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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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134話 敗退


 ついに俺たちは、ダンジョンの10層にやって来た。

 そこは、深い地面の裂け目の下。

 テツオとシャザームがいなけりゃ、ここまでやって来るのは不可能かもしれない。


 それでも冒険者たちは、ここまで到達するのだろうか?

 俺たちを出迎えてくれたのは、黄金の身体と3つの頭を持つドラゴン。

 さすがに、相手の戦闘力も解らないので、俺とテツオで倒したのだが――。


 なんとかこの階層の敵も倒せるんじゃないかと思った矢先。

 白いモヤの中から、悪意の塊のようなものが近づいてくる。


 俺の背中が泡立ち、思わず叫んだ。


「みんな、逃げろぉぉ!!」

「ダーリン?!」

 なにごとかと思った姫だが、すぐに俺が叫んだ意味がわかったようだ。


「ダイスケさん!」

「ああ、やつだろう」

 俺と姫たちが、9層に飛ばされたときに遭遇した、地面の底から湧き出てくる悪意と恐怖。

 間違いなくやつだ。


「ダーリン! いったいなにが来るんだ?!」「ダイスケさん!」

 イロハとサナも異常さに気がついたようだ。


 俺たちが逃げ出そうとした、その刹那――白いモヤがまるで怒りを爆発させたかのように、眩い光で満ちあふれた。

 真っ白な光は一瞬で視界を奪い、世界の輪郭を溶かしていく。


 突然、それが黒い壁で遮られた。

 巨大なシャザームの手が俺たちを覆ったのだが――。


 閃光とともに壁が吹き飛ばされて、姫たちが巻き込まれたのが見えた――。

 見えた気がしたのだが、すでに彼女たちの姿はそこにはない。


「姫ぇぇぇぇ!」

 彼女たちがいたらしい、その場所へ手を伸ばそうとしたとき、さらなる閃光が俺を襲った。


「ダイスケさん! 聖なる盾(プロテクション)!」

 俺の前に立ち塞がったのは、サナだった。


「サナ! 止めて、逃げるんだ」

 彼女の防御魔法の詠唱が終わると同時に、目の前に半透明の壁が出現した。

 淡く青白い光を帯びたその魔法障壁は、空間にぴたりと固定されていたのだが、その静寂は一瞬で破られた。


 白いモヤの奥から、怒涛のような光の濁流が轟音とともに押し寄せてくる。

 波のようにうねるその光は、刃のように鋭く、焼き焦がすような圧力と熱を孕んでいた。

 防御壁にぶつかった瞬間、破裂音と共に光が弾け、魔法障壁全体がきしみを上げて揺れた。


 表面には瞬く間にひびが走り、蜘蛛の巣のように細かく割れていく。

 削り取られるように魔力の輝きが弱まり、透明だった壁が曇りガラスのように濁っていく。

 魔法の縁からは、蒸気のような魔力の煙が立ちのぼり、限界が近いことを告げていた。


「サナ!」

「い、嫌です!」

 再び黒い壁が俺たちの前に覆いかぶさった。

 シャザームの手だが、一瞬で吹き飛ばされて、同時にサナの防御魔法も限界を迎えた。


 次の瞬間、俺の全身に灼熱の奔流が襲いかかる。

 瞬時に装備が溶けて、肌に張りついた。

 視界が白く染まり、目玉の水分が一気に蒸発――視界は一瞬にして暗転。

 瞼の裏側に焼きついた光の残像だけが残る。


「サナぁ!」

 俺の眼の前にいたはずの、彼女がどうなったのかすら解らない。

 肉が焼け焦げる匂いが自分のものだと気づいたとき、脳がようやく現実を理解した。

 まるで全身が鉄板の上で焼かれているかのような痛みが、時間差で押し寄せてくる。

 神経が灼かれる感覚に耐えきれず、俺は喉が裂けそうになるほどの絶叫をあげた。


 叫んだあとに、息を吸い込めば、身体の中から焼ける。

 中と外から身体を焼かれた俺はその場に倒れ込んだ。


 ふと、突然世界が静かになる。

 身体を焼かれた痛みもなくなったのだが、音もなにも聞こえなくなった。

 自分の心臓が動いているのかすら、解らない。


 五感がすべてなくなり――まるで、脳みそだけが暗闇の中にポツンと浮かんでいるような状態だ。


 これが死んだということなんだろうか?

