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第8話 多分、戯言

「一応魔王やってる」


 黒髪の青年がそう言うと同時に、周りにいた村人は一斉に跪く。先ほど甦って状況を全く把握できていないゴルンも慌てて跪いた。


「魔王様、せっかく頂いた魔道具をこんなことで使ってしまい申し訳ないです」


 ルクシアがすごく申し訳なさそうに謝った。それも、跪いて、顔も上げずに。

 魔王を名乗った青年は、ヴェルグレドにはそれほどすごい人物には見えなかった。魔族はみんな持ってる角もないし。まあ、好青年って感じだし友達にはなれそうかも。

 ヴェルグレドは、魔王の登場の仕方を勘定に入れずにそんなことを考えていた。


「いーや? 呼んでくれて助かったよ。その人間、勇者でしょ?」


「はい」


 呆然としていたジーフリトがハッとする。


「魔王!! 僕は勇者としてここでお前を討伐する!」


 そう言ってジーフリトが聖剣を構える。魔王を名乗る青年はそれを受けて、微妙そうな顔をした。


「あー、それ今じゃなくていいや。めんどくさそうだし」


「黙れ!」


 ジーフリトがものすごい速さで距離を詰める。それに対し魔王は、ただ、指を鳴らした。すると、空間が裂け、ジーフリトの体が歪んでその一点に吸い込まれてしまった。


「しばらくどっかいっててねー」


 ヴェルグレドは何が起こったか分からずにいた。ただ、その青年がとんでもない奴だ、ということは理解した。


「さて」


 魔王がパンパンと手を払ってヴェルグレドの方を向く。そして、興味深げにヴェルグレドを観察した。


「そこの人間。お前、なんで生きてるのにアンデッドなの?」



「くそッ!」


 ジーフリトは地面を蹴った。大きな砂埃が巻き上がる。

 今、ジーフリトがいるのは砂漠。どこを見渡しても一面砂丘で、ここがどこかも分からない。


 しかし、ヴェルグレドが死霊術師ネクロマンサーだったとは。たしかに他の国に予言を受けた勇者がいるという話はなかったし、迂闊に信じてしまったのは反省している。それに、あのルクシアという魔族も怪しかった。


 ……浮かれていたな。初めて対等に話せる仲間ができて、警戒を忘れていた。そもそも、トールレーリア山脈で人間に出くわすという状況が異質なのに。


「一度、国に戻るか」


 魔王のみならず、強力なアンデッドを従える死霊術師ネクロマンサーが向こうにいるとなれば、話は変わる。アンデッドの軍勢なんかで攻め込まれたら大変だ。

 ジーフリトは王国に設置してある魔石の方向がわかる魔法を使用した。そして、走り出した。





 混迷した村の状況もだいぶ落ち着き、ヴェルグレド、ルクシア、そして魔王の三者は村長の家で腰を落ち着けていた。


 ルクシアは隅の方で頭を下げていて、ヴェルグレドと魔王は向かい合って座っている。魔王はにこにこしていてヴェルグレドは挙動不審にきょろきょろしている。

 その場では、誰も話を切り出さず、微妙な気まずさが漂っていた。


「あのー。お、恐れながら……」


 隅の方にいた村長が恐る恐る話を切り出す。ヴェルグレドは村長がいたことに初めて気づいた。


「どうした?」


 魔王が村長の方を見る。村長はビクッとなりつつも答えた。


(わたくし)めは、いない方がいいでしょうか?」


「あーうん。確かにそうかも。……あー別に君のせいとかじゃないから気にしないでね」


「ありがたき幸せ。それでは失礼します」


「うん」


 村長が部屋から出ると、魔王がヴェルグレドに話しかけた。


「で、お前は俺に会いに来たんだろ? 要件は?」


「え? ルクシアが会いに行こうって」


 ヴェルグレドと魔王が隅っこの方にいるルクシアの方を向く。

 ルクシアは一瞬ヴェルグレドを恨めし気に睨んだ後、答えた。


「彼は死霊術師ネクロマンサーとして特異な能力を持っています。王国でも指名手配を受けており、こちら側で戦力になる可能性があると見込み、連れてきた次第です」


「せ、戦力だって!!?」


「何か?」


 ルクシアがヴェルグレドを強く睨む。


「なんでもない……」


 ヴェルグレドはその気迫にしゅんとしてしまう。


「へぇ、確かに普通の死霊術師ネクロマンサーとは違うみたいだね。でも、彼は人族だ」


「ですが、彼は魔族に対して偏見がないように思えます。証拠に、先ほども魔族を蘇生しました」


 話の流れはあまり見えないが、どうやらルクシアは自分を庇ってくれてるみたいだ。よくわからないけど、そのままがんばれ、ルクシア!


「そうそう、死霊術師ネクロマンサーなら死者をゾンビとかスケルトンにするのは分かるんだけどさ、なんでそれが意識を持った状態で蘇生されるのか分からない」


 ヴェルグレドは目をぱちぱちとさせた。そんなこと考えたこともなかったからだ。


「え? 死霊術師ネクロマンサーってそういうものでは?」


 魔王とルクシアが驚いたような表情を浮かべる。


「あなた今まで自分のやってること分からずにやってたの!?」


 ヴェルグレドはますます混乱する。死者をアンデッドにすることの何がおかしいのだろうか。


「……祝福、そうか、死神の…………」


 魔王が何やらぶつぶつ呟いている。

 ルクシアが呆れたようにヴェルグレドから目をそらした。


「…………なるほどわかったぞ。お前、天使だろ」


「うん?」


 天使。

 うーん、天使か。



 ――て、天使!??

 天使って、あの? 羽が生えててラッパとか吹いてるあの天使??

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