第103話 少しずつ動き始める。
「叔父上、大事な要件が出来たとは、どのような事ですか。
勿論、ディアとの晩餐を諦めねばならぬ程の重大な事でしょうね?」
アレスの私室へと入室するなり発した開口一番にアレスの眉間に皴が寄る。
「クラウが可哀想になってくるな……」
眉間の皴に指を当て伸ばしながら、ブスッとした顔の甥に手招きして座るように促す。
アレスと二人きりと分かる時は、いつものような冷酷な少年皇帝の顔など見せた事はなく、子供っぽい仕草すらするシュヴァリエ。
「本当ですよ。私との晩餐が無くなればディアは一人で食事をしている事でしょう。
――――可哀想なディア。」
せつなく憂う表情で溜息を零すシュヴァリエ。
美しい少年の容貌でそう口にされると、相手側は罪悪感を感じるのだろうが……
アレスに指定された椅子に座って長い脚を組み、肘掛けに肘をついた不遜な態度で全て台無しである。
「そういう意味の可哀想ではないのだがな。」
アレスは呆れた顔で甥を見つめた。
「では本題に入るとしようか。」
アレスもシュヴァリエと対面している椅子に座った。
「ネズミを教会に潜入ですか。」
「ああ、既に潜入済みだ。まずは枢機卿の周囲の情報を探らせるが……
たいした情報は得られないだろう。あの男もバカではないからな。
だから、今現在の様子を探らせる程度になるだろうが、今の所は何もないな。
娘に手を焼いてるとかいうどうでもいい情報だけは入手したが。」
「娘……? ああ、アレか。」
あの愚かな女か。とシュヴァリエはクラウディアに不敬を働いた女を思い出す。
「後、お前が知りたがっていた、クラウの父親の顔を知る人物が幾人かに絞り込めた。うちの騎士団の数名が現場に居た他に、何故か平民も二人居たらしい。
教会関係者ではないようだが……それら数名の身辺調査の報告書な。」
アレスから報告書を受け取り、目を通す。
「年齢もバラバラですね。生まれ育った場所や住んでいた場所に接点もない……と。教会が信仰する神の熱心な信者でもない。仕事先も関連性がない。
これは接点が無さすぎるな。
どの接点があってそこに居たんでしょうね。」
違和感を感じる内容にシュヴァリエが顔を顰める。
「裏稼業の者かもな。」
アレスがぽつりと口にする。
「徹底した情報の隠蔽がなされていなければ、ここまで接点のない者たちがそこにいるのも違和感がある。ある程度の情報を出してるが接点を作る事を失念するのもおかしい。何かに誘導する為か」
「拘束し尋問したい所だが、それもアレに気取られては拙い。」
「先ずはこちら側の騎士から情報入手ですか。」
「自治権を持つ教会側の人間が大っぴらに動く時は、こちら側も警戒して監視役として帝国の騎士が付けられる。それでその場に騎士が数名居た理由だろうが……。
そもそも枢機卿がその地に赴くに何を理由にしたかと確認してみたが、布教活動の一環でその土地を訪れたいと嘆願書に書いて上奏したらしい。そう報告書には記載されていた。しかし……その場所は布教する人間がいるような土地ではない。そもそも人が住んでいない。」
「そんな場所への立ち入りに許可を出せたのですか?」
「兄が出したようだ。前皇帝である愚かな兄は、金さえ積めば確認する事なく許可を出してたいたからな。
枢機卿の嘆願書は枢機卿がツテを使って直接兄に届けられたようだ。
私に露見し握りつぶされるのを懸念したのだろうアレも。
我が帝国の領土で犯罪者が何でもやりたい放題だ。
兄は私が止めようと諫めようと一度も訊き入れてくれたことはなかった。」
「……簡単にその姿が想像がつくのが嫌になる。」
シュヴァリエは心底嫌悪するような顔で吐き捨てた。
「まったくだ。」
「現場に居た騎士と話をする為にこの後時間を取ってある。
対面するにしてもこちらの場所では目立つ。
これから騎士団総長の執務室に向かって、そちらで話す予定だ。」
「分かりました。変装とかではなくこのままで移動しますか?」
「騎士団長の定期報告を訊く為に行くだけとしてるからな。いつもは来て貰うが今回は別件もあってという話で行くから変装は必要ない。」
シュヴァリエとアレスはヴァイデンライヒ騎士団がある棟に向かった。
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