138話 異世界の住民たち
ダンジョンの崩落から免れたと思ったら、異世界に来ていた。
なにを言っているのか解らねぇと思うが――俺だって解らん。
ダンジョンから出ると、俺たちの眼の前に広がる見知らぬ光景。
見知らぬ植物に、見知らぬ動物。
どうみても地球ではない。
シャザームに乗せてもらい、人の営みを探すと集落を見つけた。
そこに住んでいたのは――なんと、ダークエルフたち。
もちろん、初めて見た。
異世界に住んでいたというテツオも初めて見たらしい。
俺たちは、この世界の情報を得るために、ダークエルフたちと交渉を試みることにした。
使うのは――塩。
ファンタジー世界の定番として出てくるが、塩や香辛料というのは貴重品らしい。
この世界がそれに当てはまるのかは、交渉してみないことにはわからないが。
「お近づきの印にどうぞ」
俺はアイテムBOXから出した白い袋を見せた。
透明なビニル袋が気になったが、移し替えるのも面倒だ。
お近づきの印という日本語が伝わるか不安だったのだが、神さまの加護で普通に現地語に翻訳されて通じるらしい。
「こ、これは? 塩か?!」
「そうだ」
ダークエルフたちがわらわらと集まってきた。
袋を破って、舐めたりしている。
もちろん、普通の塩なので、なんの問題もない。
「なんだ、この袋は?」「虫の膜か?」「海の向こうでは、こういう素材があると聞いたことがある」
塩よりビニル袋に興味津々だ。
「なにごとだ!」
ダークエルフたちの円陣が割れた。
その中を通ってきたのは、少々お歳を召した女性。
みんな若く見えるのだが――ファンタジーのお約束どおりエルフやダークエルフは長寿なのだろうか。
威厳を纏った彼女は、歳月が刻んだわずかな皺が目元や口元に浮かんでいるものの、それがむしろ品格を引き立て、視線を外せない美貌を形作っていた。
短く切り揃えられた銀髪は光を受けて淡く輝き、漆黒の衣装はその白銀色をより際立たせている。
しなやかな肢体は無駄のない動きと共に凛とした存在感を放ち、とりわけ胸元の豊かさは、他のダークエルフたちよりも際立っていた。
もちろん、その豊かさが彼女の地位の高さを示すわけではないはずだが――見る者の意識を否応なく奪う、そんな魅力がそこにはある。
俺が見事な丘に見とれていると、テツオが口を開いた。
「ダークエルフのお偉いさんかい?」
「我々の言葉を――」
「どうやら、神の加護を持っているようです」
「なるほど――それで用はなんだ? ここは只人の立ち寄る場所ではないぞ?」
まぁ、歓迎されていないらしい。
「エルフとかダークエルフって排他的なのか?」
「まぁ、そうだな」
テツオが俺の質問に短く答えたのだが、それが耳に入ったのだろうか。
「あんなやつらと一緒にするな!」
大きな耳なので、聴力に優れているのかもしれない。
怒ったということは、エルフとは仲が悪いのだろう。
「わはは、悪い! ちょっと迷子になってしまってな。ここがどこだか教えてほしいだけなんだが……もちろん、代金はそれで」
テツオが、塩の袋を指した。
「うむむ……この村に名前はない」
彼女が渋い顔をしている。
贈り物に手をつけてしまったからには、取引をしないといけないと思ったのかも……。
「ここは島なのか、大陸なのか?」
「――只人たちは、アムラトゥームなどと呼んでいるみたいだが」
渋々だが、長老が答えてくれた。
「アムラトゥーム?」
「知っているのかライ……じゃなくて、テツオ」
「帝国の端っこと、海峡を挟んで隣の島の名前だ。ナントカって王国がある」
「そうだ、向こうに只人の帝国やらがある」
お偉いさん――多分、長老だろうか?
