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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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139話 異世界を飛ぶ


 ダンジョンのラスボスを倒してクリアしたと思ったら、異世界に飛ばされた。

 なにを言っているのか――いや、それはもういい。


 とりあえず当地の情報をゲットするために、テツオと人里を探していたら、ダークエルフの集落を見つけた。

 異世界人とのファーストコンタクトだったが、上手くいったらしい。


 神さまからの加護でどんな言語でも話せるようになっているらしいのだが――やっぱり、言葉が通じるというのはデカい。


 テツオがダークエルフたちと情報交換した結果、彼が暮らしていた国の近くらしい。

 それなら、テツオの土地勘もあるので、当面は大丈夫だろう。


 ダークエルフたちと話していると、突然ワイバーンの襲撃に遭遇したが、これをなんなく撃退。

 彼らの信頼をゲットするのによいアシストになってくれた。

 魔物に感謝だ。


 元世界のダンジョンから得ていたレベルの恩恵も、それなりに残っているようだ。

 アイテムBOXは使える、魔法のアイテムも使える。

 身体強化も、レベル50相当ぐらいはありそうな感じ。


 これがずっと使えるのか、徐々に使えなくなるのか、今のところは不明だ。


 辺りが暗くなり、皆で解体したワイバーンを食ったあと、ダークエルフの女性の家に招かれた。

 そこで躊躇もなく裸になる彼女。


 これはもうあれだよなぁ。

 異世界といっても、男と女がやることは一つ。

 事前にテツオにも確認したが、間違いないらしい。


 闇に沈む世界の中で、二つの影は互いを確かめるように寄り添っていた。

 ただ体温と鼓動だけが、夜の静けさを打ち破って響く。

 そこには言葉も、異世界も、肌の色も、生まれた場所も、属する世界すらも関係がない。


 生き物としての根源的な衝動が二人を結びつけ、分け隔てを溶かしていく。

 暗がりでの行為は、あたかも太古から繰り返されてきた生命の儀式のように、普遍的で抗いがたいものだった。


 おっさんの感想としては、身体の作りも耳の長さを除き、まったく同じように思える。

 もしかして人間にないような器官もあるかもしれないが。


 ここでもレベルの恩恵が残っていた。

 飯さえ食えば、果てることなく続けることができる。

 最初のダークエルフが動かなくなると、次から次へと女たちがやって来た。


 狭い部屋がダークエルフたちで一杯になる。

 彼女たちから漂うスパイシーな香りが、姫のあのにおいと似ているような気がする。

 あれは異世界の香りだったのだろうか?


 暗闇の中でくんずほぐれつをしていると、しまいには長老までやって来た。

 いいのか? これは?