 それとも、高レベルなので簡単には死ねないということなのだろうか。

 死んだ冒険者は、こういう状態で漂っているのだろうか?

 いや、もはやそんなことはどうでもいい。


 姫たちがどうなったのか、俺にはもう知るすべもなくなった。

 視界はすでに闇の中で、まぶたの裏に焼きついた最後の光景すら、もはや遠い記憶の残骸にすぎない。

 叫び声も、足音も、泣き声も届かない――耳も灼かれ、鼓膜が焼け落ちたのか、世界はただ無音だった。


 彼女たちを守れなかった自分を責める想いが胸の奥からこみ上げてくる。

 後悔と悲しみが、内側からあふれ出しそうになる。

 涙を流したかった。


 その「涙」を湛える目玉は、すでにこの顔から消えているのかもしれない。

 それでも、感情だけは生きていた。

 痛みも、悔しさも、恐怖も――肉体が焼かれ、器官が失われても、心だけはまだ、ここに取り残されていた。

 目もなく、声も出せず、ただ焼け焦げた身体の中で、彼女たちの運命を想像しながら、後悔という名の地獄がここなのだ。


 俺は果てしない無感の暗闇の中で、考えるのを止めた。


 ------◇◇◇------


「ダイスケ!」

 突然、感覚が戻った。


「うわぁぁぁぁ!」

 寝ていたので、飛び起きると体中をまさぐり確かめる。

 ドロドロに焼け焦げていた皮膚も、どうにもなっていない。


「ダイスケ、落ち着け!」

 俺の隣には、テツオがいた。


「ハァハァ……なんだ、なにがどうなって……」

 意味不明で不可解なできごとに、俺は身体を丸めた。

 俺は寝ていたのか?