彼女が近くの崖を指した。
その向こうに、海峡と帝国とやらがあるのだろう。
「なんだ! ビビって損をしたぜ! 仕事が終わったんで、俺の家に帰ってきただけかよ!」
ここが、テツオが暮らしていた異世界らしい。
「それに俺が巻き込まれてしまったと?」
「わはは! そうだな、神さまも忙しかったんだろ?」
「そう言われると……」
優先事項がダンジョンの崩壊を押さえて冒険者たちを助けることだとすると、俺のことは後回しになるのは致し方ない。
「おうおう!」「そんなことを言ってるが、お前ら帝国の先遣隊だろうが!」
奥のほうから騒々しい声が聞こえてくると、ドカドカと多人数がやって来た。
黒光りする装備に身を包んだ一団だが、女たちと同じ意匠の黒い鎧。
短い銀髪と整った顔立ちはまるで彫刻のように端正だ。
美人で細身だが、おそらく胸の膨らみがないことからして、ダークエルフの男たちなのだろう。
「お前たちは、引っ込んでいろ」
「しかし、長老!」
やっぱり、長老なんだ。
「只人なんて信用ならねぇな!」「ああん?!」
女たちは戦士のように凛々しいが、男どもはチンピラだな。
「なんだ? 喧嘩売ってるのか? 俺は殺しにきたやつは絶対に殺すマンだぞ?」
「おい、テツオ」
一応、止めてみる。
「あんだゴラァ!」「やんのかぁ?!」
男どもはイキっているのだが、女たちは呆れた顔をしている。
どう見ても、女たちのほうが強そうだし。
「おい、こいつらは殺ってもいいのか?」
「……好きにしろ」
長老が呆れたように呟いた。
「おもしれぇ!」「やんのかこ――」
「シャザームパンチ」
テツオの黒い穴から、闇を凝縮したような巨大な拳が飛び出した。
拳はまるで質量そのものが押し寄せるかのような勢いで振り抜かれ、空気を裂く重低音が轟く。
その一撃をまともに受けたダークエルフの男たちが、5人、いや6人ほど、まるで木の葉のように宙を舞った。
黒い鎧が軋み、銀髪が乱れ、彼らの体は弧を描きながら遠くへ吹き飛んでいく。
着地の瞬間、地面に叩きつけられた衝撃で土煙が上がり、その場の空気は一瞬、緊張と衝撃で凍りついた。
「テツオ、やり過ぎじゃないのか?」
「大丈夫だ。手加減はした。それにエルフどもは、意外と頑丈だからな」
「あんなやつらと一緒にするな!」
やっぱり普通のエルフとは、仲が悪いらしい。
「大元は一緒って聞いたぞ?」
この世界のエルフとダークエルフは、そうなんだ。
「……それよりもだ! 今のは魔法か?! お前たちが乗ってきた大きな鳥もそうだ」
長老もシャザームを見ていたのか。
「これはまぁ、神の奇跡ってやつだ」
「奇跡?!」
「こう見えても、俺は神の使徒なんだぜ?」
「使徒?!」
「ちなみに、こっちも神の使徒だ」
テツオが俺を指した。
「はは……よろしく」
なんて言っていいのか解らなくて、ちょっと間抜けな返事になってしまった。
彼の言う通り、ふっとばされた男たちが唸っている。
死んではいないようだ。
「「……」」
ダークエルフたちと無言で向き合う。
本来なら、異種族との出会いは興奮と好奇心に満ちた瞬間のはずだったが、気まずい雰囲気が漂う。
張りつめた無言の空間を、まるで鋭い刃で裂くかのように、突如として甲高く耳をつんざく咆哮が頭上から降ってきた。
その声は空気を震わせ、胸の奥まで響き渡る。
条件反射のようにダークエルフたちと共に視線を上げると、そこには銀色の鱗に覆われた巨大な影が陽光を遮っていた。
「「ワイバーンだ!!」」
種族に関係なく、声がハモる。
巨大な魔物が両翼を大きく広げ、風を切り裂く轟音を伴いながら、まっすぐこちらへ急降下してくる。
その眼は血走り、前方へ突き出された巨大な鈎爪は、まさに俺たちを切り裂くためだけに存在しているかのように鋭く光っていた。
「武器を構えろ!」
俺たちが降りてきたときに、妙に警戒していた理由がわかった気がする。
ワイバーンと勘違いしたのか。
俺がダークエルフたちのことを考えていると、テツオが攻撃を繰り出した。
「シャザームパンチ!」
上空から弾丸のように迫るワイバーンに対し、シャザームの黒く巨大な拳が、鋭いフックを描いて振り抜かれた。