 まぁ、こんな貴重な体験は元世界じゃできないから、俺はいいんだけどさ。


 アイテムBOXから出した飯を食いつつ、女たちの相手をしていると、空が白み始めていた。

 結局また徹夜だよ。


「ふぅ……」

 ため息をつくと、アイテムBOXから出した、缶コーヒーを飲んだ。


 窓から差し込む朝日が、部屋の中を柔らかく照らしていた。

 闇に沈んでいた世界が一気に浮かび上がり、色彩を帯びて現れる。

 木の壁は温かみのある褐色を帯び、布の色や影の濃淡までもがくっきりと際立って見える。


 眼の前に横たわっている、幾人もの女たち。

 彼女らの浅黒い肌は、光を受けて艶やかに輝き、この世のものとは思えない。


 皆が揃って豊かなふくらみを備え、その柔らかな起伏が重なり合い、明かりに縁取られて曲線を際立たせている。

 光の加減で影が谷間を深く描き出し、陰影はまるで彫刻のように立体感を増す――まるで壮大な自然の風景を見ているよう。


「これ、ダークエルフの女たちが全員来たわけじゃないよな?」

 テツオの所にも、なん人か行っていると思うし……。


「ふわぁ~!」

 俺は伸びをした。

 そんなことはどうでもいいか。


 日が高くなるまで、もうちょっと時間がある。

 一眠りするか。


 俺は近くに転がっていた、長老の身体を引き寄せると、大きな胸を枕にして眠りについた。



「なんじゃこりゃ!」

 俺はテツオの声で目を覚ました。


 俺が身体を起こすと、他の女たちも目を覚ましたようだ。

 恥ずかしそうに身体を隠している。


 扉の所にはテツオが立っていた。


「オッス……」

 俺は大きなあくびをした。

 コレだけの女を相手にしたんだ。

 さすがに、少々疲れがある。


「オッスじゃねぇよ! なんでこんなことになってるんだ?!」

「……テツオの所にもなん人か行っただろ?」

「確かに来たがなぁ」

「俺が全員の相手をできると解ったんで、みんな来たんだろ」

「なるほどなぁ――ダイスケのお姫様には見せられない光景だな」

「内緒にしてくれよ」

「わはは! まぁ、もう日本に行くことはないだろうがな」

「……ううん……」

 テツオと話してると、少々色っぽい声を出して長老が起き上がった。

 少し、ぼ~っとしていたようだが、すぐに正気に戻ったのか、大きな胸を隠した。


「す、すまない……私のような年増の相手を……」

「いいえ、とんでもない――とても素敵でしたよ」

「……!」

 彼女がちょっと驚いた顔をすると、近くにあった自分の装備を抱えて、そのまま外に出てしまった。


「う~む、大きなお尻も素晴らしい……只者ではない」

「マジでな、わはは!」

 テツオもそう思ったらしい。

 俺もやればよかったとか言っている。


 まぁ、ダークエルフたちの長老なのだから、おそらくはすごい年齢なんだろうが、人間から見れば普通に美人の熟女だ。

 しかも、あんな美人でスタイルのいい熟女は普通はいないし。


 着替えなどをしていると、外が騒がしい。

 ダークエルフの男たちが暴れているようだ。


 どうやら仲間はずれにされたことを怒っているみたいだな。

 この村の男たちは、相手にされていないらしい。


「やかましい!」

「ぎゃあ!」

 男がどつかれている声が聞こえてくるのだが、ここじゃどう見ても男より女のほうが強い。


「なんだか、可哀想な……」

「あんな奴らに、同情するだけ無駄だ」

 女性の一人が吐き捨てた。


「でも、男がいないと困るんだろう?」

 そんな俺の言葉に、一人の女性が首に手を回して抱きついてきた。


「そうだな――子種のためぐらいにしか役に立たん」

 彼女はそう言うのだが、子どもが見当たらない。

 長寿ゆえ、出生率がゼロに近いのかもしれん。


「おい! 抜けがけするな!」

 他の女性も抱きついてこようとするので止めた。

 それを見て、他の女性たちも腰を上げたのだが、そんなことをしていたら終わらないじゃないか。


「キリがないので、このへんで……」

「「……」」

 2人は不満そうな顔をしたのだが、離れてくれた。


「わはは! 随分とモテモテだな」

「飯にしよう」

 外に出ると、すでにいいにおいが漂っていた。

 広場で大きなナベが火にかけられて、なにかがグツグツと煮られている。

 まぁ、おそらくは、昨日のワイバーンだろう。


 ナベの周りに皆が集まってきて食事になった。


「いつもこうやって、皆で集まって食べるのかい?」

「……いいや、祝い事があるときだけだ……」

 長老が、ちょっと気まずそうに答えてくれた。

