145話 エピローグ
エピローグ
日本に戻ったと思ったら、再び異世界に飛ばされた俺。
イザルの布教と使徒のお仕事だ。
すったもんだ紆余曲折の末、また日本に戻ってこれた。
――その期間、実に2年。
ただし、日本に戻ってくると俺が消えてから数日しかたっていなかった。
そこら辺は、さすが神さまの奇跡だ。
時間を超越しているらしい。
それなら、ダンジョンがなくなったときにも、直後に返してほしかったな。
そんなわけで異世界で合計4年も過ごしたのだが、それほど歳を食ってないように思える。
ここらへんも、神さまの加護なのだろうか?
あちこち飛ばされて、結局俺だけ歳を食って爺になるのは悲しすぎる。
「は~」
さすがにぐったりとなった俺は、ソファーに腰を下ろした。
「ぎゅ~!」
俺の身体には姫がガッチリと抱きついている。
周りにはサナやカオルコもいるのだが、あまりに異世界暮らしが多いと、彼女たちのことも忘れてしまいそうで怖い。
久しぶりに家に帰ってきたら、子どもができて大きくなっていたとか――それはつらい。
「姫、今回のは、俺のせいじゃないからな」
「う~」
納得していないみたいだが、こればかりはどうしようもない。
「サナ、神さまから聞いてたかい?」
「はい」
彼女は、神さまから情報をもらっているので、慌てる様子もない。
余裕の表情だ。
「姫――イザルの使徒になってしまったから、度々こういうことがありそうだよ」
「わ、私も一緒に連れていってくれるように頼んでみる!」
「ちょっと無理だと思うけどなぁ……」
聖女のサナは可能かもしれないが、彼女にはこの世界の聖女の仕事もある。
姫の反対側には、ニーニャがやってきて、俺にスリスリしている。
柔らかい黒い毛皮に指先が触れた瞬間、しっとりとした温もりが伝わってきた。
まるで夜の闇をそのまま織り込んだように深い色合いで、光を受けるたび、わずかに艶めいて表情を変える。
無意識のうちにもう一度、ゆっくりと撫で返してしまう。
柔らかさ、温かさ、静かな安心感。
異世界でも、こうやってニーニャに癒やされていたのだ。
姫の前で口には出せないが。
「な~ん♥」
彼女が頬を擦り寄せ、俺の手の動きに合わせて尻尾がピンと伸びて絡みついてくる。
「ダーリン! 私にもそれやって!」
姫が口を尖らせているのだが……。
「ええ?」
毛皮も尻尾もないのだから、物理的に不可能だろ。
「む~……」
姫が睨んでも、黒い毛皮の主はしらんぷりで尻尾を振っている。
俺が毛皮をなでながらぐったりとしていると、眼の前で突然テーブルが鳴る音がした。
ニーニャがすごい早さで反応してソファーの陰に隠れる。
「なんだ?!」
俺も飛び上がると、眼の前のテーブルに見知らぬ白いタブレット。
どこから? 今までなかったし、後ろを見ても皆が首を振っていた。
俺が手に取ったタブレットを、ニーニャがクンカクンカしている。
「また、神さまの冗談か?」
とりあえず、スイッチを押して起動してみると、動画ファイルがあった。
「ポチッとな」
『ダイスケ、届いているか~』
「え?! テツオ?!」
動画に映っていたのは異世界にいるはずのテツオだった。
『神さまの奇跡で、小さなものなら送れるようになったから、試しに送ってみたぜ~。機械が駄目なら白ヤギさんからお手紙だな』
タブレットは、こちらで買ったものか。
「こっちは黒ヤギじゃないんだぞ」
それはさておき、異世界と通信できるとなると、色々とメリットがある。
魔法で解らないことがあれば、異世界の専門家に質問できたりするしな。
『そうそう、ダークエルフの長老が、ダイスケに逢いたがってたぜ~他の動画に収めてある』
そういえば、他にも動画がある。
俺も異世界にいて、手持ちのスマホなどで風景や動物の動画を撮ったりしたし。
あの異世界動画をネットに上げても受けるかもな。
作り物扱いされるかもしれないが。
俺は動画の一つを再生してみた。
『……こちらに来ることがあれば、集落に寄ってほしい。村を上げて歓待する』
黒い装束に身を包んだ、長老が映し出された。
「ダイスケさん! それって異世界人ですか?!」
カオルコが、俺の後ろからタブレットを覗き込んだ。
「そうそう、彼女たちはダークエルフという種族だ」
「魔法なども使えるんですか?」
「使えるぞ。そうだ――他の異世界の魔法の資料を集めてきたから、あとで見せてあげる」
「楽しみです!」
カオルコは喜んでいたのだが、動画を見ていた姫が叫んだ。
「ダーリン! なんでこの女は、顔を赤らめてくねくねしてるんだ! 明らかに怪しいだろ!」
「いやいや姫、気のせいだって」
するどい! 女の勘ってやつか?
「私も怪しいと思います! この人おっぱいすごく大きいですし!」
サナも一緒になって叫び始めた。
「いやいや、おっぱいは関係ないし」
「胸なら、私のがあるじゃないですか」
カオルコが、大きな胸を持ち上げた。
「ダイスケさん! そんな垂れたおっぱいより、私のほうがいいですよ!」
「たれてませんよ」
サナの言葉に反応して、カオルコが冷徹な笑みを浮かべる。
「比べてみますか?!」
「「……!!」」
二人が大きな胸を突き合わせて睨み合っている。
カオルコの静かな圧力にも、サナは一歩も下がらない。
ここ数年で、彼女の実力、経験ともに、姫やカオルコに引けを取らないようなトップランカーになったのだろう。
オッサンは、若者の成長に思わずほっこりしてしまう。
「こらこら、変なことで睨み合わないように」
「がうう!」
なにを思ったのか、姫が俺の首元にいきなり噛みついてきた。
「あいてて! マジで痛い! 姫、それは洒落にならんから!」
「シャアァァ!」
噛みつきを攻撃だと勘違いしたニーニャが、姫に飛びかかった。
「あ~もう、めちゃくちゃだよ……」
家族を守るためといえ、こいつはブラックな職業についちまったな……。
『ピンポンピンポンピンポン!』
うなだれていると、突然玄関ベルが連打される。
「誰か来たな。は~い!」
玄関に出ると、ローブを被ったワンピースの女が立っていた。
出で立ちは、冒険者の魔導師クラス――濃い化粧に、ちょっと派手な露出。
「帰ってきたなら、挨拶ぐらいしなさいよ!」
キンキンとした声が耳に痛い。
「なんだ、キララか……」
俺の言葉を聞いた彼女が目くじらを立てた。
「なんだとは、なによ!」
「俺も色々と忙しくてな……」
「それよりも! なんなのここは! 寒いし! 暑いし! 雪は信じられないぐらい降るし!」
彼女は、俺の地元に文句を言っているようだ。
「そんなことを俺に言われてもな。東京にいればよかったじゃないか」
「ダンジョンなくなったのに、どうしようもないでしょ!」
「もっと、南のダンジョンとかあるだろ?」
「ここがダンジョンの最先端なのよ!」
ここが規模が一番大きく、各種研究所まで引っ越してきているのだから、そうなのだろう。
神さまとしても、使徒の俺が住んでいるここをイザルの本拠地にしたいだろうし。
「わかったわかった……やれやれ」
結局、特区のダンジョンでトップランカーだった連中はほとんど来てるっぽいな。
試される大地の、しかもこんな僻地にご苦労なことだ。
俺はため息をついた。
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