まるで大地そのものが拳となって襲いかかるかのような重みと速さ。
敵の急降下の速度と、拳のフックの加速が重なり合い、その衝撃は通常の二倍――いや、それ以上の破壊力となった。
鈍い衝撃音と同時に、ワイバーンの体が横へはじけ飛び、空中でキリのように回転する。
翼は無様にねじれ、たくさんの鱗が空へと舞う。
魔物の巨体は村の広場に叩きつけられ、土煙を巻き上げた。
「テツオ、トドメはちょっとまってくれ!」
俺はアイテムBOXから、剣を取り出した。
「お?! ダイスケがやるのか?」
「この世界でもアイテムが使えるのか、ちょっと試してみたい」
「おっと、そうだな。それが使えたら、かなりの戦力になる」
「ぬおお!」
俺が柄を握り直し、呼吸と共に魔力を剣へと流し込むと、金属の切っ先が微かに震え、やがて淡い光を帯び始めた。
その輝きは瞬く間に強さを増し、刃全体を包み込むように脈打ち始める。
「「「おお!」」」
それを目にしたダークエルフたちが、感嘆の声を上げて、互いに視線を交わす。
「ナムサンダー!」
俺の剣先から放たれた雷撃は、まるで生き物のようにうねりながら空を裂き、鎖のごとく絡み合った光の筋となって魔物へと走った。
稲光は青白い閃光を断続的に放ち、空気を焦がす鋭い音が耳を打つ。
「縛鎖の雷!!」
魔法を見たダークエルフたちが声を上げた。
雷の鎖が魔物の巨体に絡みついた瞬間、肉と鱗の間を焼き裂く焦げた匂いが立ち込め、表皮が爆ぜるように弾けた。
魔物は喉の奥から苦悶の咆哮を上げ、筋肉が硬直し、全身が痙攣する。
雷光は途切れることなく流れ込み、まるで獲物を締め上げる捕食者のように、その巨体を容赦なく焼き焦がしていった。
「ふう……やっぱり使えるみたいだな」
ワイバーンは完全に動かなくなったので、仕留めたようだ。
「やったな!」
武器が使えるのが解ったが、この世界にはレベルやスキルもないらしい。
あるのは、神さまからもらえるという加護だけ。
デカい魔物を倒しても、なんの変化もない。
それぞれの種族に、それぞれの神がおり、個々に加護などを与えているようだ。
「お前らは魔導師なのか?!」
ダークエルフの長老が驚いて、俺たちの所にやって来た。
「俺は違う。魔法はこの剣の力だ」
「……魔剣の類か」
「まぁ、多分」
ダンジョンのドロップアイテムと言っても、解らんだろうし。
魔法が使えるから、魔剣と言えば魔剣だ。
俺はブンブンと剣を振り回してみた。
タダのおっさんのときよりは、体力が全然違う。
ダンジョン最終決戦でのレベル80オーバーには程遠いが、一番最初のレベル49ぐらいの体力はありそうな感じ。
これも神さまからもらった加護なのか、それともあのダンジョンのレベルの影響が残っているのかは解らない。
「ダイスケ、あのワイバーンはどうする?」
「まぁ、別にいらないかな……」
「そうだよなぁ」
「あ、魔石は欲しいかな」
「長老さんよ。あのワイバーンがほしけりゃ、やるよ。魔石だけくれ」
「え?! ワイバーンだぞ?!」
「いや、俺たちドラゴンも倒してるしなぁ……」
「「……」」
テツオの言葉に、ダークエルフたちが顔を見合わせている。
そのあと、長老が一歩前に出て、腕を水平に組んで頭を下げた。
「お前たちのような強者に無礼を働いてしまった、我々を許してほしい」
「ああ、大丈夫ですよ。気にしないでください」
「わはは、気にするなって! まさか、こんな只人のおっさんたちが強いなんて思わねぇもんなぁ」
「「……」」
ダークエルフたちが、困った顔をしている。
本当にテツオの言う通りだったに違いない。
「お前たちは、村を救ってくれた。そのうえ、ワイバーンまで――なにもない村だが、もてなしをさせていただきたい」
長老が再び頭を下げた。
ちょうど見える胸の谷間が気になる――じゃなかった。
「テツオ、どうする? 急いで家に帰りたいんじゃないのか?」
「いやまぁ、家が心配ではあるが、守ってくれているやつらもいるからなぁ。それより、ダークエルフとも仲良くしたいし……」
珍しい種族だし、仲良くなれるなら――という思いもあるのだろう。
みんな巨乳で、美人ぞろいだしな。
「テツオがいいなら、俺もいいぞ」
「ありがたい! 2人に百万の感謝を!」