 まさか、全部夢だった? ――いや、そんなはずが……。


「とりあえず、落ち着け」

「……ここは?」

 俺は頭を抱えて、横をチラ見した。


「ダンジョン温泉のテントだ……」

「……意味が解らん……!」

 俺は飛び上がった。


「姫たちは?!」

「大丈夫だ! 彼女たちは無事だから、落ち着け!」

「無事……?」

 言葉にしてみたが、口に出した瞬間、自分の声さえ他人のもののように聞こえた。


 いったいどういうことなんだ。

 理解を拒む光景が起こっている。

 常識も理屈も吹き飛んで、ただただ現実がねじれていく。

 心臓が早鐘のように鳴り、思考が追いつかない。


 額から冷たい汗が流れ落ち、視界の端がチカチカと点滅する。

 頭の奥が締めつけられるように痛む。

 脳がこの事態を理解できず、処理を拒んでいるのがわかる。

 現実がぐにゃりと曲がり、突然地面が迫ってきて手で押さえた。


「……意味がわからん……」

 俺は震える手で頭を抱え、崩れ落ちそうな膝をなんとか支えながら、その意味不明な現象から目を逸らすこともできず、ただその場にしゃがみ込んだ。

 とりあえず身体はなんともなかった。

 敵の攻撃で、装備も身体もズタボロになっていたはずだ。


「大丈夫か?」

「……聞いてくれ――俺たちは10層まで行って、黄金のドラゴンと戦ったりしたんだ」

「解ってる。それは事実だ」

「……事実? ……事実?! 姫たちは?!」

 俺はテツオに掴みかかった。


「大丈夫だって! 落ち着け!」

「本当なのか?」

「マジだ……」

 再びしゃがみ込む。

 あれが事実だったというのだが、俺の身体はなんともない。

 姫たちも無事……。


「なにがなんだか……」

「混乱するのも解るが、今説明する」

「……どういうことなんだ?」

「死に戻りって解るか?」

「……死に戻り?」

 俺はテツオの顔を見つめた。

 冗談を言ってるようには見えないが……。


「そうだ」

「漫画やアニメで、死んでもセーブ地点まで戻るみたいな……」

「そう、それだ。俺が神さまからもらった、奇跡の一つだ」

「本当なのか?」

「マジだ、マジ」

 テツオは死んではいないが、俺たちが全滅したので、一旦セーブ地点まで戻ってきた――ということらしい。


「それじゃ、みんなもパニックになっているんじゃ……」

「いや、戻ってきたのは俺たちだけだ」

 彼の黒い穴の中に入れば、一緒に戻れるようだ。

 あの五感がなくなる感覚は、シャザームの中なのか。


「テツオと俺以外は、あの記憶はないのか?」

「そういうことになる」

 このまま進めば、10層で同じことになるわけか。


「こんなことに巻き込んでしまって、スマン」

 テツオが胡座をかいて座ると、頭を下げた。


「いや、助っ人を頼んだのは俺たちだし――あの敵が、テツオの目標だったのか?」

「遭遇してみないと解らんかったが、あれで間違いないだろうな」

「あんな敵と戦ってきたのか?」

「まぁな」

 使徒は大変だと聞いていたが、これほどとは。

 そういえば以前、彼はなん回も死んでいると話していたが……異世界にも蘇生はないと言っていた。

 テツオもどうやって生き返っているか、話すのを嫌がっていたが、これを使っていたのか……。


「なん回も死んでいるって話していたけど、これか……」

「まぁな……あまり人には話したくない経験だろ?」

 確かにそうだ。


「それもそうだが……冒険者がどうあがいても、あれに勝てるとは思えんが……」

「まともにぶつかっては無理だろうな。ダイスケが降りたいなら、俺は構わん。俺だけでゾンビアタックをするからな、わはは」

「マジか……」

「まぁ、ダイスケはお嬢ちゃんたちを説得して、あそこに近づけないようにしたほうがいいだろうな」


 姫たちが説得に応じるだろうか?