 顔も赤い。


「長老! なに顔を赤くしてるっすか! ぎゃぁ!」「朝から大年増の赤ら顔とか、キモいっすよ! ぎゃあ!」

 男たちが、言ったそばから女たちにどつかれている。

 これはデリカシーがない。


「あ~、勤めているときに、こういうやつがいたなぁ。本人は悪気はないんだろうけど、人を怒らせる天才なやつ」

「わはは! いるいる」

 笑っている俺とテツオに、汁が入った椀が渡された。

 やっぱり肉がドーンと入っているのだが、日本人的には野菜も少々欲しいところ。


 スープからすくい上げた肉を口に含んだ瞬間、まず舌の上でその柔らかさに驚く。

 繊維はほぐれるように崩れ、歯を立てるまでもなく舌と上あごで押し潰せるほどに煮込まれている。

 口の中いっぱいに広がったのは、肉そのものの旨みだけではなかった。

 スープの脂と香辛料がしみ込み、まるで肉の隙間に濃厚な旨味が染み渡っているかのようだ。


 濃厚でいて舌に重たさを残し、唇さえも油で光らせるような味わいだ。

 俺が提供した、塩とスパイスが役に立ってくれたようだ。


「おお、すごく濃厚な……」

「豚骨スープみたいだな」

 テツオの表現がピッタリだ。


「肉だけじゃこんなにコッテリはならないと思うが……」

「これは、骨髄を煮ているんだ」

「なるほど」

 それじゃ、豚骨スープみたいになってもおかしくない。

 竜骨スープだな。


 スープは絶品だが、日本人なら米が欲しくなるが――。

 ここでおにぎりを出すのは、マナー違反だろう。


 朝からヘビーなスープで腹が膨れたので、出発の準備をする。

 ダークエルフたちからは、引き止められたりしたのだが、テツオの家族も待っているし、先を急ぐ。


 黒い鳥になったシャザームに乗ると、ダークエルフたちが見送ってくれた。


「それじゃ、お元気で」

「いつでも、ここを訪れてくれ」

 長老はそう言ってくれるのだが、シャザームがなけりゃ、ここに来るのはかなり難しい。

 テツオの話では、海を越えないと駄目なようだし。


 ダークエルフたちに別れを告げると、巨大な翼が風を掴み力強く羽ばたくと、俺たちの身体はふわりと宙に浮いた。

 地面が遠ざかり、あっという間に村の全体が見渡せる。

 昨夜、焚き火の明かりと人々の声で満ちていたあの場所が、いまは小さな影のように見え始めていた。


 粗末な住居も、まるで掌に収まる模型のように見える。

 やがて村は濃い緑の海――果てしなく続く樹海の中に沈み込み、ひとつの点のようにしか判別できなくなった。


「よっしゃ、ここからラーラフルまでひとっ飛びだぜ!」

「そこが、テツオが住んでいた所なのか?」

「ああ、結構デカい街だからさ。暮らすには不自由ないぜ」

「俺の住処を探すには、どうしたらいい?」

 とりあえず、なにも知らん異世界だ。

 衣食住を確保しなくては。


 加護で言葉が通じて、マジでよかった。

 いきなり異国に放り出されたら、マジで詰む。


「わはは! とりあえず、俺の所に住めばいいだろ。部屋は空いてるしな」

「いいのか?」

「もちろん」

 彼の話では、結構大きな家に住んでいるっぽい。

 街での地位もそれなりにあるようだ。

 そりゃ、イザルの使徒だしな。


「おおっ!」

 シャザームがスピードを上げた。

 黒い身体が盛り上がり、風よけになってくれる。


「よっしゃ、このまま寝転がってれば夕方には着くだろう」

「結構離れているんだな」

「まぁ、1000kmぐらい――いや海峡を渡らないとだめだから1200kmぐらいあるのか。着くのは暗くなってからかもしれん」

「歩きじゃいつ到着するか解らんし、十分だよ」

「まぁな。俺も最初は歩きとか馬で移動してたんだぜ」

 交通機関は馬や馬車が多いようだ。

 やはり科学技術は発達していないっぽい。


 しばらくすると、潮の香りが強くなってくる。

 下を覗き込むと、眼下には揺れ動く波が広がっていた。


 水面は絶えず形を変え、陽の光を細かな破片に砕いては反射している。

 まるで無数の宝石が波間に散りばめられたかのように、煌めきは一瞬ごとに色合いを変え、白銀から蒼、時には淡い緑へと移ろっていく。

 波が寄せては返すたび、その輝きは線となって走り、砕けてはまた無数の光の粒へと分かれていった。


「まったく人がいないな……」

 沖を見渡しても、航行する船の影はなく、水平線までなにも見えない。

 耳に届くのは絶え間なく寄せては返す波の音と、時折鳴く海鳥の声だけ。

 こういう光景は、元世界じゃ見ることができないな。