ダークエルフたちが礼をした。
「紹介させてくれ――俺がダイスケ。こっちはテツオだ」
「よろしくぅ~」
「長老! こんな只人の連中なんてよぉ!」
茶々を入れにやって来たのは、男たちだ。
「黙れ! お前らがワイバーンを仕留められるのか?! 先ほども、この男が手加減してくれねば、命を落としているのだぞ?!」
あれを食らってピンピンしているってことは、人間よりは丈夫のようだ。
「「……」」
長老の喝で、男たちは渋々引き下がった。
ここに泊まることになったので、早速ワイバーンを解体する。
せっかくの獲物が腐りでもしたらもったいない。
「魔法の袋は持っているのかい?」
「大丈夫だ」
テツオが言う魔法の袋は、俺のアイテムBOXに相当するものだ。
この世界では、魔法を使って袋の中の空間を拡張することができる。
すごい技術だ。
八重樫グループも、テツオから魔法の袋を購入したが、解析して同じものを作ることができるだろうか。
本当に実現できたら、あの世界も根本から変わってしまうことだろう。
最初は、限られた人しか所持はできないだろうが。
普通なら、こんなデカい魔物を解体するだけでも大変だが、テツオの黒い穴がある。
固い鱗だろうが、問答無用で両断する。
「「「おおおっ」」」
ダークエルフたちから、どよめきが起こる。
首と尻尾、翼、脚、とバラバラにされて、胴体が裂かれて内臓を取り出す。
すぐに魔法の袋に入れられて保存されるようだ。
内臓は、どこか遠くに捨てられるらしい。
「それなら、俺の収納に入れておくよ。帝国に帰るなら海の上を通るんだろ?」
「それよりも、俺の穴に捨てれば簡単だぞ?」
「ゴミを捨てて大丈夫なのか?」
「ヘーキヘーキ」
テツオは自分の穴をゴミ箱と呼んでいたようだ。
本当に最初はゴミを捨てていたらしい。
「なにからなにまで世話になって、まったくもって感謝しかない」
長老がかしこまっているが――ついでだし。
「まぁまぁ、袖振り合うも他生の縁って言いますし」
「「「……」」」
なんだか、ダークエルフたちが固まっている。
俺はすぐに察した。
「あ、いけねぇ。日本のことわざを言っても通じないよな」
「わはは、ダイスケ大丈夫だって」
「え?」
テツオと話していると、長老が神妙な顔をした。
「我々の教義にも精通しておられるとは――このマイマイ、感服いたしました」
長老が頭を下げた。
「え? どゆこと?」
「わはは、神さまの自動翻訳で、種族の言語や比喩などに変換されるんだよ」
彼の話では、その種族の聖書や教義の一部に変換されることが多いという。
「へ~、そうなんだ。そりゃ便利だな」
ちょっとしたことだが、明らかにダークエルフたちの信頼度がましたような感じがする。
完全に仲間を見る目になっているし。
こりゃすごい。
やっぱり、どんな異種族でも言葉が通じるというのはデカいよなぁ。
ダークエルフの人数は女が20人、男が10人ぐらい。
男は、女たちに蹴飛ばされて働いていた。
基本的にはグータラな連中らしい。
これだけの人数がいると、解体もスムーズに進み、暗くなる頃にはすべて片付いていた。
「洗浄!」
ダークエルフのひとりが、魔法を使うと、地面の血糊が固まった。
それを集めて、テツオの黒い穴に放り込むと全て終了だ。
マジで便利。
アイテムBOXがなくなったら、黒い穴でもいいから欲しい。
収納はこの世界にある魔法の袋でも代用できるし。
その前に、俺は帰れるんだろうな。
テツオは、この世界に骨を埋めると決めているようだが、俺は違う。
それに――神さまとしても、地球に使徒がいないと困るだろうから、絶対に戻れると思うんだよな。
地球でも勢力を広げるために、テツオを送り込んできたのだろうし。
まぁ、なんとかなるはず。
暗くなると、広場で火を燃やして、早速解体したワイバーンを焼いて食うことになった。
他の料理はなくて、ひたすら焼いて食う。
野趣あふれるとはこのことだ。
早速、プレゼントした塩が活躍することになったが、俺とテツオも食べるので、胡椒やミックススパイスも出した。
彼も、日本でスパイス、カレールゥなどをしこたま買い込んだようだ。
異世界では、簡単に手に入らないらしいので、当然かもしれない。