 無理だと伝えると、余計に突っ込んでいきそうな気がするし……。

 もうあんなシーンは見たくない。


 テツオは死に戻りという能力があるようだが、普通は死んだらそこで終了だ。


「……オッサンとしては、若い子にあんな目に遭わせるわけにはイカンだろ」

「まぁな」

「そうなれば――やっぱり俺がやるしかない」

「やるのか?」

「ああ」

「そうか」

 彼が俺の肩をバンバンと叩いてきた。


「一つ聞きたいんだが」

「なんだ?」

「黒い穴の中に入ると、五感がなくなったりするのか?」

「ああ、人によっては、かなり堪えるようだな。俺は慣れたが……」

 やっぱりそうか。


 突然、黒いものがテツオの背後から出てきて、女性の形になった――シャザームだ。

 俺に近づいてくると、大きな胸を持ち上げて俺に迫ってくる。


「おい、なんだい?」

「おっぱい揉んで、元気出せって言ってるんだよ」

「はは……大丈夫だよ――ありがとう」


 湿気が染み込んでくるテントの外に出ると、ダンジョン温泉。

 本当に死に戻りしたようだ。


 姫たちが寝ているテントに向ってそっと入口を開ける。

 4人がすやすやと寝ていた。

 イロハは大股開けて腹をかいていたが。


 その姿を見て、俺は胸をなで下ろした。

 普通なら、「夢でよかった」なのだろうが、ところがどっこい、コレが現実。

 このまま10層に行ってしまえば、同じ悲劇が待ち受けている。


 テントに戻ると、皆が起きる時間になっていた。

 死に戻ってきた時間が朝に近かったのだろう。


「そうだ、朝飯の準備をしないと」

「それじゃ、詳しい計画は上に戻ってからってことで」

 テツオの真剣な眼差しに、俺はうなずいた。


「ああ」

「わかった」

 外に出て朝食の準備をしていると、いつものようにカオルコが起きてきた。


「おはようございます」

 いつもと同じ彼女だ。

 あのシーンを見てしまって、思わず抱きしめてしまった。


「だ、ダイスケさん! どうしたんですか?!」

「いや、悪い……」

「いいえ、あの――ダイスケさん、元気がないような……」

「いや……」

 感極まってつい抱き寄せてしまったが、どう答えていいのか解らん。

 まさか本当のことを話すわけにもいくまいし、死に戻りなんてどうやって説明すればいいんだ。

 自分でやったことに困っていると、突然体当たりされた。


「ダイスケさん!」

「ぐえっ!」

 体当たりしてきたのは、サナだった。

 俺を見つめる、彼女の瞳。

 自分の命を顧みず、俺の前に立って敵の攻撃に耐えてくれた。


 思わず、目頭が熱くなってしまう。


「サナ、スマン――ありがとうな」

「ダイスケさん! どうしたんですか?!」

「そうですよ! 変ですよ!」

 サナとカオルコに詰め寄られてしまうが、説明しようがない。


「いや、スマン、なんでもないんだ」

「そんなわけないですよね?!」

 サナの当たりがキツイ。

 そこにイロハがやって来た。


「なんだよ~! 朝からかよ~! あたいも混ぜてくれよ~!」

 いいところにきてくれた。


「わははは!」

 ごまかすために、イロハを頭の上に持ち上げた。


「わぁ! なんだなんだ?!」

「おりゃぁぁぁ!」

 彼女の大きな身体を、頭の上で水平にぐるぐると回す。


「いつもより、多く回しております~」

「あははは! なんだよ~ダーリン!」

 上手くごまかすことができた。

 イロハに感謝だ。


 そのあと起きてきた姫にも抱きつきそうになったが、自重した。