 30分ほど飛ぶと、今度は対岸が見えてきたのだが、こちらには港町が見え、それなりに大きな船もある。

 船と言っても木造の帆船で、やはり科学技術は発達していない。


「テツオがモーターみたいなものを作ってたけど、ああいうのは乗り物に利用されていないのか?」

「あれを動かすにはそれなりの魔力が必要になるんだよ」

「ああ、なるほど」

 デカいものを動かすだけのパワーとなると、かなりの魔力が必要となるのだろう。

 ものすごい魔導師か、たくさんの魔導師が集まって魔力を込める必要がある。

 それなら風の力や、動物に牽かせたほうが――となってもおかしくない。


 ダンジョンにあった蒸気機関ならいいかもしれないが、ここのテクノロジーでは、蒸気機関は難しそうだ。


 そのまま街が繋がり、その先にデカい都市が見えてきた。

 巨大な街並みは円形に区画が整えられ、石づくりの建物が幾重もの環のように連なっている。

 外周から中心へ向かって規則正しく広がる石造りの家々は、迷宮のようでありながらも整然とした秩序を感じさせた。


 中心に近づくほど建物は高く、街の心臓部へと吸い込まれるような迫力がある。

 城壁らしき巨大な石の輪郭がいくつも重なり、都市全体を守る堅牢な要塞を思わせた。

 石畳の大通りは放射状に伸び、外から内へ人や物資が流れ込む仕組みがひと目で分かる。


 都市の少し外れ、広大な緑地の中にひときわ目立つ白亜の建造物が佇んでいる。

 荘厳にして気品あふれるその姿は、宮殿か、あるいは神殿か。


「もしかしてここが、帝都って所か?」

「そうだ。人口は100万オーバーって聞いているが、非正規の住民も入れれば多分もっといるだろうな」

 そう言われると、外周部には粗末なバラックのような建物が多い。


「テツオが住んでいる都市はどのぐらいの人口なんだ?」

「多分、50万ぐらいじゃないか。俺が初めて訪れたときよりかなり増えた」

 異世界につながり、たくさんの物資を生むという、「ゲート」という場所ができたせいだという。


 東京にあったダンジョン特区みたいなものだろう。

 物資が集まれば商人もあつまり、景気がよければ人も集まる。


「ちょっと進路変更するぞ。さすがに皇居の上を飛ぶのはマズい。皇族に知り合いもいるけどな」

 シャザームは進路を変えて、回り道をしたのだが、大した時間のロスにはならない。


「石造りの建物ばかりだけど、地震なんかは?」

「まったくないな。門が消えたときに、揺れがあったとか聞いたが……」


 帝都を過ぎると、眼下に広がる大地は、まるで一枚の巨大な絵画のようだった。

 果てしなく連なる穀倉地帯は黄金色に輝き、陽光を受けて穂先が風にそよぐたび、まるで大海原の波のように揺れ動いている。

 その合間には、畑を区切るように流れる川や、鏡のように光を反射する小さな湖が点在し、豊かさと潤いを示していた。


 一方で、その先には濃い緑に覆われた森林地帯が広がる。

 木々は天を突くほどの高さで鬱蒼と茂り、外からは内部の様子を窺うことさえ難しい。

 人の手によって拓かれた形跡はまるでない深い森の奥には濃い影が沈み、そこからは時折、猛獣の遠吠えや、見知らぬ魔物の影が見える。


「これぞ異世界って感じだな……」

「そうか? 俺は見慣れてしまったがなぁ」

 ――人の生活圏から外れた地は、豊饒であると同時に、魔物が支配する脅威の領域でもある。

 空から眺めるその光景は、美しさと恐怖が隣り合わせになった世界の縮図のように思えた。


 まる一日空を飛び、夕方頃に大きな都市が見えてきた。


 眼下に広がる都市は、まさしく物語の舞台にふさわしい光景――そんな感じ。

 巨大な城壁が都市を囲み、その堅牢さは外敵を寄せ付けぬ強固な意思の象徴のように見える。

 城門は黒鉄の装飾が施された重厚な造りで、人や馬車の出入りがひっきりなしに続いていた。


 城壁内に目を向けると、街並みはきちんと区画整理され、石畳の大通りが放射状に伸びている。

 その中心部には大きな屋敷が立ち、広い庭園や噴水を備え、権力者や貴族が暮らしていることを示していた。


 周囲には赤い屋根瓦を持つ瀟洒な家々が整然と並び、都市の核を成す豊かさと秩序が見て取れるのだが、 城壁の外へと目を移せば光景は一変する。

 そこには粗末な板と布で組まれた小屋や、崩れかけた煉瓦の家々が所狭しとひしめいていた。


「おお~城壁に囲まれた街か~! あの高い塔は?」

 中心部に、黒く細長い塔が見える。


「あそこは魔法の塔という組織の本部だ」

 彼の話では、そこに所属している魔導師は全部イザルの信徒だという。


「それじゃ、テツオの知り合いか」