「「「うめぇぇぇぇ!!」」」
ダークエルフの男たちが、肉を食ってキャッキャしている。
初めて口にしたワイバーンの肉は、思わず目を見開くほどの滋味があった。
噛んだ瞬間、獣肉特有の濃厚な旨みと、鳥肉のような軽やかな舌触りが同時に広がる。
ジビエの力強さと、上質な鶏肉の柔らかさを併せ持ったかのようだ
肉繊維はしっかりしているのに、不思議と歯切れが良く、口の中でほろりと解ける。
脂はしつこさがなく、淡い甘みを残して喉を滑り落ちる。
「美味いな。テツオは食ったことがあるのか?」
「いや、ないな。この世界でワイバーンやドラゴンなんて、滅多に仕留められるようなものじゃないからな」
「そうなんだ。それじゃ、アイテムBOXに入っているものも高く売れるかもな」
「ドラゴンなんて仕留めたら、国が買えるぐらいの金が動くって言われているからな、わはは!」
レベルによって、身体や能力が強化されて、巨大な魔物がガンガン湧く――あのダンジョンは、やはりゲーム内のような特殊な空間だったようだ。
「はぁぁぁぁ……こんな美味いもの食ったら、普段の食事がつらくなるぜぇ……」
あまり働いていなかった男たちがブツブツ言っている。
「時間があれば、たまに物資を持ってきてやってもいいぜ」
「本当か?!」
男たちの顔が明るくなる。
「まぁ、シャザームを使えば、1日で来られるしな」
「やったぜ!」「他のものもほしいな!」
「それはいいが、金は払えるんだろうな? もしくは、ダークエルフの特産品とか」
「た、只人の金なんて持ってねぇし……」
「それじゃ、駄目だな。俺も慈善事業でやるわけにはいかねぇし」
「それならいいものがある」
もくもくと肉を食っていた長老が口を開いた。
「なんかあるのか?」
「こいつらを連れていけばいい」
長老が男たちを指した。
「あ~なるほどぉ」
他の女たちも頷いているので、反対意見はないらしい。
どんだけ嫌われてるんだ。
「ちょ!」「長老ぉぉぉ!」
「そりゃいいな! 見てくれは最高だから、貴族の女たちの愛人やら執事として需要あると思うぜ」
「それじゃ、決まりだな」
「決めないでくださいよ~!」「長老!」
「やかましい!」「売られたくないなら、ちょっとは役に立て!」
「「「……」」」
女たちにどやされて、男たちはしょんぼりとなってしまった。
まさか、本当に売るつもりではないだろう。
発破をかけるために、テツオを利用しただけだと思われる。
食事が終わると、女たちが円陣を組んでなにか話し合いが始まった。
俺とテツオはコーヒーを飲みながら、それを待つことに。
辺りは暗いが、夜目が利くのはそのままらしい。
よく見えるし、明かりがあまりない異世界なら、これはありがたい。
「なにを話し合ってるんだろう?」
「俺たちをどこに泊めるとか――そんな感じじゃね?」
「別に外でもいいんだが……」
「そうだな――でも、女たちが相手してくれるかもしれないぜ?」
「え?! そんなことあるのか?」
「わはは! この世界は、それが結構ある」
テツオと話していると、女たちの話し合いが終わったようだ。
長い銀髪の一人の女性の家に案内される。
中に入ると、彼女が黒い装備を外し始めた。
暗闇の中に、輪郭だけがほのかに浮かび上がる。
浅黒い肌の裸体は、まるで夜そのものに溶け込んでいるかのようで、普通の人間の目ならば決して捉えられないはずだが、今の俺には、その全てが鮮明に見えていた。
肌は影の奥に沈みながらも、かすかな光を受けて金属のような光沢を帯び、引き締まった筋肉の起伏を際立たせている。
しなやかな腕や脚の線は戦士の証のように力強く、それでいて曲線の柔らかさを失っていない
腰から胸へと続くラインは流麗で、鍛錬に裏打ちされた美が宿っていた。
こうなってしまったら、もう異世界でもやることは一つ。
裸と裸のぶつかり合い――無制限1本勝負だ。
姫の顔がチラリと浮かぶのだが――郷に入っては郷に従え。
ここまでお膳立てされて断ったら、彼女たちの面子を潰してしまうかもしれないし……。
――と、いうのは言い訳で、ダークエルフと勝負できるなんて、やっぱり男としては――。
逃げるわけにはいかんでしょ。