 また、問い詰められてしまうからな。


 そういえば――あのときハーピーたちはどうなったんだろうな。

 やっぱり巻き込まれてしまったのかもしれない。

 可哀想なことをしてしまった。

 場所は解ったから、今度は彼女たちは連れていけないな。


 ------◇◇◇------


 ――それからは、今まで通りにダンジョンのアタックをして、補給のために地上に戻ってきた。

 俺の記憶には、皆が一瞬で全滅したあのシーンがこびりついているが、彼女たちは普段どおり。

 この先、あんな目に遭うなんて、夢にも思っていない。


 ダンジョンの攻略が上手くいって、みんな上機嫌だ。

 オッサンとしては、女の子たちのこの笑顔を守らなくてはならない。


 物資を集めて、彼女たちはすぐに次のアタックをしたいと言い出す。

 これも前と同じだが、俺はイマイチ調子が乗らないと言って、少し休みをもらうことにした。


 もちろん、嘘だが。


 散歩に出かけると言うと外に出て、テツオと待ち合わせた。

 こういうときには、アイテムBOXは便利だ。

 手ぶらで家を出ても、収納に全部装備が入っている。


「よし、行くか」

「よっしゃ!」

 テツオが気合を入れる。


 ダンジョンに入ると、装備を装着し、テツオのシャザームに乗る。

 これでダンジョンの9層までひとっ飛び。

 黒い絨毯に乗って、暗闇の中を滑るように進む。


 横をチラ見する。

 いつもかしましい女の子たちがいないのが、ちょっと寂しい。


「いつものうるさいのがいないと、ちょっと寂しいよな、わはは」

 テツオもそう思っていたらしい。


「あのデカいのが、シャザームの本体なのか?」

「もうちょっと魔力を溜められればいいんだが……あの戦闘で、ちょっとダメージが入っちまったし……」

「白いモヤでよく解らなかったが、敵の正体はなんなんだ?」

「多分、あれが敵の親玉――邪神だな」

「邪神? 邪神ということは、神さまなんじゃないのか?」

「まぁ、そうだな。向こうから言わせれば、ウチの神さまが邪神だということになるかもだが、わはは!」

 信徒は自分が信じている神さまこそ、正義だと思っているだろうしな。


「そんなの、人間が勝てるものなのか?」

 俺たちが遭遇したアレは、とても敵うとは思えない代物だったが。


「大丈夫、実際に俺が倒しているからよ」

「マジか」

「まぁ、俺の死に戻りを使っての、ゾンビアタックみたいな感じになるが……」

「やっぱり、そういうことになるのか?」

「大丈夫だ。手はある」

 彼が真剣な顔をして、人差し指を立てた。


「それは?」

「まず敵の聖女を仕留める」

 聖女? たとえば、サナみたいな……。


「するとどうなる?」

「聖女や使徒ってのは、神さまの分身みたいなもんだ。そいつを仕留められると、大幅に力が失われる」

「う~ん? 多分……あの女だよなぁ。テツオも10層で見ただろ?」

 俺たちがダンジョン内でなん度も遭遇した迷宮教団の女。


「ああ、あいつか」

「おそらくは……このダンジョンを自在に移動できるようだったし」

 冒険者を魔物に変えたりな。

 ここの管理者に近い力がないと、無理だと思われるが。


「上位の権限が与えられて、あんな場所で普通にいられる――まぁ、間違いねぇだろう」

「そうか……」

「それに天使もいたようだしな」

「天使? 天使というのは?」

「聖女の尖兵となるやつだな。となりにいた小さいやつがそうだろう」

 レンのことか。

 彼女も完全に敵になってしまったのか?