「わはは、一番偉い人とも、ツーカー(死語)だからな」

「ちょっと、魔法で知りたいことがあるんだが……」

「知り合いの魔導師を紹介してやるよ」

「ありがたい」

 この世界の魔法技術や知識を元世界に持ち帰ることができれば、世界が変わる。

 ちょっとワクワクが止まらない――そう、俺は帰るつもりだからな。


 都市から少し離れた場所には、また別の人の集まりが見える。

 そこは不規則に建物が密集しており、中央には木々に囲まれた広場が広がっていた。

 小さな公園のようなその空間には、たくさんの露店が立ち並び、人々が集い、大変なにぎわいを見せている。


 電気もないのに、たくさんの明かりが見えるのだが、おそらく魔法の明かりなのだろう。

 テツオが持っていた、魔法のランプみたいなものが普及しているのかもしれない。


「あの離れた場所にある賑やかな場所は?」

「ああ、あそこが門だ」

 門――中は異世界とつながっており、様々なものが落ちているという場所。

 この世界は、その門から回収したものを資源の源として、経済や生活が成り立っているのだ。


 そのままシャザームは城壁の中に入ると、一軒の屋敷の庭に降りた。

 塀に囲まれた敷地内には、石造りで2階建てのトンガリ屋根。

 いや、屋根部分にも窓があるから、3階建てなのだろうか。


「ここが、テツオの家なのか?」

「そうだ」

 裏には、厩もあるらしい。

 結構デカい。


「それじゃ、もうここがテツオの故郷なんだな」

「まぁ、そういうことになるな。元世界じゃ、クソみたいな人生だったから、ここで違う人生を歩めてよかったと思ってる」

「あ! テツオ~! おかえりなさい!」

 高い声が聞こえたので、そちらを見ると、屋敷の二階から黒髪の女の子が手を振っていた。


「おお、ロロ! ただいま!」

「テツオの子どもなのかい?」

「まぁ、拾った孤児だよ。だが、俺が面倒見ることになった」

 そんな話を聞いた気もするが……。


「テツオ様、おかえりなさいませ」

 玄関の扉が開き、そこから姿を現したのは、金髪の女性だった。

 陽光を受けて輝く金色の髪は、左右に分けて丁寧に結い上げられ、二つのシニヨンにまとめられている。


 彼女の顔立ちは端正で、長い睫毛に縁取られた瞳は澄んだ水晶のように光を宿す。

 白磁のように滑らかな肌は隙なく整えられ、わずかな仕草にも凛とした威厳がにじむ。


 背筋を伸ばして歩み出るその姿は、ただの美しさにとどまらない「格」を感じさせる。

 その存在感は、貴族か、あるいは高位の魔導師か。

 少なくとも、凡庸な人間とは到底思えなかった。


「今、帰った。アルストレイナは?」

「貴族との折衝に赴いております」

「了解」

「テツオ様、こちらの方は?」

「ああ、ウチで世話することになったダイスケだ」

 名前で紹介されたということは、これが普通なのだろう。

 おそらくは、貴族以外に名字がないか。


「ちょっと居候することになりましたダイスケです。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 彼女がペコリとお辞儀をした。


「こいつと、アルストレイナって女は、元敵の聖女なんだ」

「え?! じゃあ、あの迷宮教団の女みたいな……」

「そうそう――あいつは神さまの依代に使えるから、色々と使い道があるってもんよ。違う世界まで行ったけど、ひろいもんだったな」

 突然、異世界に連れてこられて、わけわからんことにコキ使われるのか。

 果たして、精神的に持つかどうか。

 ちょっと気の毒な気もするが――あの女がやってきたことを考えると、同情はできんな。


「あ、あの……テツオ様」

 女はちょっと不満げな表情をしているのが解る。


「わはは、教皇の仲間が増えるぞ。やつも乳が出ればいいがな」

「……」

 なんか不穏な単語が並んでいる気がするのだが――そういえば彼は、「乳搾り」がどうのと、言ってた気がする。


 元世界の常識に当てはまらなくても、この世界のルールに口を出すわけにはいかん。

 テツオの世話にならないと、俺だけで異世界を暮らしていくには、超ハードモードすぎる。

 ここでも、郷に入っては郷に従えだ。


「テツオ~っ!」

 玄関が勢いよく開くと、ぬいぐるみのような生物が走ってきて、テツオに抱きついた。


 俺の目には、赤いチャイナドレスを着た金色の虎のように見える。

 初めて見る生き物に、俺はそのまま硬直してしまった。


 

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