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