 俺が手を下さなければならないのだろうか……。


 いや、姫やサナとレンのどちらを選ぶか? ――となれば、考えるべくもないのだが。


「……」

 悩む。


「サナちゃんの様子からすると、あの小さいのは、知り合いだったのか?」

「そうなんだ。短い間だったが、一緒のギルドでやっていた」

「そうか――つらいだろうが、やらなきゃやられるぞ?」

「解っている。解ってはいるが……」

 そう簡単に割り切れるものでもない。


「さて――どうやって、あの女をおびき寄せたもんか……」

「どのみち、もうちょっと俺のレベルアップをしないと駄目だ」

 深層攻略で、レベルアップした分は、死に戻りでパーになっちゃったからな。

 記憶は残っているのだが、レベルなどは、セーブ地点に戻ってしまったらしい。


「9層、10層でドラゴンを殺しまくるか」

「それが一番早いだろ」

 あの女は、ダンジョンの魔物を殺されることを憎悪していた。

 ドラゴンを殺しまくれば、釣られて出てくるんじゃなかろうか。

 巻き込まれるダンジョンの魔物たちには可哀想だが。


「よし! 決まったな!」

 暗闇の中をシャザームに乗って先を急ぐ。

 たくさんの冒険者たちの頭上を越えて一直線に深層を目指した。


「お嬢ちゃんたちは、いつ気づくと思う?」

「夕飯に戻らん時点ですぐに追ってくるかもしれん」

「愛されてるなぁ、わはは!」

「彼女たちに嫌われるかもしれんが、男ならやらねば駄目なことがある」

「ま、そういうことだな」

 姫たちが追ってきても、シャザームがいなきゃ、4層以降は徒歩だ。

 簡単には進めない。


 4層を通り過ぎ、5層に到着。


「ギャ!」「ダイスケ!」

 俺たちが乗っている黒い絨毯と平行してハーピーたちが飛んでいる。


「お前たち、今回はつき合わなくてもいいぞ!」

「深層を攻略して、だいぶマップも掴めているからな」

 死に戻りしてしまい、経験値はなくなってしまったが、どういう仕組みか記憶は残っている。


「ギャースケ!」「ダイスケ!」

 ハーピーたちがシャザームに乗ってきた。


「は~、しょうがないなぁ。危なくなったら、すぐに逃げるんだぞ?」

「ギャ!」「ダイスケ!」

「愛されてるなぁ、わはは」

「これは違うだろ」

 ただ、俺が持っている食い物に集まってきているんだと思う。


 そのまま7層に到着すると、迷路を抜けて中ボスの所に向かう。

 他の冒険者がいるのか、戦闘音が聞こえる。

 悪いが、今日は助けてやれん。


 そのまま中ボス部屋に到着した。


「ゴアァァ!」

 今回も中ボスはレッサードラゴンだが、ここの敵だと俺の経験値にはならないので、サクッと倒させてもらう。


「おっしゃ!」

 テツオがシャザームでひっくり返して、彼の黒い穴を使って切り刻む。

 ドラゴンの硬い鱗もお構いなしだ。

 切れないものはないらしいので、ドラゴンの鱗も関係ない。


 最後にシャザームの黒い手がかばねの中に潜り込んで、魔石を握ってきた。

 血まみれの魔石が俺の前に差し出される。


「ほい、これでいいんだろ?」

「おお、サンキュー」

 魔石が武器になると解ったので、こいつに魔力をぶち込んで爆薬にする。

 ラスボスの身体にくっつけるための接着剤も用意してきた。


 とりあえず、アイテムBOXから缶コーヒーを出して一服する。


「テツオのその黒い穴で、ラスボスを切り刻めばいいんじゃないのか?」

「あの手のやつは、簡単に蘇生するんだよなぁ」

 缶に口をつけながら、彼がうんざりした表情をする。


「それじゃ、蘇生しなくなるまで切り刻むとか……」

「魔石がエネルギー源になっているから、最初にそいつを破壊すればいい」

「なるほど! その作戦でいくか」

「まぁ、その状態まで持っていくのが大変なんだが……はは」

 彼が苦笑いしている。

 多分、そういう経験があるのだろう。


 テツオは死に戻りの能力があるから、死なないのだろうが、俺は違う。

 彼に助けてもらわないと、その地点でジ・エンドだ。


 一休みすると、そのまま8層を飛ばして、9層でドラゴン狩りを開始する。

 ドラゴンたちにはちょっと可哀想だが、俺の経験値の糧になってくれい。


 攻略は簡単だ。

 テツオがシャザームでひっくり返して、俺がナムサンダーで止めを刺す。


 ドラゴン・ゾンビは電撃が効かないので、シャザームで直接魔石を取り出してもらい、仕留めてもらった。

 経験値にはならないが、魔石だけあればいい。

 苦労して倒すより、他のドラゴンを仕留めたほうが早い。


 まるで感情を失った機械のように、俺たちはひたすらドラゴンを倒し続けた。

 恐怖も興奮も、もうとうに消えている。

 残っているのは、冷え切った集中力と手順通りの動作だけだった。

 いや、女の子に危ないことをさせたくないという、オッサンの信念だけは残っている。


 電撃で煙を上げるドラゴンの巨体からシャザームが鱗を剥がし、俺の剣で急所を正確に刺して、苦しむ間も与えず絶命させる。

 テツオの黒い穴でドラゴンをぶつ切りにして、アイテムBOXに無造作に放り込む。


 ドラゴンを倒す――解体する――収納する。

 俺たちはひたすら繰り返した。


 レベルアップすると、9層の割れ目から10層に降りて、黄金三頭龍を仕留める。

 ちょっとでもヤバい気配がしたら、すぐに9層に撤退。


 そんなことをしていると、俺のレベルは80を越えた。


 9層でテツオといっしょに飯を食っていると、異様な気配が近づいてきた。


「ギャースケ!」「ダイスケ!」

 ハーピーたちも反応している。


「来たか?」

「多分な……」


 ひたひたと、なにかが暗闇の中から近づいてくる。

 俺たちを殺した、あのヤバい敵ではない。


 テツオとふたり、漆黒に目を凝らした。



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